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帰る場所

「……ろ」

「……起きろ」

「早く起きろ。グズめ」

怒号が聞こえた。

「いたっ……」

脇腹を何か鋭い者でつつかれた。

 ヒショウはゆっくりと体を起こした。意識が覚醒すると同時に入ってくる莫大な情報出頭で頭が痛い。ざっと十人ぐらい牢の外にはいるようだが、そんなことはどうでもいい。何かをほざいているが、ヒショウにはそれが言葉には聞こえなかった。

 思い出すのは昨晩のこと。

 あれは、何だったんだ。あれは本当にゼンだったのか?それに、どうして謝られたんだ。

 ヒショウの手は無意識のうちに首に伸びていた。鎖に触れて我に返る。そう、あの時とは違う。過去との相似に一瞬思い出に浸ってしまいそうになったが、ヒショウは冷静だった。

 ヒショウは少女の方をみる。彼女はまだ小さな寝息を立てて眠っているようだった。

「おい、寝ぼけているのか!?」

今度はドン、と頭を槍で殴られた。

 さすがにしびれが切れ、ヒショウは折りの外をにらみつけた。一体何のようなんだ、この兵士達は。ヒショウは槍の柄をつかむと、力尽くで外に押し出した。ヒショウの見かけによらない力強さに領主の護衛達は驚いて医療だったが、すぐに嘲笑を始めた。

「ずいぶんとその首輪を気にいっているようだな」

「似合ってやがる」

「屈辱的だなあ」

「元奴隷にはぴったりだ」

「……」

張り合う気もない。ヒショウは無視をする。

「出ろ」

「は?」

ヒショウはつい声を出してしまった。

「お前の罪はなくなった」

「なくなった?どういうことだ?」

「そのままの意味だ。いいから出ろ」

だめだ。話にならない。ヒショウは肩をすくめた。

 これは、罠なのか?

 思い当たるのは、昨晩の少女との会話。確かに、ヒショウが聞き出した情報はかなり核心に迫るものだった。情報を聞き出せたから、対が帳消しになった。そういうことか?

「この子は?この子も一緒に出られるのか?」

「そんなわけないだろう。そいつはこの都を乗っ取ろうとした大罪人だ」

「いいから出ろ」

「ホト様は?」

「は?」

「ホト様はなんと言っている?」

ヒショウが言うと、兵士達は一気におかしそうに笑い始めた。目尻にあふれた涙を拭うと、腹を抱えて笑いながら、ヒショウの方をさげすむような目で見た。

「あいつは終わったよ」

「どういうことだ」

護衛達はニヤニヤと笑っていて気持ちが悪い。

「いいから出ろ。領主様がお待ちだ」

たとえ牢から出られたとしても、ホトの置かれて1る状況がわからない今、死んでも行きたくはなかった。

「ホト様を連れてきてください。あの方の言うことじゃないと、僕は従いません」

ヒショウはそう言い放った。すると兵士は困ったといわんばかりに口をゆがませた。

「だから、あの方は終わったのだ」

「あの方はもとから人間として終わってはいますが」

「ちがう。あの方は、死んだのだ」

「しん、だ……?」

ヒショウは訳がわからず、口を平行させるしかなかった。

 死んだとは、どういうことだ。夜襲にでも遭ったのか?だが、どうして?それになぜ今?ツグミもいたのではないのか?

「死んだ?み、宮から追放されたとかではなく?」

「いや。今となってはもう、この宮から追い出す必要もなくなった」

「どういうことですか」

それではまるで、まるで、ホトが力をなくした用ではないか。

「あの方は、目をとられた」

「目……?」

「両目を何者かにとられたのだそうだ。今朝から意識が戻らない」

「……」

「あの目がなければ、あの方は死んだも同然だろ」

 その通りだった。

 ホトがこの宮で生きていられたのは優秀さは勿論、あの目が怖がられ忌避されていたお陰で、たとえ怨まれていても狙われることがなかったからだ。だが、目がなくなればどうなる。ホトを襲うことは容易になるし、彼の力を恐れる必要はなくなってしまうのだ。そうなれば、どうなるかなんてすぐにわかる。

 ヒショウは全身から力が抜けるのを感じた。

 負けたのだ。自分たちは。

 まるで、張り詰めていた糸が切れてしまったようだった。

「そういうわけだ。あの方にはもう力がない。あの方のかさなどもう存在しないし、お前はあの方に従う必要ももうない。だから、おとなしく従え」

 この牢から出れば、ホトの目を治しに行けるのだろうか。

 この牢から出れば――。

 ヒショウの頭の中を同じ言葉が駆け回り、支配していく。気がつけばよろよろと立ち上がって、鉄格子にもたれかかっていた。

「何を、すればいい?何をすれば、あの方の元にいける?」

「俺たちに従え。ついてこい」

ヒショウは眠っている少女を見た。

 御免ね。

 声にならない声で、ヒショウはつぶやく。

 牢の中に兵士達が入ってきても、少女は起きなかった。外にでても、開放とは言いがたい。前後には兵士。首と手足には鎖がつけなおされた。ヒショウはわざと大きなため息をついた。ぐい、と鎖が引かれ、今度は大げさに舌打ちを打つ。

 気晴らしに空を見上げると、空は無駄に晴れ渡っている。今はこんな気分ではない。気晴らしに求めたのは、晴れそうもないほどの真っ暗に曇った空だった鬼。

 まぶしいからと目をそらしたところで、懐かしいものが目に入った。

 光を反射してキラキラと光る倉の屋根。

 だがその光はもう――。

 ツグミが今のホトを守っているのだろうか。それとも、もう用済みとされお役御免にでもなったのだろうか。いずれにしても、それでいい。でも、もうも可能であれば、ホトをひとりぼっちにはしないであげてほしかった。

 今ヒショウが進んでいるのは人目につかない抜け道のような場所だ。蔵の前を通って行くことも出来ただろうにあえてそうしなかったのは、ヒショウが古巣を見て抵抗するのを防ぐためか、それとも、あえて今のホトの様子を知らせないことで余計に不安をあおるためか。

 ああ、帰りたい。

 ヒショウはうなだれる。頭の上をちいさな鳥が飛んでいる影が見えた。今はその小さな鳴き声ですらうっとうしく感じた。

 しばらくしてやっと空が見えなくなり頭を上げると、目の前に大きな扉があった。朱色の豪華な装飾が施され、金色でさらに模様が描かれている。これはきっと、朱雀だ。

 扉の前で待っているように指示があった。今までいた兵士達がいなくなったと思うと、続けて現れたのはさらに屈強な護衛のような男だった。

「ったく。どいつもこいつも」

ヒショウが小声で悪態をつくと、ぐい、と腕の鎖をにぎられ、強制的に姿勢を正される。

「俺一人だからって逃げようなんて考えるなよ。逃げたら殺す。わかってるな」

ヒショウの首に剣が当てられた。

「僕を殺したところで、何にもなりませんよ。ただ、報復が怖いかもしれません。僕はあの方のお気に入りなので」

「たいした自信だな」

「事実を述べたまでです。それに、いま自分が置かれている状況ぐらいわかっていますので」

「殊勝なこって。だが、そうだな。たしかに、お前を殺したところでなににもならないか。どうせ、生き返るのだから」

「は?人間は死んだら生き返らない。そんなこともしらないのか?」

「人、はな」

兵士はわざと強調するかのようにくり返した。

 ヒショウがにらみつけるのも無視して、護衛の兵士は重い扉を開けた。外開きの扉が開けば、なかからは目が痛くなるような光があふれ出してくる。外は明るいというのに、窓もない部屋の中には人工的な光が己を鼓舞するようにきらめいていた。そしてその部屋の中央に、青の男はいた。

 半ば押し込まれるような形で部屋の中にヒショウが入ると、扉が閉まった。否、しめられた。

「やあ」

「……」

シュトウは無視をされてもなお、不適に笑った。

「帰ります」

ヒショウはくるりと振り向き、そのまま扉を開けようとする。

「帰る?どこにかな?」

「……牢。あの子の元だ。他に帰れる場所なんてない。お前のせいだ」

ヒショウは扉に当てた手に力を込めた。

「君が帰る場所を奪ったのは、他ならぬ君自身じゃないのかい?」

「お前!」

「今にも私を殺したそうな顔だね。そんなかわいい顔をして今までも何人もの人間を殺してきたのかな?」

ヒショウは慌てて振り向いた。

「何のつもりだ」

ヒショウは自分の胸の鼓動が激しくなっていくのを感じた。

 いけない。

 ここで動揺してはだめなのに。

「変な言いがかりをつけるな。僕は、人を殺していない。人殺しなんかが、従者にされるわけないだろ」

「言いがかり、ときたか。いいのかい?王都の仲間を見捨てても」

「……やっぱり」

「君の帰る場所については私は我関せずだが、君が帰るべき場所が牢であることには間違いがなさそうだ。ねえ、元人殺しの奴隷君」

「……」

何も言い返せなかった。ホトが言っていた通り、シュトウはおそらく手紙を読んでいたのだろう。そして、ほとんどのことを知っていると考えられる。ならば、今何を言ってごまかしたところで逆効果でしかないと思った。

「さあ、何も隠すことはない。私は何でも知っている。気兼ねなく、普段の君を見せてくれてかまわないよ」

「僕をなめるなよ」

「なめてなんていない。むしろ、尊敬している」

シュトウは突然、ヒショウの前で平伏をした。突然の行動に驚きが隠せないヒショウをみて、彼は満足そうに笑う。

「まあ、今の君には逃げ場はないのだから、諦めて私とお話でもしよう」

そう言って差し伸べられた手を、ヒショウは勢いよく払ってにらみつける。

「おお、怖い怖い。あの若造はどうやって君を手なずけたのだろうか。目をつかったか、弱みを握ったか、それとも……ああ、そうだ」

シュトウの物言いはわざとらしく、ヒショウは虫唾が走るのを感じた。

「君の優しさにつけ込んだのか」

がしり、とシュトウはヒショウの腕をつかむと、抵抗される前に抱き寄せた。

「はなせ……。気持ちが悪い」

「私の心もいやしてくれ。幼い息子を別人にされたこの可哀想な父親の心を。ああ、あの子がいなくなったとき、確か、君と同じだったように思う。ああ。我が息子よ」

「は、放せ。うそだ。嘘だ!お前はそんなこと思っていない!」

ヒショウは勢いよくシュトウを押し飛ばした。シュトウの体が離れ、ヒショウも反動で扉に激突する。背中に激痛がはしり、息を整えようとすると、今度は軽く抱き上げられた。

「なんだ。これでもだめか。まあ、いい。時間はある」

暴れる暇もなく無理矢理椅子のような者に座らせられ、余った鎖で固定される。

「楽にしなさい」

「……出来るかっての……」

ヒショウは小さな声で毒づいた。

「私は、君がほしい」

「は……?」

シュトウはどかりと豪華な席に座ってヒショウと向かい合うと、ホトに似た笑みを浮かべた。

「私は、君を部下として受け入れたいと思っている」

「お言葉ですが、ぼくが使えるのはゼン様であって」

「ああ、そうそう。あの男も、同じことをかつて言っていたな。懐かしい」

「は……。なんでお前がそんなことを言うんだ」

「懐かしいね。あの男も、君と同じように抵抗して、私の部下になったのだよ。いやあ、感慨深い」

今すぐにでも、暴れたい。この男は何を言っているんだ。過去に、ゼンに何を強いたんだ。

「どうせお前があの方の優しさにつけ込んで、無理矢理協力させたんだ。あの方の主はいつだってホト様だ。お前に従ったふりを始めからしているにすぎないんだ」

「いいや。それは間違っている。残念だが、かわいらしい間違いだ」

シュトウは大きく手を横に広げてミスる。わざとらしい態度が妙にホトに似ていて、それだけに気持ちが悪くてたまらなかった。

「あの男は、元から私の手駒だ。君の前で見せていた顔こそ、あやつが繕った、偽物の姿なのだよ」

「そんな嘘、信じるもんか」

「信じなくても、事実は変わらない。あいつの行動を決めていたのは私だ。だから知っているよ。君があの男にどこでどんな風に出会って、一緒に旅をし、誰に出会い、何を食べ、そんな奇跡をしてきたのか。生き返る様はそれはそれは見事なそうだね。慈悲深く、身をなげうってでも民を守ろうとする様は素晴らしい」

「もういい」

ヒショウは大きな声で叫んだ。

「あの男は私の部下だから当然報告義務があった。だから、何でも放してくれた。君は本当にあの男のことが好きなようだね。そして、あの男も君を愛し」

「もう、言わなくていい」

ヒショウは大きくため息を吐く。

「信じてくれたようでよかった。それで、あの男の後をついで、私の元に来てくれるね」

「後を、継ぐ、だと。なぜそんな風に言うんだ。何を企んでいる?」

「だって、罪人はもう、私の部下としてふさわしくないではないか」

「罪人、だと?」

「ああ。あの男は、私の大切な息子の目を潰した、大罪人だ」

「は……?」

ヒショウは無理矢理立ち上がろうとする。重くて椅子がうごかないがかわりに、ゴンゴンと音を立てて揺れた。ジャリジャリと鎖が鳴る。

「都合がいいときだけ、こんな時だけ、あの方の家族ぶりやがって!お前なんか、お前なんか、家族じゃない!家族は、家族は、あの方を孤独にもさせないし、絶望もさせ合い!ゼン様の方がよっぽど、あの方の家族みたいだ!家族なんて、家族なのに、ぼくが、ぼくが探していた家族は……」

「君は血がつながっていれば家族だって言ってくれていたのに」

「お前なんて、お前なんて、殺してやる!あの方を、家族を侮辱した罪だ!お前の方が大罪人だ!」

「おやおや、君の主の親をお前と呼ぶなんてとんだ不敬だなあ」

 どうして。

 どうして、ゼン様は、こんな奴に従っていたんだ。従えたんだ。

 どうやって。

「お前は、今のぼくが置かれている状況がかつてのゼン様に似ていると言ったな」

「ああ。そうだよ。うれしいかい?」

「どんな弱みを握った」

ヒショウは落ち着いて静かに、しかし冷たくそう言った。

「あの方の。どんな弱みを握ったんだ」

今の状況が勝手と似ているのであれば、シュトウは感情的にゼンを揺さぶり、ゼンの弱みを使って優しさにつけ込んだとしか考えられない。今の自分がそうされているように。だから、自分はその手には乗らない。いや、むしろ、利用してやる。

「簡単さ。あの異物がここにいることを許した」

「それだけか?」

「ほう?妙に疑りぶかいね」

「ホト様は優秀な方だ。一度居場所さえ得れば、ご自分の力でここにとどまるぐらいは出来る。ゼン様だってきっとそう信じていたはずだ。だからこそ、すっとお前に従う必要もなかったはずなのに。お前に一度居場所を貰えばそのあとは従う必要もなかっただろうに。だからこそ、他にも何か言ったんだろ。あの方が従わないといけない理由が」

「あいつが君をほしがる理由がよくわかる。君はやはり優秀だ」

シュトウは満足げに微笑むと、ヒショウに手を伸ばした。かつてゼンがしたように優しく頬をなでたが、ヒショウはただシュトウをにらみつけた。

「最後の仕事には、君を使わせて貰った。君を私が保護する代わりに、あの男を抹殺し、君の王都の仲間を消して君が帰る場所をなくすよう命じた。あの男は最後にいい働きをしてくれたよ。だから、もしもあの男がうまく仕事を成し遂げたら、あの男を罪人として処刑することはせず、自由にしてやろう。あの男にも、もう帰る場所はないのだ」

「そんな嘘を言って、ぼくがなびくとでも思ったか。ぼくが、あの方を助けるために、お前の言うことに従うとでも?王都の奴らを助ける為にあの方を殺すためにお前の命に従って王都に行くとでも?」

なめるな。それが、ヒショウの精一杯の叫びだった。

「あの方は、自分で助かるんだ。そして、王都の奴らだって、そうだ。あの方は、そんなことじゃあ、なびかない。あの方が今回、ホト様を襲ったのも、姿を消したのもきっと、ご自分が、助かるために、のく質が自分で助かることを信じてしたことなんだ。だから、お前の命令なんかじゃない」

シュトウが距離を埋めてきても、ヒショウは全くひるまなかった。

「見事だな」

「さあ、答えろ。お前は、あの方に何を吹き込んだ。あの方がご自分を助けるために求めたことは、何だったんだ」

「あいつの正体を、教えることを約束した」

シュトウは、ヒショウの耳元でそうつぶやいた。

「正体……」

「あいつはずっと、自分を探していた。だから教えてやると言ったら、素直に乗ってきたんだ」

「それで、それで、あの方は、知ることが出来たのか!?」

「ああ。君をここまで連れてきてくれたからね。ご褒美に教えてあげたらこの有様だよ。我が息子の目を潰して、それだけではなく、逃亡していった」

「そうか。そう、だったのか」

ヒショウは少し目を伏せると、安心して微笑んだ。

 良かった。

 そうか。ゼン様はやっと。

「それで、ゼン様はいったい、何者なんだ」

「それを教える訳がないだろ。ああ、でも、君が私に力を貸してくれるのなら、教えてあげてもいい」

シュトウはヒショウの前にひざまずくと、その手をヒショウに差し伸べた。

「朱雀様、一緒にこの国を救おうではないですか。私に忠誠を誓い、私の神として、導いてほしい」

ヒショウは大きく息を吸い込むと、ゆっくりと口を開いた。

「従ってやってもいい。お前の欲しいものは何でもくれてやる」

シュトウはその言葉を聞くと、露骨に喜ぶような顔をした。

「ただし、条件がある。僕の糸を返してほしい」

「それでいいのかい?」

「ああ。十分だ」

するとシュトウは懐に手を入れると、透明に光る糸を取り出した。しゃん、と小さな音を立てたそれは明らかに、秘書運糸だった。

「なつかしい。この糸はかつて、あの男の忠誠の証として私が与えた者だ。それをまた与えることになるとは思わなかった。あの男も、こうなることをみこんで、君に糸を授けたのかもしれない」

「そんなわけないだろ」

ヒショウは悪態をつきながらも受け取った糸を器用に腕に絡めていく。

「あんがいすんなりわたしてくれ積んだな。この糸でお前を殺すかもしれないのに」

「そんなこと、君はしない。君はもう、人殺しではないんだろ。それに、私を殺せば、この都がどうなるかぐらい、どれだけの民が苦しむことになるかぐらいわかってるはずだ」

「でも、僕がこの糸を使って脱獄するかもしれない」

「脱獄?面白いことを言うね」

シュトウはおかしそうに笑った。

「君はもう、牢には戻らない。早速、働いて貰う」

 考えて見れば、当たり前の話だ。だが、ヒショウはほんの少し肩を落とした。あの少女を一人にしてしまうことになる。申し訳ないと思いつつ、ヒショウは心を入れ替えた。

「それで、僕は何をすれば良い?」

「なに、簡単だ。昔の仕事をして貰えばいい」

昔の仕事。なんだ。そんなことがいいのか。

「ホトを殺してこい」

ヒショウはかつて嫌というほど下げてきた汚れた頭をかしげてみせた。


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