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力の代償

 村の人々は、取引を飲んだ。門は開かれ、今は弓も下ろされている。恨めしそうに立ち尽くしている村人もいるが、そそくさと家の方へ戻った者もいた。おそらく、元から戦いなど支度はなかった奴らなのだろう。この村の人々は戦いに向いていないことなど、ヒショウには分かりきったことだった。戦いにおいては盲目でなくてはならない。ましてや数のことなどを考えていれば、それが弱みとなって簡単に負けてしまう。

 ヒショウは隣に立つゼンを見上げた。ほっとしたような顔をしているゼンを見ると、つい笑顔がこぼれてしまう。

「ゼン様への誤解が解けてよかったです」

「まあな。誤解が解けた、つーか、非干渉条約が結ばれた感じだが……まあ、ひとまずはここも通りやすくなって良かったよ」

「ゼン様の名誉が回復しただけで、僕はうれしいです」

「そうか、ありがとな」

ゼンはヒショウの頬をなでた。そこにはやはり傷跡はない。わざとヒショウを傷つけるのはホトの作戦通りではあったのだが、それでもやるとなるとそれなりの覚悟が必要だった。傷が治っていて良かった。

「ホト様も、そう思いますようね?」

ヒショウは気持ちよさそうに頬をなでられながらホトを見上げる。だが、ホトは眉間にしわをよせ、村の方をにらんでいた。

「本当に、薄情な連中だよね」

ホトがつぶやいた。

「そう、ですか?僕には、薄情どころかかなり強いつながりがあるように見えました」

 血縁。

 朱雀の力。

 彼らはそれを守るために、危険を承知でも取引に応じたのだと思っていたが……。

「強いどころか、もろい。もろくて、醜い」

ホトは吐き捨てるようにして行った。

「かれらのつながりは、同じ朱雀の血が流れている、それだけだろ。逆にいえば、その血がなければ、彼らはすぐに敵になり得るのさ。結局、あそこの人たちをつなげているのは、個々の人間が持つ生への異常な執着、つまりは死にたくないっていう意思だけだろう。そんなので結ばれた相手を家族と認識しているのは、私から見れば醜くてしょうがないけどね」

 ホトの言うことは的を射ていた。

 納得をしてしまった。家族を重んじる村の人々をうらやむとともに、離れた所にいる存在だと思っていた。だが、結局は同じだったのだ。同じ朱雀の力を持つ者として、僕たちはつながっていた。

「それにしても、薄情だ、なんてよくもお前が言えたもんだな」

ゼンはホトをあきれた目で見る。

「なんだい?私ほど情に厚い人間はいないと思うけど?」

「そうじゃない。お前みたいな詐欺師にあきれられ得るなんて、御免だってことだ。その目は最終手段だって言ってたじゃねえか」

「最終手段だよ。それを使うほど、危機的な状況だったってことだよ」

「どうだか。俺には、お前があいつらをいたずらに怖がらせて、ただ仕返しをしているようにしかみえなかったけど」

「仕返し?誰のだい?」

「それを俺にいわせんのか?」

ホトはただニヤニヤと笑って返した。

 背後が騒がしくなってきた。通れずにいた人々が入ってきたのだろう。

「そろそろいこうか」

ホトは絹の着物をはためかせて歩き出す。ゼンもその横についてあるく。ヒショウはそんな二人について以降として、ふと足を止めた。

 朱雀の力の代償。

 ホトに聞かせて貰った、生きるためなら記憶を改変してでも全てを受け入れようとする生存本能。

 僕にもあるはずの、都合のいい力。

 だとすると、僕も気づかないうちに、受け入れてはいけないことを受け入れてしまっているのだろうか。ゼンも、ホトも、本当は受け入れてはいけない相手なのだろうか。ゼンの従者としてもこの毎日は、受け入れてはいけないのだろうか。

 でも。

 だとしても。

 僕はそれをうけいれたい。僕は、僕の意思でこの人たちについて行くのだ。

 ホトの意図のうちでもかまわない。ゼンの糸に操られていてもかまわない。

 ヒショウの足は再び動き出す。二人を追いかけて、そして追いついてみせるのだ。


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