面倒な生き物
夜が更けた。
牢獄には窓がない。だが、急激に気温が下がったことから見ても、間違いはないだろう。少女も寒いらしく、ヒショウの体にぴったりとくっついてうたた寝をしている。こんな状況でもすごいな、眠れるなんて。幼いと、良くしたもので危機感もないのか、それとも単に疲れてしまったのか。
かつての自分ならどうしただろうか。そう考えてみたが、全くもって参考にならなかった。元から光も影もない闇の中で暮らしていたようなものだった。眠る必要もなかった。闇に乗じてたくさんの人を殺した。闇の中ただ息を潜めて暮らしていた。皮肉なことに、そういう習慣は幾ら忘れようとしても忘れられないらしく、自分もなぜか目がさえてしまってしょうがない。
ヒショウはすやすやと眠る少女を見た。この子はこの一件でさぞ心を痛めたはずだ。慣れない場所に来て、自殺未遂をさせられ、殺人に加担しそうになった。実際の所、この子があの女を殺した可能性は十分にあるとヒショウもおもっている。ヒショウと手同じぐらいの年齢の時に合うすでに仕事をしていた。子供だからと言って甘く見てはいけないのかはわかっている。それでも、この少女がそんなことをしたと信じたくなかった。
ああ、本当に。
この国をもっと良くしたい。
今まで自分が諦めていた希望を、素直に子供達が思えるように。人殺しが生きるためには、世界をよりよくするには必要だなんて思わなくて済むように。
「まだ生きていたのか、馬鹿め」
ツグミの声だった。
「だってこの子の監視が僕の仕事なんだろ。寝るわけにはいかない」
「まあ、籠の中の鳥にはそのくらいしか出来ることはないだろうし」
「なんだって」
「そのままの意味だ」
「誰のせいで僕がここにいると思っているんだ」
「貴様のせいだろ?違うか?」
ツグミは鉄格子にもたれかかる。
「貴様はやっぱり馬鹿だな」
「なんですか、急に。僕のことを揶揄いに来たのなら帰れ。あまり気分が優れないんだ」
「私だったらそんな生意気な態度をとる暇があったら、必死にそこから出ようとするな。私ならこんな場所で何日も過ごすだなんて考えられない」
「僕は慣れていますから、こういうの」
「それだけじゃないだろ?」
「なんのことです?」
「貴様がここに入れられた理由だ」
ツグミは少しうつむいた。
「貴様がいないとあいつは孤独だな。さっき貴様は私があいつの計画を知って言るか聞いたな。でも、私はほとんど何もしらない。私はどこまで行っても、所詮は部外者だ。あいつは私には何も詳しい話はいてくれないし、私の頭では話されても理解が出来なかった。あいつに言われたのは、邪魔をしないでほしい、ただそれだけだ」
「いい気味です。あの人が自分で招いた孤独だ」
「どうだろうな」
ツグミはため息をついた。
「確かにあいつは一人になりたがっている。でもそれは、なんの為だと思う?」
「だからあいつは世界を救うと言っていた」
「世界を、救う」
「私はあいつが何をしでかしたのかも、しでかすつもりなのかもわかっていない。でもあいつはきっと孤独になることで、私たちをかばってくれているのではないだろうか」
「はあ?これのどこがですか?」
「そういうのを考えるのは貴様の仕事だろ。ただ一つ言えるのは、貴様は今のこの状況をあまり卑屈には考えるべきではないと言うことだ」
「え?」
「貴様はここで、束の間の安寧を手に入れた。勿論監視もされていて、鎖もつなげられて、不自由には違いないだろうが、それでも、貴様はここにいれば外部の人間に襲われることはない」
「……」
「貴様の大好きな『僕のせいで』論争をしなくていいのだ。それに、貴様の居場所がしれない限り、敵はそのことにかかりきりになるだろうし、他の悪巧みは少し勢いを失せさせるかもしれない。貴様の大好きな主も、貴様が安全なところにいると知れば、安心して仕事にいそしめるだろうよ」
「……」
「無論、これはただの私の憶測なのだがな」
ツグミが振り向いたのと同時に、ヒショウがうつむいた。
「ことをややこしくさせているのはあいつの態度だろ。貴様をまるで見くびるようなことを言ったり、港を燃やしたのも自分のせいのように振る舞ったりして。自分一人を悪者にして全てを終わらせようとしている。まったく、男というのは本当に面倒な生き物だな」
ツグミは吐き捨てるように言った。
「どれだけ自分を悪者にすれば気が済むんだ。貴様達は本当に、ガキだな」
ホトもヒショウも、姿を消したゼンも、ツグミから見ればみんな同じだった。
「それでも、貴様達は強く糸で結ばれている。今回の件だって、幾らバラバラになっても、きっと全て貴様達の思い通りになって、また三人で貴様達は笑うのだろうな。私には、そういうのが全くわからない」
わからないが、とツグミはつぶやく。
「少し、貴様達を見ているとうれしくなる。貴様達がまたじゃれているのを見たいと、楽しみだと思ってしまうのだ。なぜだろうな」
「何ででしょうね」
ヒショウは震える声を絞り出した。




