表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と過ごす日常的な非日常  作者: こころ 
阿《ぱっくり》・吽《ぴったり》
10/98

10 彼女と彼の、落書き事情  其の一



 久しぶりに、実家から電話が来た。

 近況を話すこと、主に2時間。

 おかあたま、近所のお庭に咲いた花の名前は別に知りたくはないよ。

 あたしが夏に帰省する頃には、確実に別の花が咲いてることだろうから。


「京香ちゃんも、たまには運動がてら散歩するといいわよー」


 職場の友人とダイエットがてら周囲を散歩することにしたと告げた母は、そう勧めたあと電話を切った。

 

「………」


 じっと見つめた通話時間の表示。


「おかあたま。―― いくらなんでも、3時間52分は長くないか? 」


 語りだすと止まらない母からの愛のお知らせはたまに京香の趣味時間と睡眠時間を削ってくださる。

 こちらからは電話を切らない一人暮らしの娘は、親孝行と称してもいいと思う。


「散歩か。――― 誰と行こうかな」


 先日、体重計に乗って悲鳴を上げた京香は異世界へ出発した。


 今日の遭遇者はだれであろうか。









「あっるっこ――あっるっこ―ー、わったっしっはー、元っ気いいいいいい」

 鬱蒼とした林の中、明るい歌声が響いております。

 365歩のマーチとどちらにしようかと悩んだ結果、おたくとしての属性を優先した次第です。

 でも思うんだけどさ―、ジ●リととサマ―●ォーズは普通に名作だと思うんだ。

 ―― 語る内容そのものが一般人の考えじゃないというのか? …否定しづらいな。 


「ご友人さま、楽しいの?」

「楽しくないから、せめて歌ってる」

「―― そうですか」

 

 ちなみに、声をかけてきたのはMっちこと、ジェムっちである。

 厨の主人である彼は己をMだと呼ばれると頑なに否定する。

 だが、知る人はみな彼はMだろうと言います。


「そろそろ、ジェムっちは自分を理解するといいと思います! 」

「なんの話!!? いま前ふりない発言してきましたよね、ご友人さま!! 」

 せめて、前後の会話から推測できる発言してくださいよ!


 人生フリーダム推奨!

 そんな京香は、ジェムっちの突っ込みは華麗にスル―した。


「ラ―くんも思わないかい? ジェムっちはMだってことを自己理解するべきじゃないかと」

「…ラ―くんはよせ。まあ、下僕がMなことは当たり前だろう。だからこその下僕だ」

「 …マスター、今日もSですね」

 ふふふ、ふふふ、下僕じゃないですただのサーバントです俺。


 壊れた笑みを浮かべるジェムっち。

 京香はそれを確認したのち、頭上のドラゴンに言い放った。


「グッジョブ! さすがはドのつくS属性ドラゴン!!」

「何を言う、京香。―― これしきのことがSであるものか」


 下僕いじめはこれからだ。


 にやりと笑うチビっこ竜(本人に言うと殺されますので禁句)は、間違いなく光り輝いていた。

 




「しかし、鬱だわー」

 なんともいえないこの陰鬱さ。

 さすが、魔王城近辺。

「…近辺散歩するから話相手に成れとか言ってきたのは、おまえじゃなかったか? 」

 頭上のラ―くんが突っ込んできた。

「ええそうですよー。だって一人だと迷子になるの確実だったしねー」

 京香は、ぐるぐると回る磁石を差し出してみせた。

 ちなみに、これは地球産ではない。

 手先が器用なドワーフのおっちゃんと、研究者肌の蛇牙族のミニーくんが共同作成したものだ。

 もっとも、この磁石がまともに機能してるところを見たことは京香にはない。

 おもに、京香が訪れる場所が磁力に満ちた極界に準じた場所ばかりだからだというのがその理由だが。


「…律儀に、役にも立たんものを持ちあるいとるのか」

 ただのゴミでしかないだろうに。


「……行く先々の子守のときには役立つんだよー?」

 

 ―― すっげー、めちゃくちゃ意味なくねーか、これ?


 このまえ遊びに行ったホビット族のちびたちにすごい不思議そうな眼で見られた。

 連中は、ぐるぐると回り続ける磁石を見、そしてそれを常備している京香を見て、凄い変なモノを見たという驚きの表情を浮かべてみせたものだ。

 …え? 見下されてただけ?


 … 気にしたら負けだ!! 



「…あいかわらずだな」


 ラ―くんが凄い生温かい声音で、言ってきた。


 ―― 頭上から見下ろされた、だと…?


 位置と心情の両方で、ヴィラ―ド=オークス(敬称;竜王)の方が全てにおいて上だった。

 ちなみに、チビっこ竜のくせして相手は127歳だ。

 ―― 年齢までもが奴のほうが上だった。


「――― 若さだけは、負けてないんだからなああああ! 」


 ぽい!


 頭上に乗ってたラ―くんを頭上に放り投げて、京香は走り出した。

 穢土と呼ばれる土の上は走りにくいです。


 そして、京香はしっかりと滑って転んだ。


 ぶよん。


 という効果音のような音とともに。







 ちなみに。

 蛇足までにいうのならば。


 頭上に放り投げられたラ―くんことドS竜王は空中を一回転した後、あわてて己の主を受けとめようとした自分のサーバントの後頭部にしっかりと着地した。

 げし! という音もした。


「…避けることもできんのか、このMな役立たずは」

「―― ひどいですマスター! そして俺はMじゃありませええええええん!」


 ジェムっちことジェールム=コーク(竜王の調理人)が、たまに京香からMっちと呼ばれる理由を、この会話からご理解いただけたならとても有難い。







 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ