希望
――どうして私たちだけがこんな思いをしないといけないんだ。
――おなかすいたよお。
――ごめんなさい。
――もうこんなことしたくない。
――裏切られた。
――許さない。
――ああ金がほしい。
――また子供が犠牲に。
――みんなどこ行ったの?
――何で俺だけ生き残ってんだ。
――最悪だ。
――死にたい。
――死にたくない。
――痛いよお。
――苦しい。
――なんで。
――なんで世界はこんなにも。
――こんなにも我々に試練を与えるんだ。
――誰か助けて。
――神様。
――朱雀様。
――どうか。
「僕は」
ヒショウは空虚な暗闇の中にいた。
「そもそも、初めから間違いだったんだ。わかってる。僕は捨てられたんだ。両親なんている訳がないし、どうせあんなの、嘘だったんだ。だって僕には永遠の命がある。親なんてきっととっくに、いつの間にか死んじゃってるんだ。もしかすると、僕の記憶が勝手に作り出した虚像なのかもしれないな。ああ、ああ、そうだよ。ゼン様も、ホト様も、みんなみんな、きっといないんだ。僕の頭が勝手に作り出した虚構なんだよ。僕が、汚れた人間が、一時でも幸せになって良い訳がないないか。僕は……僕はずっと、この都にいれば良かったんだ。その日、ゼン様を追いかけたのが間違いだったんだ。そうすれば、あの方も、希望の暖かさも、孤独のつらさも、何もかも、何もかも知らずにのうのうと有り余る時間を生きられた。あの日、ゼン様を追いかけてしまったから。その日、僕が追いかけなければ今もあの方は、きっと」
「ヒショウ!」
そんな声が聞こえた。ゼンの不在を見たくなくて固く閉じていた目を開けば、そこに光があった。
――あの時と同じだ。
ゼンが初めて目の前に現れたあの日。僕の前には光が現れたんだ。
「ヒショウ!戻ってきてくれ!俺は、俺を、一人にするな!やっと、やっとお前に会えたのに!俺はやっと、お前にお礼が言えるのに!」
――自分で自分を助けるんだ。
「ヒショウ!俺は力尽くでもお前をそこから引きずり出すぞ!だからお前も、自分で這い出してこい!自分で、助かるんだ!」
そうか。
そうか、僕は。
「お前は世界に絶望してる暇なんてねえんだよ!お前は、俺を回復させて、ホトとゼンの手伝うんだろうが!」
ヒショウは手を伸ばした。光に手を伸ばして、それをつかもうとして、ほんのわずかに届かない。それでも、届かせたくて、助かりたくて、ヒショウは手を伸ばした。
その時だった。
そっと背中に暖かいものが触れた。
大きい手と、小さな手。それが優しく、ヒショウを押し出した。
「ゼン様!」
ヒショウが振り返っても、広がっているのは一面も闇だ。それでも、ヒショウにはそこに二人がいるのがわかった。
主の夢をかなえるのが、従者の喜びだ。
手を、手がつかんだ。
強い力で引っ張られ、一面が光に包まれた。
「ヒショウ!」
小さな体が、ヒショウに飛びつく。
「ただいま」
片腕で優しく抱き留められば、すっかり血ぬれてしまった外套がぬれていくのがわかった。ここにいるのは、泣き虫で、小さな子供。それでもけなげに、生きているのだ。
「ありがとう」
そんな声が風に乗って聞こえ、振り返れば裂け目が綺麗に閉ざされていく途中だった。大きな穴が綺麗に繕われていく。
初めて見た。
これが、ゼンの力。
「さすが、ゼン様です」
やったんだ。自分は、成し遂げたのだ。従者として、主の願いを叶えたのだ。
「やったんだ。やりましたよ、僕は、やっと」
ヒショウは目の前の小さな体を抱きしめた。
生きている証が、胸の中で大きな鼓動を打っている。
繕わなくてはいけないほころびなど、もうここには存在しなかった。




