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取り調べ

 翌朝、セツはいつも通り、朱雀に付きそう形で朝議に参加した。わずかに慣れてきた、従者としての暮らし。それでも、目がくらんでしまうほどにくらんで見えていた朱雀の後ろ姿が、わずかにくすんで見えた。いや、くすんだのではない。やっと、等身大の彼の姿を捉えられたような気がしたのかもしれない。

「さあ、皆さん、朝議を始めましょう」

朝議の内容はもっぱら、昨日到着をした玄武国からの移民の件だった。朱雀は活き活きとした目で支援方法について語っている。

 苦しんでいる方をそのままにはしておけない性格の神獣。

 その言葉は確かに間違っていないと思う。朱雀のことは、ヒショウのことは、他の誰にも引け目をとらないくらい知っているつもりだ。彼が、民の救済のために尽力していて、そこに黒い渦のような者がないことはわかっている。それでも、なぜだろうか。彼のことが、心配でたまらないのだ。

「では、本日はこれで」

朱雀が号令をかけると、朱雀に命じられた仕事をこなすために外交官達はそそくさと出て行った。なにか伝言をつげると、ミズキも先に出て行ってしまう。朱雀も、ホトを送ろうと席を浮かせたが、その時ホトから声がかかった。

「待ち給え。もう少し、話をしないかい?」

「ホト様、いつもの話であれば執務室にお戻りになってからでも」

「いやいや。その話じゃなくてね、私がしたいのは」

「私はパスだ。やることがあるからな」

そうホトの言葉を遮るようにして言ったのは、ツグミである。言うが早いか立ち上がると、ホトの背後を回って朱雀の方に来た。何を言うつもりだろうか、とセツが首を傾けていると、彼女の真の狙いは自分だったようだ。有無を言わせず襟を握り引きずられてやっと思い出した。そうか。今日は、ツグミから事情聴取を受けることになっていたんだった。

「会議の内容についてはあとで白虎から聞く。朱雀、こいつは借りるぞ。まあ、場合によっては返せないかもしれないがな」

「ちょっと待ってください!」

慌てた様子で朱雀がセツの腕をつかんだ。思いのほか強い力で引かれ、ぐっ、とセツの体が悲鳴を上げる。

「取り調べには、私も同行すると言いましたよね。あなたが出て行くのは勝手ですが、彼の取り調べを後に回すことはできないのですか?それともあなたは、やるべきことの優先順位もわからないような、お飾りの頭しか持っていないのでしょうか」

「貴様こそ、どうなんだ。こいつは、王を殺そうとした大罪人だ。王の温情で今はこうして命をつないでいるが、こいつが後に災いの種になる可能性が高いことは否めないだろ。なら、その芽は今のうちに摘んでおくべきだ」

二人の間に静かに火花が飛ぶ。

「私としてもセツ君には、ここにのこってほしいな。ねえ、ホト様」

助け船を出したのは、青龍だった。

「ああ。それに、今からするのはセツ君にもかかわる話でね」

「なんにせよ、私は貴様らの酔狂には付き合ってられん。こいつと話したいのなら、後日にしろ。私が今日は先約だ。じゃあな」

ツグミは早口でそう言うと、軽く剣を抜いて朱雀の腕と糸を払いのけると、そのままセツをつれて出て行った。

「あーあ、行っちゃった」

呑気な様子でホトが言うと、それに玄武も笑って答える。

「アイツを追いかけます」

殺気だった様子で朱雀が言うと、二人はそれを制した。

「いいよ。まあ、あの子にかかわる話とはいえ、本人がいなくても問題は無い。まだ、ね」

ホトに言われ、朱雀は思わず口を閉じる。言われずとも、ホトが話そうとしている琴については検討がついている。殺気はとっさにツグミを引き留めてしまったが、実を言えば朱雀からすればセツには聞かれたくない話であったのだ。

「朱雀、セツは明日は何か予定があるのかな?」

「明日、ですか?いえ、特には。私がいろいろ仕事を教えるつもりではいますが」

「なら、その勉強の息抜きにでも、あのこを誘おう。頃合いをみて、ミズキをそちらに送るから」

「では、あとで彼にも聞いて見ます」

「その必要は無い。セツ君はきっと期待と言うだろうから。わざわざ使いを送って貰うだけ大変だろ」

「……そうですか。お気遣い、ありがとうございます」

朱雀は言い返すことはしなかった。

「あの、ホト様、それで、話というのは」

「朱雀君、そんなに焦らないでくれ給え。まあまあ、座って」

ホトはのんびりとした口調で言うが、朱雀は緊張したような面持ちで席に座る。それがおかしかったのか、ホトは笑いをかみ殺すようにして口を開いた。

「昨日、セツ君について、青龍から面白い報告を受けたのだよ」

朱雀は眉をピクリと動かして青龍の方を見た。

「昨日、ミズキと船内であったのだろ?その時の話を、私もミズキから聞いたのだ。そのとき朱雀は詳細を語る暇も無いぐらい忙しそうに、まるで、自分を避けるようにして行ってしまったと、ミズキにいわれてねな。それほど仕事に追われているのなら、ホト様への報告も後回しにせざるを得ないかもしれないと思って、私が代わりにやっておいただ。とひあえ、又聞きの又聞きになってしまうから、いくらミズキを信用しているとはいえ、君に直接聞くのが鮮明だろうと思ってね」

朱雀は驚いたように芽を開いたまま、呼吸を詰まらせた。まさかミズキがそんなことをするとは思っていなかった。あの場はうまく切り抜けたつもりだったが、さすが青龍の腹心だけあって優秀だ。

「と、いうわけだ。いろいろ聞きたいことあるんだけど、そうだな、まず――」


 ツグミに引きづられながら連れてこられたのは、軍部の奥にある、取調室だった。とはいえ、部屋の中にいるのはツグミとセツの二人のみ。外にも声が漏れず、人払いは完全に済ましているらしい。完全に二人きりの空間であるので。セツも猫をかぶる必要は無いと、かぶっていた哀れな罪人の皮を躊躇無くはいだ。

「思っていたより早かったな。こんなにはやくこっちの要求をのんでくれるってことは、少しでも罪悪感感じてるってことだよな」

「時間の無駄だ。貴様はせいぜい私に感謝をして、この場を有効に使え」

ツグミは吐き捨てるように言うと、腕をくんでセツをにらみつけた。

「はいはい、わかりましたよ」

セツはヘラリと笑って大きくため息をつくと、机に頬杖をつき、視線でツグミを射貫いた。

「ききてえことは大量にある。だが、俺がいっちばん聞きてえことなんて、白虎様にはおき通しだろ」

ふっと、笑うと、セツはゆっくりとその重い口を開いた。

「朱雀の、ヒショウの、記憶はどこまである。アイツは本当に、俺のことを忘れちまったのか」

その声は、低く、うなるようなものだった。しかし、ツグミにはわかる。その底に隠された、底が見えないほどに深い悲しみと恐怖が。それでも、気がつかない振りをして頭に浮かんできた言葉を声に乗せていく。

「先にことわっておくが、私ではアイツの中のことはわからない。神獣同士は干渉しきれないのだ。そのことは、了承してほしい」

「御託は良い。さっさと言え」

「私が見ていた限り、アイツは、貴様に再会するまで、つまり、ほんの数日前まで、貴様のことを完全に忘れていたのだと思う。アイツお得意の、都合が悪いことは忘れる、名人芸だ。だが、貴様と会ってから、明らかにアイツの態度はおかしい。貴様に会って、おそらくはアイツの修復能力が貴様を忘れているままでいる方がアイツに良くないと判断したのだろうな。なぜかは……私にもわからない。貴様に、アイツの残滓があって、その性なのかもしれない。貴様をまるで囲うようにして、特別視しているのは明らかで、露骨過ぎるほどだ。無意識なのかもしれないが、それでも貴様への執着は確実に思い出している」

「そう、か……」

セツはほっと息をはいた。

 まて、今のは何のため息だ。ほしい答えを貰って、俺は安心したのか?それとも、納得した?

 まだ、何も解決していないというのに。

 セツはもう一度、口を覚悟を決めるように口を一文字に閉じて、木を引き締め直す。

「そう、か。忘れ、ちまっていたが、思い出したんだな、俺のお陰で。俺の、お陰で、アイツは」

「まあ、貴様のせいとも言えるかもしれないがな」

ツグミはセツの思考をたたき切るようにして言った。

「どういうことだ」

「貴様もわかっているだろ。初めこそアイツは、貴様を煙たがり家に返し、避けようとした。当然だ。アイツは元々、貴様を自分から放そうとしていたのだから。幸せな人生を歩んでほしい、だったか?貴様が自分の手でぶち壊したアイツの夢を、かなえさせようとしていたんだろう」

とげを持ったようなツグミの言葉にセツは顔をしかめる。だが、そう攻められても、セツは意見を変える気はない。彼にとっては、幸せな人生はヒショウと歩むべき者なのだ。

「だが、いざ貴様がここに来てしまうと、アイツはとてつもない執着を貴様に見せて、貴様を独占している。家に帰す気は、アイツにあるのか?私には、貴様が執着している以上に、アイツが貴様に執着しているようにしか見えない。特に、今朝はそれがひどかった。貴様、アイツに何か疑いを持っているんだろ。貴様達の間に何があった。聞かせてみろ」

セツは、軽く息を吸い込むと、そのまま少しうつむいた。

「朱雀が……いや、ヒショウが俺に目をかけて暮れる理由なんて、簡単だ。あの方が、玄武様が、俺のことを頼んだから。俺の人生をアイツに委ねたから」

出た声が自分でも驚くほど寂しく響いた。

「昨日わかったんだが、俺には裂け目を見る朱雀様の能力がどうやらまだ残っているみたいなんだ。それも相まって、アイツは確実に俺を玄武様達に重ねてみている。アイツの狂信ぶりは、お前も知っているだろ。アイツは多分、俺を、いや、玄武様もどきを、もう失いたくないんだ。俺の力がわかってから、アイツはやっと俺の言葉を、聞いてくれるようになったし、アイツ自身に触れさせてくれたんだ。全部、玄武様のお陰、いや、なんでだろ。玄武様の、せいって、言いたくなっちまう」

 昨日は、この力があることに歓喜をした。この力があれば、朱雀の薬に少しでも立つことが出来る。彼の隣で生きることが揺るされるような気がしたから。それでも、玄武に対する執着が垣間見え、ひいきなしで考えれば、自分が突然重宝された理由はどう考えてもあの力だ。

 今となっては、玄武様が、ほんの少し恨めしい。

 いやでも、ヒショウの視線は自分を透過して玄武に向いているのだと思わざるを得ないから。もっと、自分を見てほしいと思ってしまうから。こうなるのなら、いつまでも記憶の中のヒショウでいてほしいと思ってしまうから。


「まず、あの場所で裂け目がまた生まれたそうだね」

ホトの言葉に、ヒショウはひとまず胸をなで下ろした。まだ、大丈夫、まだ、気がつかれてはいない。

「はい。玄武国からここに来るまで、やはりあの船という閉鎖空間ではどうしても心が荒んでしまうことがあるようです。幸い、裂け目の作り主の方の治療は終わっていますので、これ以上裂け目が広がることはないはずです」

「船の整備に関しては、こちらでも検討してみよう。移民達に話を聞いて、どこが改善できるかを検討してみよう」

「よろしくお願いします」

朱雀が頭を下げたのも束の間、再びホトが口を開いた。

「船の改善ね。なるほど」

含みのあるような言い方に、朱雀は思わず首を捻る。

「なにか?」

「いや、よく裂け目が生じた原因が船にあるってわかったなって思ってね」

「……」

「玄武国に裂け目があるのかなって私は思ってしまっていたよ。なるほど。盲点だった」

「いえ、私の方こそ考えが足りていませんでした。たしかいん、玄武国で裂け目を作ってここまで来てしまった可能性もありますね」

「あれ?だが、ミズキからはその患者は全快したと聞きいたが。話に寄れば、裂け目の被害者を全快させるには、朱雀の治療だけではなく、裂け目を塞ぐ必要があるときいた。全快したと言うことは、裂け目も塞いだものだとおもっていた。ミズキが言うには、君たちは人払いをして船内の一室を封鎖し、そこで何かしたあとではしって治療しに行っていたと聞いていたから」

 全て、ばれているのか。

 朱雀は観念したようにため息をつく。これ以上隠していても、逆に怪しまれるだけだ。セツ本人も気がついていないであろうあの事実を勘付かれるぐらいなら、ここで手を打った方が、良い。

「彼は、セツは、信頼するにたる人物ではありません。なにせアイツが罪人出ると言うことは否めない事実ですから。嘘を仮にセツがついていた場合、混乱させてはいけないと報告を怠っておりました。お許しください」

「かまわないよ。とりあえず、話してみて」

「セツは、裂け目が見えるそうです。本人曰く、かつて玄武様に器にされていた名残だと。彼には裂け目を塞ぐ能力があるそうなので、やらせてみたところ、今回の結果となりました」

「なるほどね」

「つまり、セツ君は嘘をついていなかったと言うことになるのか」

「真偽ははかりかねます。なにせ、私には、彼が主張しているような記憶はございませんので。何かしらの細工をしているだけかも」

「どちらにせよ、俄然セツ君には興味しか湧かないな。やはり、一度ちゃんと合って話してみないと」

「おやめくださいと、何度言えばわかってくださるのですか!」

「朱雀は心配性だな」

「ホト様の身に何かあってはいけないので」

朱雀は荒ぶる心を押さえ込む。ホトにセツを近づけるわけにはいかない。絶対に。

「とにかく、真偽のほどは今後私がしかと判断します。ただ、あの場所に裂け目の被害者が多いことは事実ですし、今回のようなことが再び出来れば有益であることに違いはありません。そのため、今後も私とセツでこの件については対処していきます」

「ああ。かまわないよ。あの場所については、君に一任しているからね。一日でも早い、玄武国の復興のためにも」


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