12 彼女と彼の、落書き事情 其の三
核がございます。
いわゆる、中心。
素体となります、その正体。
実はあなた、スライムたんの種が存在するのでございますよ。
―― ご承知いただけましたか?
「いつ、審寿の間に入った!」
「ご友人さま、それはやばいです!」
ラ―くんの赤銅色は、怒りでほどよく真っ赤になっていました。
ジェムっちの場合は、真っ青。髪の毛よりも眼の色に似通った顔色でした。
「―― いつって…。 だいぶ前からだけどー?」
なにかおかしい?
怒りと恐怖でセットで売り出すべきかと思います、この二人の今の表情。
何をいまさら怒られることがあるのかと本気で疑問な京香であった。
「あそこは、魔王城における聖域だ! 仮にも世界の浄化作用の一つであるスライムたちの母体樹を管理する場所だぞ!!」
管理者たちは、何をしているんだ!!
ラ―くんお怒り警報発令。
そのうち、火を吐き出しそうで怖いですね。
まあ、彼は常にその口から毒を吐き出しますので、今さらですけども。(暴言とか暴言とか蔑みとかツンツンとか)
「そうですよ、ご友人さま! あそこは管理者の葉陰の一族以外は、出入りは禁じられてます!」
本気でいつのまに入ったんですか、このトラベルメイカー娘は!!
真っ青に成りながらの説明乙! ジェムっち。
つうか、さりげなく人のことをトラベルメイカー呼ぶな、いじめるぞMっちめ。
「出入りの許可ならちゃんと貰ったよー? ミサルガ婆ちゃんに」
ほら、証拠の婆ちゃんの鱗印。
虹色の鱗を一枚見せました。
ミサルガ婆ちゃんは、葉陰の一族の統括者。
といっても、婆ちゃん自身は人魚族ですけども。
虹色の泉を拠点とする人魚族ですが、世界の幾つかの場所にある審寿の間を管理する一族の役目を担い、このような魔王城などという辺境くんだりまで単身赴任してきているのがミサルガ婆ちゃんその人である。
婆ちゃん、すげえ根性っす。
「…む、これは確かに人魚族の鱗印」
「……なにがありましたか、ミサルガさま」
どんなトラブルがあったんですか。
遠い目で彼方に答えを聞くなよ、ジェムっち。
なんだか友情の在り処について問い詰めたくなるから。
そこに出現したのは、ただの偶然だった。
たまたま、魔方陣と封印と、唯一聖水を還流させるその場所へ、京香は現れてしまっただけだったのだ。
水と緑と、―― 土の生きている匂いのあふれる場所。
それから。
「侵入者だ!」
「伏せろ、呪爆をぶつける!」
小さな小さな親指ほどの人たちがいた。
「…わーお、妖精?」
いかにも京香を敵とみなして反応している彼等に対して、どう対応するべきか悩んでいた時だった。
「―― やめなさい、子らよ。彼女には、魔王の守護が見える。――― 噂の《ご友人さま》だね? 」
少ししわがれた声。
振り向いたその場所には、長く伸びた緑の髪を水流に浸した人魚がいた。
虹色に輝く鱗。
黒目がちのその眼。
――― 水かきのついた指と、その耳。
「……噂なんですか? あたしって」
第一声がそれだった京香に対して品よく笑って見せたのは、ミサルガ=琉=ラド。
虹の泉出身の、聖なる一族の一人。
覚書
ミサンガ=琉=ラド。
人魚族。琉は人魚族限局性発音語。
他の一族には発音不可。
浸音。
名前を聞いた京香が当て字しました。