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魔王城 勇者録 ~何も起きないので困っています~  作者: 叶詩


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4/4

勇者は、ルールという概念に殴られる

勇者は、魔王と対峙するためにここまで来た。

剣を抜き、叫び、運命をぶつけるために。


物語なら、ここで音楽が鳴る。

宿命が動き、善と悪が向き合う。


だがこの城では、

戦いより先に確認されるものがある。


それは覚悟でも、正義でもない。


――手続きである。


これは、

勇者が初めて

「世界は戦う前に並ばせる」という現実を知った日の記録である。

ついに、ここまで来た。


魔王城・最奥。

長い廊下の先に立ちはだかる、分厚い扉。

装飾は禍々しく、触れれば呪われそうで、

いかにも「ここが最終地点です」と言わんばかりの威圧感。


(間違いない)


俺は一度、深く息を吸った。

胸の奥で、何かが熱を持ってうずく。


(ここだ)


(ここで、物語は動く)


剣に手をかける。

名乗る言葉も、倒す覚悟も、すでに用意してきた。


扉は――

思ったより軽く、あっさりと開いた。


「失礼します」


中から聞こえた声に、拍子抜けする。


そこにあったのは、

戦場ではなく、会議室だった。


長机。

山積みの資料。

疲れ切った顔の幹部たち。


そして、中央の席に座る魔王。


禍々しさはある。

威厳も、確かにある。


だがそれ以上に、

「忙しそう」という印象が勝っていた。


「……勇者か」


魔王は顔を上げ、こちらを見た。

その視線には、敵意よりも確認の色が強い。


「すまないが、今忙しい」


(忙しい???)


耳を疑った。


「会議中だ。要件は後にしてくれ」


(待て)


(今、何て言った)


「魔王!」


思わず一歩、前に出る。


「覚悟しろ! 俺は勇者だ! 今ここで――」


「今ここで何だ?」


魔王の声は、落ち着いている。


「お前を倒す!」


会議室が、一瞬だけ静まった。

幹部たちの視線が、一斉にこちらに集まる。


魔王は、短く息を吐いた。


「討伐は、今期の議題には入っていない」


(議題!?)


「だが俺は戦うために来た!」


「そう言われてもな」


魔王は机の資料を、指で軽く叩いた。


「今は“平和対応優先期間”だ」


(知らん!!!)


世界の都合など、聞きに来たわけじゃない。


剣を抜く。

金属音が、会議室に響いた。


(今だ)


(ここで動かなければ、俺は――)


一歩、踏み出した瞬間。


「止まってください」


背後から、驚くほど冷静な声がした。


次の瞬間、肩をがっしり掴まれる。


「……え?」


振り向くと、受付係が立っていた。

表情は変わらない。

声も、いつも通りだ。


「手続きを済ませてから挑んでください」


「……は?」


「魔王討伐には、事前申請が必要です」


(手続き????)


「順番もあります」


(順番!?)


「ルールを守りなさい」


(ルールとは!?!?)


頭の中で、何かが弾ける。


(勇者に!?)


(今!?)


(このタイミングで!?)


受付係は、当然のように俺を引っ張った。


「こちらへ」


「ちょ、待て、魔王!?」


「後でな」


魔王は、すでに資料に視線を戻していた。


(無視された……)


(魔王に……無視された……)


机に通される。

書類が置かれる。


「氏名」


「勇者だ!」


「通称ではなく」


(通称!?)


「目的」


「魔王討伐!」


「動機」


「世界のため!」


「具体的に」


(具体的に!?!?)


ペンを渡される。


(俺、今、何してる……?)


(剣、腰にあるよな……?)


(さっきまで戦闘態勢だったよな……?)


「次に」


受付係は淡々と続ける。


「暴力行為に関する同意書です」


「暴力行為!?」


「城内では制限があります」


(城内規則!?)


「署名を」


震える手で、名前を書く。


(勇者、署名してる)


(勇者、同意書書いてる)


「はい、完了です」


「……これで戦えるのか?」


「いえ」


(いえ!?)


「審査があります」


「どれくらい?」


「未定です」


勇者は、ゆっくりと天井を見上げた。


(世界……)


(俺は、ちゃんと勇者をやってるのか……?)


会議室の奥では、

相変わらず議論が続いている。


魔王は動かない。

世界も、急がない。


受付係が、最後に告げた。


「今日はここまでです」


「……今日は?」


「またお越しください」


剣を、鞘に戻す。


胸の奥に、妙な感情が残っていた。


(負けた気がする)


(でも、逃げたわけじゃない)


城の外に出ると、風が吹いた。


世界は、相変わらずだった。


何も解決していない。

何も決まっていない。


だが――


(俺は、ここに来た)


(そして、次も来る)


勇者は歩き出す。


戦いは、まだ始まっていない。


――だからこそ、

この物語は、ここで終わることができた。


魔王城 勇者録・完

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