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「よかったのか、言わなくて」

「何をだい?」

ホトはいつもと変わらない笑顔でそう言った。だが、その声はひどく寂しそうに聞こえた。

「私をこの宮から閉め出したこと、それによって起きた暴動、かれらの無能さを言ったところで、今更何になるんだい」

ホトの言うことは正しい。今のホトが何かを訴えたところで、起こる変化は嫌がらせがより振るぐらいだろう。軍師という立場を失いようにする為にも、今のホトにはただ彼らに従うように見せかけるぐらいしか出来ることがない。だから、ホトはこの状況を悲観しない。そのはずだが、ゼンの不安はまったく晴れなかった。

「あいにく、利益ばかりに目がくらんでいるあいつらは、私のいいなりになってくれそうだ。私の目ばかりを気にするからこうも簡単に足下をすくわれるのだよ」

「あの村のことも、うまくやってくれたみたいだな」

「もちろんさ」

「ありがとな」

「え?」

「だから、ありがとな」

ゼンは、はっきりとそう言ったつもりだった。だが、少し声が震えていたのかもしれない。

「もしかして、君、今泣いていたりするかい?もしそうなら見たいのだけど」

ゼンを見上げ得るホトの瞳はいつもの輝きを失い、なんの光も反射をしていないようだった。正直、見られていなくて安心した。泣いてはいないが、それに近い顔をしてしまっているだろう。ホトはこんな性格と力のせいで勘違いされ除け者にされやすいが、根は優しいただの子供であることをゼンはよく知っている。幼い頃から孤独に生きてきたホトの姿を知っているからこそ、今の現実が耐えがたかった。

 だが、ゼンは軽く息を吐いて気持ちを入れ替える。こんな顔を見られれば、察しのいい主はきっと、何もかもお見通しだと言わんばかりに自分をからかうことだろう。ゼンはホトの笑みにつられて口元を緩ませた。

「まあ、いいや。とにかく、君に聞いたあの青龍国の話、きちんと裏をとっておかなくちゃね。あの人の差し金じゃあ信用ならないし、いろいろ片付いたら、私と、君と、あの子と、三人でいってみようか」

「お前はここで軍師らしいことしていなきゃいけないんじゃないのか」

「軍師?嫌だな。私はそんな器には収まらないよ」

ホトはそれ以上何も言わなかった。だがおそらく、今のホトの瞳には彼の夢がかなった未来なのだろう。彼が見据えているその未来を遮ってはいけない。自分が出来るのはホトの運命の一部として、ただ手を引いてやるだけだった。

「ヒショウ君も手に入った。時は満ちたのかもしれないね」

「そうだな……」

「変えよう、この国を。救おう、この世界を」

「ああ」

気がつけば二人を待つようにヒショウが倉の入り口に立っているのが遠くに見えた。

「さて、もうすぐ倉だ。目隠しとってやる」

ゼンは素早くホトの目隠しをとってやった。ホトは確かめるように一度目を閉じ、そして再びゆっくりと瞳を開いた。

「なんかさ、君は本当に、やさしくなったよね」

「そうか?」

「厳しい兄達にあって、そうつくづく思うよ」

「お前」

「あの子のお陰かな」

ホトの視線の先には、こちらに気がつきけなげに手を振っているヒショウの姿がある。

「その子が君を変えたのか。はたまた、あの子が君を癒してくれたのかもしれないね」

ねえ、と言って、ホトは振り返らずにゼンの名を呼んだ。


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