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ヤンデレ辺境伯は年の離れた養い子に恋着する  作者: 鷹槻れん
5.あの林檎の木のもとへ
7/9

追放

「この瞬間をもって、ウールウォード伯爵家の継承権はリリアンナ嬢が正式に掌握する。……以後、この屋敷と領地は彼女の名のもとに置かれる。あなた方の居場所は、もうどこにもない!」


 その言葉に、ダーレンたちの顔から血の気が引いた。


 しばしの沈黙ののち、妻のエダにつつかれたダーレンが、ちらりと娘のダフネを見遣る。ダフネから泣きそうな目で訴えかけられたダーレンが震える手を挙げ、何かを訴えようと口を開くより早く、ランディリックの低く鋭い声が空気を裂く。


「……せめてお嬢さんにだけでも情状酌量をとでも求めようと思いましたか? ご自分たちが年端もいかぬリリアンナ嬢にしてきたことを棚に上げて……恥ずかしいとは思わないのですか。少女だからといって、赦されるなどと思わないでいただきたい」


 その一言に、こちらを縋るような目で見詰めていたダフネがビクリと肩を震わせる。だが、すぐさまメソメソと泣いていたのが嘘のようにキッとランディリックを睨みつけた。


「リリアンナお義姉(ねえ)さまは私が酷い目に遭うって言われてるのに、なんとも思わないの!? 自分だけが良ければいいなんて……まるで悪魔ね!」


 だが鋭い刃のように投げつけられたダフネの言葉は、ランディリックではなく、リリアンナに向けられたものだった。

 今までも虐げられ続けてきたからだろうか。ランディリックの腕の中で、リリアンナがビクッと身体を震わせる。


 ダフネのその理不尽な言いように、ランディリックの怒りが静かに燃え上がった。

 腕の中のリリアンナを見れば、彼女が両親を失ってからの約二年間、誰からも手を差し伸べられず、屋敷内で孤立無援だったのは明白だ。

 痩せこけた身体、血色の悪い顔。かつて船上でランディリックに大人の女性顔負けの物言いをしてきた幼子(おさなご)は、年相応に栄養バランスの取れたふくふくした身体つきをした、バラ色のほっぺを持つ健康的な少女だった。

 その記憶があるからこそ、今のリリアンナの姿がランディリックには居た堪れないのだ。

 もしも目の前の娘が、少しでも〝義姉(あね)〟と呼んでいるリリアンナのことを気遣ってくれるようなタイプだったなら……ここまでリリアンナの容貌が変わっていることはなかっただろう。


「お前は自ら望んで両親がリリアンナ嬢をいじめるのに加担してきたのだろう? リリアンナ嬢を嘲り、虐げ、その痛みを笑っていたはずだ」

「そんなのっ」

「リリアンナ嬢がなにも言わなくても、彼女の様子を見れば一目瞭然だ。弁解の余地はない」


 ランディリックの声音は、決して荒々しくはなかった。だが、それが逆に重い冷気のように、屋敷中を凍てつかせた。


「以後、あなた方三名は拘束の上、王都エスパハレの中央審問局へ引き渡します。事実関係の確認が済むまでは、屋敷の外への一切の連絡も、移動も禁じます」


 恐怖に打ちひしがれたように、エダが声にならない声で「そんな……」とつぶやいた。先ほどまで威勢の良かったダフネも青ざめ、目を見開いて固まっている。

 そんな妻子の背後。未練がましい様子でランディリックの腕の中のリリアンナに縋るような視線を向けているダーレンを見て、ランディリックはその視線からリリアンナを隠すようにマントの下へ包み込んだ。


「ダーレン・アトキン・ウールウォード。貴殿には口にするのも(はばか)られるような罪が付加されることをお忘れなきよう」


 ランディリックの声に、リリアンナがギュッと身体をちぢこめたのを感じながら、これ以上この話題をこの場で掘り下げるのは得策ではないと思ったランディリックは、配下の者たちへ目配せをする。


「――うちの者を見張りとして残すが、最低限の礼節として、殺しはしません。しかし、それ以上の寛容を期待なさることはなきよう」


 リリアンナを両腕で支えたまま、背を向けるランディリックの背中には、一切の情けはなかった。



***



「終わったか」


 リリアンナを両腕で包み込むようにして立ち尽くすランディリックの傍へ、ひとりの男が歩み寄ってくる。黒髪に、濃い金色の瞳を湛えた男――ウィリアム・リー・ペインだった。


 穏やかな面差しに似合わぬ鋭い眼差しが、なおも震えているダーレンたちを静かに射抜く。騎士団の礼装を身に纏ってはいるが、どこか優しげな空気を纏った青年だ。


「……まさかあれほどの偽証を、平然と口にするとは思ってなかったよ」

 そのウィリアムが、低く絞るような声で呆れたように言うのだ。彼からも、ランディリック同様凍てつくような怒気が滲み出ているにもかかわらず口調はあくまでも冷静で、それがまた不気味なほどだった。

 吐息交じりに告げられたウィリアムの声音に、ランディリックが諦観混じりに返す。

「……わかっていたことだろう。キミからの書簡を読んだときから、僕はこの屋敷に理屈は通じないと覚悟していたよ」

「それでも、()の当たりにすると呆れてものも言えないな……」

 そう吐き捨てるように言ったウィリアムの視線は、エダとダーレン、そしてその娘のダフネへと向けられている。

 彼の眼差しにもまた、ランディリックと同じように容赦はなかった。

『ヤン辺』は毎週土曜日の午前0時に更新予定です。

感想など頂けるととっても嬉しいです。

よろしくお願いしますm(_ _)m

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