朝議
セツが目覚めたとき、朱雀は昨晩と変わらぬ姿で執務机に頬杖をついていた。
「おはよう」
「おはようございます」
軽い挨拶を交わすと朱雀は早速仕事の話を始める。真剣に聞いている風を装って流し聞きをしながら、セツは考える。そっと寝台の右側に触れれば、冷たい。朱雀が起きてからずいぶんと時間がたつのか……。いや、どうせ眠っていないのだろう。そんなことだろうとは思っていた。昨日一日でかなり距離を詰められた気はしたが、それでもまだ完全に信用されるには至っていない。
まだまだだ。
セツは己に気合いを入れ直す。そして今日もまた、ヒショウ奪還の為の作戦を講じるのであった。
「セツ、良いですか。今朝の朝議では、私の後ろに控えているだけで良いですから。くれぐれも、いつものように妄言を吐かないでくださいよ」
ひとけがある廊下に行き当たるまで、朱雀は念入りに何度もセツに言い聞かせる。
「わかっておりますよ、朱雀様」
セツはすでに猫をかぶって答えたが、朱雀はうさんくさそうに見てくる。こうしろと言ったのは朱雀のはずなのだが、とセツは胸の中で愚痴をこぼしつつ、他愛もないふれあいをかみしめた。
「朱雀様、おはようございます」
朝議をする部屋につくと、扉の前に立っていた文官が扉を開く。目の前に広がったのは、窓に囲まれた開放的な空間の中央に置かれた円卓だった。空を飛ぶ鳥の影が部屋の中を滑っていく。射し込む朝日が、部屋の雰囲気を爽やかにしていた。
こういう、面倒くさい話をする場所の印象は、セツにとっては南都の宴が催されていた場所の印象しかない。てっきりもっと陰鬱で閉鎖的な空間を想定していただけに、セツはあっけにとられて部屋を見回す。
部屋の中にはすでに、複数人の人物がいた。昨日見た顔ぶれだからわかる。四人、円卓にすでに座っているのは、各都の外交官達だ。そして、ツグミもまた、鎧に身を包んだまま腕を組んで一人静かに席に着いている。今のところ席に着いているのは五人。しかし、他にもあと三席用意されている所を見ると、朱雀、青龍、そして、ホトのものなのだろう。
こちらの視線に気がついたのだろう。ふと、ツグミと目が合った。ツグミの視線はすぐに、朱雀の方へ流れるように動き、にらみに変わる。ツグミが立ち上がりそうなそぶりを見せると、朱雀はあからさまに嫌そうな顔をした。
「面倒なのが来そうですね」
「おい、聞こえているぞ」
ツグミの声は、すでに苛合っている。
「まあ、落ち着いて。座っていてください。僕も今はあなたにかまっている暇はないですし。それに、別に、あなたのことだとは言っておりませんが」
朱雀も負けじと揚げ足を取るように挑発すると、セツの袖を引き、自らの席に案内した。
「私の席はここです。あなたは、私の席の後ろで、ただ、控えているだけでかまいませんので。皆さんとの挨拶も昨日済ませましたし、別段、特別何かをさせることはありません、いいから、ただ、立っていてください。余計なことはしないでくださいね。まして、王と口をきくなど、持っての他ですから]
「了解いたしました。まだこの仕事に慣れていない俺の為に気を遣っていただき、ありがとう存じます」
セツは感動したように胸に手を当て頭を垂れる。朱雀はセツの態度に慣れず、そわそわと視線を動かしたまま、セツに背を向けた。
「それでは私は王を起こして参ります。一度ここを私は離れますが、あなたはここに残っていてください。良いですか。余計なことはしないでくださいよ」
「勿論です」
チラリと振り向いて、満面の笑みを浮かべているセツを確認すると、朱雀はそそくさと部屋を出て行った。取り残されたセツは、ひとまずはきちんと言いつけを守り、静かに朱雀の帰りを待つことにした。大勢の目があるこの環境での詮索も、良策だとは思えなかった。
いずれ朱雀が座るであろう席をボーッと眺めて暇を持て余せていると、ツグミが席から立ち上がったことに気がついた。
「セツ」
その声にわずかに憂いが含まれているように感じて、セツははっと顔を上げる。
「ツグミ様。いかがなされましたか?」
「目障りなアイツ抜きで、貴様と話したいことがある。少し良いか」
ツグミは、何か迷っているような、顔をしていた。確証はない。それでも、セツはすぐにツグミが言わんとしていることを理解した。
「お待ちください。ここでは少し」
セツは短く言うと、四人の外交官達の方を見た。彼らはそれぞれ談笑をしているように見えるが、どこで聞き耳を立てているかはわからない。朱雀との関係や、過去のことについてはしかるべき時まで明らかにすべきではないとセツは考えていた。下手に動いてホトに利用されてしまっては元も子もない上、今のままでは信じてもらえない可能性が高いのだから。
「ツグミ様」
セツは一言断ると、そっとツグミに耳打ちをした。
「近いうちに、どんな些細なことでも良いので俺に仕事を出してください。何なら、俺の取り調べとか、念のための事情聴取とかでもかまわないので」
「了解した。こちらも、貴様に話したいことがあるのだ。朱雀はうまい具合に撒けるようにしておいてやろう」
「ありがとうございます」
ツグミには、かつてヒショウを襲ったという恨みもある。しかし、今までの態度を見れば、今のツグミに悪意や敵意がないのはわかった。時空を超全知たる白虎の力をもつツグミを味方に出来れば、それは大きい。うらみや怒りは後でぶつければ良い。セツには、最優先すべきことがわかっていた。
「では、また」
セツが元の姿勢に戻ろうとすると、
「まて」
とツグミがそれを制した。ちょうどその時、扉から二人の人物が入ってきた。
「皆様、おはようございます」
「みんな、おはよう」
青龍とミズキはおっとりと、しかし、爽やかに挨拶を交わしていく。
「ツグミ、おはよう。それに、セツ君も。朱雀は、ホト様を起こしに行っているようだね」
「ああ。いつもそうだからな」
ツグミと青龍が話しているのを聞いていると、ミズキがセツの方をたたいた。
「おはよう、セツ君」
「ミズキ様。おはようございます」
「朱雀様はお一人で起こしに行ったのか。セツ君はここでお留守番?」
「はい。余計なことはしないように、と釘を刺されてしまいまして」
「そう。ふふっ。朱雀様はお厳しなあ。セツ君はこんなにもちゃんとしているのに」
「そんな。ご謙遜を」
そっと、ミズキの腕がセツの頭に伸びる。そのまま優しくセツの白髪をなでた。
「セツ君が元気そうで良かったよ。昨日は疲れたんじゃないかい?気をはるのにも、疲れるでしょ」
「ええ。でも、昨晩は朱雀様のお陰でぐっすり眠れたので問題はありません」
「そう。朱雀様のお陰で、ね」
ミズキはふっと口元を緩めた。
「そうだ、セツ君。俺たちのところにはいつ遊びに来られそう?」
「そ、そんな。遊びにだなんて。お勉強は、死に行きたいとは思ってはいますが、なにせ俺はまだ朱雀様から仕事をいただくことも出来ていないので」
「焦らなくても良いよ。これからは毎日会うんだ。俺たちはいつでも君を待っているよ」
ミズキはやさしくささやく。
「おい。昼間から他人の部下を口説くな。朱雀に殺されても知らないぞ」
「しょうがないよ、ツグミ。セツ君は、非常に魅力的な才能を持っている。それに、ツグミだって、我々が来たとき、セツ君を口説いていたんじゃないのか?」
「私は、朱雀を負かせる弱みをこいつから聞き出そうとしたのだが、あっけなく振られてしまった」
ツグミはそう言うと、ぐい、とセツを引き寄せた。
「さあ、席に着いたらどうだ。もうすぐ、王が来るはずだぞ」
「ああ。そうだな。ミズキ」
「はい。それじゃあ、セツ君。またね」
ミズキはさっと青龍の前に出ると、朱雀が座るであろう席の斜め前の席をひく。青龍は慣れた様子で優雅に腰掛けた。
「では、私も」
ツグミがどかりと椅子に座るとちょうど、扉がわずかに開き、すました顔の朱雀が姿を現した。
「皆様、お待たせいたしました」
朱雀はそのまま、扉を開くとその横に控える。
「やあ。みんな、おはよー」
間の抜けた声を出して現れた人物を、セツは見ることが出来なかった。見てしまえば、余計なことをしてはいけないという朱雀からの言葉を裏切ることになると思ったから。視線を下げたままのセツをよそに、ホトは朱雀をともなって席に近づく。朱雀が恭しく弾いた席に華麗に座ると、早速肘をついてだらしない姿勢を取った。
「朱雀君、ありがと」
「いえ。滅相もありません」
朱雀はホトの隣、すなわちセツがひいた席に座る。セツには何の声をかけることもなかった。
「それでは、早速本日の朝議を始めさせていただきたいと思います」
朱雀の一声で、王宮の朝は始まった。円卓には八人の人間が座っている。ホトを起点として時計回りに、青龍、ツグミ、四人の外交官、そして、朱雀。
「ではまず、私の方からご報告があります。本日の午後、玄武国からさらに難民の方が到着します」
「警備と人手については問題ない。すでに兵士を派遣して、かれらの居住区用の場所は確保してある。支援物資についても、いま運搬させている所だ」
ツグミが真っ先に声を上げた。
「こちらも、すでに部下を派遣した。前にも派遣した部下達だから、勝手はわかっている。現場での仕切りは彼らだけで十分だろう」
青龍も落ち着いた様子で言った。
「お二方とも、ありがとうございます」
やりとりが慣れているとセツは感じた。昨日朱雀から玄武国からの難民を王都で受け入れていると聞いたが、すでに何度も経験しているのだろう。
「では、今回もよろしくお願いいたします」
朱雀はあくまでも北都の領主として二人に頭を下げた。
「だが、難民の数もなかなか増えてきたな。残っている場所もどんどん手狭になってきているぞ」
「我々の方でも受け入れの調製は引き続き行っていきます」
「しかし、現状我らの都で受け入れる数は限られています」
「ここほどまだ発達していないので。大規模な受け入れにはもう少し月日が必要になるかと」
「とはいえ、近日中には移動をして貰うので、場所の問題につきましては近日中に解決するかと」
「人口が密集するのは、私の経験から言ってあまり良いことだとは思えない。早急に解決してほしい。あそこの隅々まで目を配れているかと言われると、さすがに完全だとは言い切れないな」
「犯罪などは起こらぬよう、あそこの治安は私自身が今まで通り見廻り徹底しています。幸い、目立った犯罪や、病の蔓延も確認できておりませんので、今のところはその点は私の方に任せて置いてください」
「しかし、貴様一人では限界があるだろ」
「では、セツ君を使ってはどうだ?」
青龍がセツの方を見る。
「ほら、セツ君もあんなに目を輝かせているんじゃないか。話に寄れば彼は玄武国出身なようだし、適役だと思うがね」
セツがぶんぶん首を立てに振っていると、振り向いた朱雀ににらまれ、思わず動きを止める。
「さすが、お耳が早いですね」
朱雀は言ったがその声に温かみはなかった。
「しかし、この件については私が対応いたします。セツの処遇については私が決めますので」
口をだすな、その言葉は言わずともひしひしと伝わってきた。
「それもそうだな。だが、難民の件に関しては、こちらからも懸念を挙げておきたい。難民の扶養が財政において占める割合が大きくなってきている。民からの税で集めているこの財源のうち難民の為に用いる分が今よりも膨大になれば、たみからもの不満もさけられない。この件については一体どう考えているんだ?難民受け入れに関してはホト様の碁石でもあるし、俺も賛成しているが、この件についてはどうにかしなければいけないだろう」
「あいつらから税金を取るのはどうだ?」
「だが、その金で我々が政を行えば、玄武国の民にも我々に意見をする権利が生まれてしまう。それを元に朱雀国の祭りをするのはさすがにいただけないな」
「そうですね……。玄武国の難民キャンプ内の経済もかなり発達してきました。彼らへの扶養をもう少し減らしても良いかもしれません。あの中で生活扶助を行えるような仕組みを確立するか」
「だが、それではまるでここに玄武国が出来てしまうようだな。まるで、侵略だ」
「そんなこと、言わないでください」
朱雀が突然叫んだ。
「すみません、取り乱しました」
「たとえで言っただけだ。いちいち食いつくな」
ツグミはそう言ったが、セツも同じように感じたのは事実だ。
「わかりました。もう少し、今の状態のまま、予算を削れるところがあるか、考えます」
朱雀は言うと、切り替えるように一度手を合わせた。
「では他に、皆様の中でなにか共有したい議題がある方はいらっしゃいますか?」
朱雀は言って、しばらく様子を見、手が上がらないことを確認すると静かに息をはいた。
「では、本日の朝議はこれにて」
「ちょっと待ってよ、朱雀君」
ずっとだまっていたホトが突然、声を上げた。
「ホト様?先ほど本日の朝議で話すべき内容はこれで全てだと思うのですが、抜けている箇所がありましたか?」
「いや。私がさっき一つ言い忘れ得てしまってね」
嫌な予感。
そう、ただの予感でしかない。
それでも、ホトの口調や雰囲気から嫌な気配を感じたセツは、思わず視線を上げてしまった。視線を挙げて、ホトの方を見てしまった。
その瞬間、しっかりと、ホトと目が合った。
「ホト……」
思わず口から言葉がこぼれる。しっかりと彼を見たのはこれが初めてだった。ヒショウに聞いていたとおり整った顔に、今はすっかり黒くなった目。多少の恍惚を含んだ顔でこちらを見ているホトは、魅力的でもあり、しかし、それ上に恐ろしく見えた。
「セツ」
朱雀がとがめるようにセツの袖を引く。
「はっ。申し訳ありません」
セツは我に返り、床に視線を向けたまま朱雀に謝った。
「ホト様、申し訳ありません」
「私は全く気にしていないよ。だからセツ君、そんなに緊張しなくて良い。もっと君と仲良くなりたいな」
人なつこい声でそう言ってくるホトに、セツは思わず舌打ちを打ちかけた。
何を言っているんだ、この男は。
ツグミもセツのことを覚えている。なのに、この男が自分を忘れているとは思えない。その上で、仲良くなりたいだと?何を考えているんだ。いや、何かを企んでいるようにしか思えない。
「俺は」
「ホト様、お言葉ですが、このものはまだここに来たばかりで、本当に信用できるかもわからない。今はひとまず私の元において様子を見ていますが、このものが未だにあなたに対して反抗的な心を持っていることは否めません。あなたがこのもののことをかっているのは重々承知しておりますが、どうか、このものがあなたに忠誠を誓うまでは私の許可なしでの接触はおやめください」
あれ?
セツはわずかな違和感を朱雀に抱いた。セツの口調は極めて厳しく、他言は認めない威圧感がある。しかし、これではまるで、セツのことをかばってくれているように思えてならない。こんな気持ちはきっと傲慢だし、所詮は色眼鏡を通して見ているものなのはわかっている。ホトを守るためだと言われてしまえばそれで終わりなのだが、それでも思わず胸が躍ってしまう。
「でも、みんな、セツ君のこと聞きたいんじゃないの?自己紹介して貰おうよ。セツ君だって、私たちのこと聞きたいよね」
「ホト様、セツ君は昨日もう自己紹介してくれましたよ」
おかしそうに静かに笑いながら青龍が言う。
「え?」
「ああ。昨日私も紹介されたな」
「そうなの?」
ホトは首をかしげて朱雀を見た。
「ええ。昨日、今後セツと関わることになるであろう皆様には、業務の効率化のため顔を見せに行きましたね」
「そんな!ひどい!私だけ仲間外れじゃないか!私にも自己紹介してよお、セツ君!」
子供のように叫んで駄々をこねるホトに、朱雀は大きなため息をつき、見せつけるようにあきれた。
「仲間外れになどしておりません。セツがあなたと直接会って仕事をすることはまずないので、あえてあなたに紹介しなかったのです。先ほども言いましたが、セツはまだ信用をするには足りませんので」
「その考えには、私も賛成だ」
そう言ったのは、ツグミだった。
「そこの鳥頭はそいつの独断と偏見を存分に含んだ報告書をだし、セツの一件をかたづけた気でいるようだが、軍部としては、それはいただけないな。あの晩の侵入の経緯について、きちんと取り調べをした上で、こちらが正式な捜査をしなければ、そのものの現在の身の潔白は保証されない」
「だれが、鳥頭ですか」
「貴様に決まっているだろ、鳥頭め」
朱雀とツグミの間に殺気がとびかう。
「まあまあ、二人とも、落ち着いて」
なだめるように青龍が言った。
「その報告書、ホト様は了解したのですね」
「うん。素晴らしく良く出来たものだったよ」
「なら、あらためて取り調べを行う必要は無いのではないのか?それに、俺が昨日話した限りでは、セツ君は良い子のようにしか思えなかった。はじめたばかりにしては、とても良く出来た従者ぶりだったぞ」
なあ、ミズキ、と青龍が言えば、ミズキはにこりと微笑んでうなずく。
「て、青龍は言っているよ」
ホトはじっと朱雀を見る。
「では、皆様はどう思いますか?」
朱雀は各都の外交官達の方を見た。外官達はうかがい合うように視線で会話すると、遠慮がちに口を開いた。
「わ、我々は朱雀様の意見に賛同いたします。幾らホト様がお見立てになった方でも、やはり正当な手続きをふんでおそばに置くべきです。その者が罪を犯したことは事実ですし、その上で特別扱いをしたとなれば、民の反感を買いかねません」
「だろ?ほら、私の言った通りでないか」
「言った通りではないですけどね。でも、私もそれに賛成です」
朱雀はふてくされたように言った。
「ここでの議決は常に多数決です。過半数の賛成が得られたので、セツの自己紹介は諦めてください、ホト様」
朱雀はきっぱりとそう言った。
「わかったよ。今回は、諦めよう」
ホトは残念そうに言った。
「という訳で、今朝の朝議はこれにて解散します。各自、業務に戻ってください」
朱雀の号令で、まずは朱雀に連れられホトが、そして後からどんどん官達が帰って行く。
「では、セツ君。また」
「また話そうね」
最後に部屋をでたミズキが振った手に、セツはかろうじて笑顔で返す。後は一人、朱雀の帰りを待つだけだった。
「セツ、私たちも、帰りますよ」
扉から頭を覗かせた朱雀は少し疲れたように笑っていた。
「ああ」
セツはうなずくと、朱雀に駆けよる。朱雀の力になりたい。セツは先ほどの議題について考えていたが、まだ答えは出ていない。それでも、何か役に立ちたかった。
朱雀のためにも。
玄武国の為にも。
ヒショウの為にも。
「なあ、今日、お前どうせ難民の受け入れ立ち会うんだろ。俺もそれに立ち会って良いか。ついでに、キャンプの様子も見たい」
「難民の件については私がやる、と言いたいところですが、あなたを一人ここに置いていく訳にはいかないですし、先ほどの件についても正直手詰まりで困っているんです。犯罪者でも何でもいいので、今は意見がほしいですね」
「ああ、任せろ!」
太陽のようにまぶしい無邪気な笑顔で喜ぶセツを、朱雀は目を細めて静かに見守った。玄武国の出身で彼らの気持ちもわかり、かつ、素人であるセツの意見を聞くことは、朱雀にとって控えめに言っても損ではないのだ。
「あと、先ほどツグミから、あなたの取り調べをしたいと改めて言われました。あんな風にずっと言いがかられても面倒なので、一度、取り調べを受けましょう。明日で良いそうです」
「ああ。まかせとけ!」
何もかもがうまくいっている。セツは完全に浮かれ、かぶっていた猫も忘れて、子供のように飛び跳ねて喜んだ。




