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 日が暮れれば倉の中で資料を読みふけることが最近のゼンとヒショウの日課だ。目的は、世界に残る伝説について調べるとともに、ゼンに字を教えること。書物を読み上げながら、ゼンに読み書きを教えてい

るのだ。かつてはやはり、ホトがゼンに資料を読み上げていたらしい。だが彼は自分の興味があるところしか読まないため、あてにならなかったそうだ。わかりやすいと褒められて、ヒショウは鼻が高かった。

 ヒショウは棚から簡単そうな資料をまずは取り出し腕いっぱいに抱きかかえた。古い紙の匂いが鼻に広がる。ふらふらとあるいて、書物を付けの上に広げるようにおいた。

「読めないなりに集めておいて良かった。俺みたいに字が読めない奴にとっては子供が落書きをして何か書いたようにしかみえねえから」

「でも今は、かなりわかるようになったじゃないですか」

「まあな」

ヒショウの糸の習得の速さ以上にゼンは早いスピードで文字を覚えていた。今ではもう簡単な文章なら読めるようになっている。

「これは『すざくでん』。朱雀についての話か」

「ええ、さすがです」

「む、か、し、ある、ところ、に、ひとり、の、おとこ、が、いま、し、た」

「はい。この話は……」

それは、ヒショウが朱雀を信仰する女から聞いた伝説だった。

「なるほど。あの村の話か、興味深い」

ゼンがめくった頁には大きく羽を広げ空を舞う朱雀の姿が描かれていた。これが神なのだという有無も言わせぬ荘厳さも、国を豊かに導いてくれるという確実な信頼ものの姿が物語っていた。

「お前もずいぶんこの国の伝説について詳しくなったよな」

ヒショウはゼンに褒められるとうれしそうに頬を紅潮させる。

「あの村の方にお話を聞くことが出来たのが僕にとっては幸運でした。あの、他の神獣様達も朱雀様のように誰かの元に宿ってそのお力を発揮させなさるのですか?」

「ああ、そうだ。体の中に神獣を宿した人間はこの世に五人しかいない」

「五人?四人ではなくて?」

「ああ。玄武は二匹で一つの神なんだ。この前、お前が見つけた俺の落書きがあった絵あっただろ?あそこに書かれた奴が二匹目の玄武だ」

「玄武は確か亀と蛇の神でしたよね?つまり、片方が蛇の神様で、も片方が亀の神様ということですか?」

「いや、二人とも蛇の神だな。そして、その神を前にひれ伏す人間が、亀と言うことなのかもしれない」

「ひれ伏す人……」

ヒショウはあの本にあった人民を従わせている人間の姿を思い出した。

「あのもしかしてホト様のあの力は」

「ああ。あいつは、玄武の一方の力を宿している」

「やはり」

あの目がホトの目に似ていると思ったのだ。そうではないかと思っていたので、ヒショウは納得したようにうなずいた。

「でも、玄武国の神獣様が朱雀国の人に宿ることもあるんですね」

「ない。だからあいつは家族に除け者にされているってのもある」

「……」

ヒショウは何も言えなかった。

「でも俺は違うと思っている。今までになかっただけだ。今の玄武国には、神獣のお目がねにかなうような人間がいなかった。それであいつが代わりに選ばれた。それだけの理論で、この話は片付くんだ」

ゼンは方をすくめた。

「まあ、いい。仮説としては、これもあり得るって話だ。だからこそ、あいつは今あんなことしてんじゃねえかなって俺は思ってる」

「こんなこと?」

「あいつは今、夢の為に神獣に選ばれた人間を集めているんだ。もしかすると、その中に自分と同じ人間がいないか探したいってのもあるのかもしれないな」

「そう、なんですね」

「さあな。俺の勝手な勘ぐりだ」

ゼンはぶっきらぼうにそう答える。

「今のところわかっているのは、あいつの玄武一体と、白虎、それに朱雀のみだ」

ヒショウは黙ってうつむいた。安心させるようなゼンの温かい手がヒショウの背中に触れた。彼も、これ以上ヒショウについて言及する気はない。

「でも、その中にあいつと同じ境遇の者はいなかった。青龍国は今は安定しているから、そう簡単には見つけられないだろうし、長い旅路になりそうだ」

「じゃあ、後はもう一体の玄武を見つけたいのですね」

「ああ。国があんなに荒れているんだ。十中八九、どこかにいるはずだ。それもわかりやすい形で」

「でも、どうやって探すのですか?」

「探さない」

ゼンは即座に答えた。

「あいつはそう言っていたな」

「探さない?それは一体?」

「なんでも、白虎の力を使えば、探さずとも出会えるそうだ。白虎とは俺に会う前からの付き合いらしく、今でも何かしらの手段で連絡を取り合っているらしいぜ」

「ゼン様もご存じない方なのですか?」

「ああ。ちなみに、白虎の姿や力についてはなんの記録も残っていないから俺にもわからない。だが、時間を司っているだけあっていろんなことを知っているらしく、領主の魔法も白虎の入れ知恵だそうだ。そうなると、ここの奴らは家族ぐるみで元から白虎と交流があったのだろうな」

「そうなんですね……。あの、白虎様のことはわからないのだとしても、その玄武様のもう一方の力はわかっているのですか?」

「ああ。話に寄ればあいつは」

ゼンは少し言葉を詰まらせた。

「あいつは世界の裂け目を作る。いや、作らせるらしい。やはり目に力が宿っていって、その目で人を誘惑し服従させ、運命を呪わせるそうだ」

「そんな……神獣なのに、そんなこと……」

「信じられないよな。でも俺は、こう理解している。玄武は感情の神。そうやって人民の心をコントロールすることも統治の上では欠かせないのかもしれないな」

「それって例えば、子供が増えすぎたから、少し減らして調整しよう、みたいなことですか」

「いや、少し違うな。そうじゃない。命を否定するのではなく、尊重する。いや、こんなの屁理屈か」

ゼンの言っていることはヒショウにはまったくわかっていなかった。

「でも、一つ言えるのは、ホトのあの力はあの目を使って世界を呪っている人間を癒やし、いい国を作ること。だからあいつの夢って言うのは」

「よりよい世界を作ることですか?」

「らしいぞ。詳しいことは俺にも教えてくれないんだけどな。あいつ曰く、それが使命なんだってよ」

ゼンはあきれたように腕を組み直した。

「あいつは本当に周りくどくてわかりにくい奴なんだよな。こんな大層な夢を持っているわりに、面倒くさい奴だ」

「はい、確かに」

ヒショウは少しはにかんで笑って見せた。

「だからこそ、ゼン様は、ゼン様の力は、あの方の為に宿ったのではないでしょうか?ホト様が例外的な存在なら、例外的にそれを補助するための力が第三者に宿ることもある。そういうことなのではないですか?」

「うーん。なるほどな」

ゼンはうなるようにして頷いた。

「まあ、あるかもな。俺は所詮はあいつの補助ってことで」

「所詮、なんてそんな。僕はそんなつもりで言ったのではなく」

「なんてな。冗談だ」

ゼンの視線の先にはすっかり暗くなった倉の外の闇がある。その中に、ホトがランプをともしたホトの姿が遠くに見えた。

「さあ、字の勉強、続けてくれないか?」

「あ、はい!喜んで!」

ヒショウはペンを手に力を込める。

「なあ、改めてなんだけど、俺が字をもっと習得出来たら、初めにお前に手紙を出してもいいか?」

ヒショウは目を丸くしてゼンの顔をじっと見た。

「嫌ならいいんだ。気持ち悪いと思うなあ、別に、遠慮なく嫌だと言ってくれ。でも、感謝と記念にお前がよめれば」

「もちろんです!もちろん、手紙、ほしいです!僕も帰します!でも、手紙を出すのはだめです!でも、手紙を出すのは、だめです。それじゃあまるで、僕らが離れてしまうみたいで……僕、嫌です。必ず、僕に手渡ししてください!約束です!」

「ああ」

ゼンはうなずく。

「約束ですよ!」

「ああ。わかったよ」

「ただいまあ」

倉の中にホトの声が響いた。

「お帰りなさい」

「今日こそ、行くよ」

「どこへですか?」

「おい、やめとけって。こいつの教育に良くないって何度言えばいいんだ」

「なんで?じゃあ二人で行く?」

「あの、どこへ……」

「こいつをこんな所に置いていけるわけないだろ」

「僕、糸も使えるようになりました。護衛としてなら、今までよりもずっと役に立つと思います」

「だってさ」

「お前、そうあおったらこいつが乗ってくんのわかって言ってるだろ。はかったな」

「まっさかー。ヒショウ君、ありがとう。君、本当に頼りになるよ」

「え、そ、そんな……」

「と、言うわけだ。多数決で決定!私もう我慢できないからね?止めても無駄だよ!私はもう今日これ以上仕事はしないからね!もう、行くしかないよ。ね?」

 ホトが女の園に入っていったのは数時間後のこと。あいにく、ヒショウはその世界をすでに知っていたので、ただホトにあきれるばかりであった。


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