どうやら私の両親は『毒親』らしいので、女騎士になって見返してみせます
私の髪の毛は泥水みたいな黒。私の瞳は濁った黒。
王国にとっての忌み色である黒を二つも持って生まれた私は、幼い頃から両親に嫌われていた。
この国で『黒』は最も忌むべき色だ。黒い色はそれだけで嫌われる。
公爵夫人である私の母は美しいブロンドの髪と透き通る青い瞳を持っていて、公爵である父は銀の髪と翡翠の瞳を持っていた。
なのに、生まれた私は両親のどちらの色も受け継がない、黒い髪と瞳だった。
物心がついた時には、屋敷の屋根裏部屋にいた。
お腹が空いて屋根裏部屋から出ると、酷く叱られた。
私の居場所はどこにもなかった。
一歳年下の妹は美しい金の髪と宝石のような新緑の瞳を持っていて、両親に愛されていたのに。
十六年の間、私はいつもひっそりと息を殺して、存在がバレないように屋根裏部屋で生活していた。
忌み子である私にも、食事だけは与えられたから、腐りかけの食事を無理やり飲み込んで生きてきた。
(でも、そろそろ疲れてきたなぁ)
生まれた時から歓迎されない命だった。
いまだって生きているだけで煙たがられる。
今日もそうだった。
食事が足りなくてこっそり一階に降りたら、母に見つかって罵倒されて、父には唾を吐きかけられて、妹には嘲笑われた。
この家に、私の居場所はどこにもない。
(つかれた、なぁ)
死んでしまえれば楽なのだと思う。
でも、死ぬ勇気もないから、ぼんやりと毎日を生きている。
空気のように、ただ息をしている。
今日もまたベッドとも呼べない粗末な寝床に入って薄いシーツを被る。
寝ている間は夢に逃避できるから好きだった。睡眠だけが私の娯楽だから。
そうして眠った世界で、私は『彼女』に出会った。
▽▲▽▲▽
ふわふわとした感覚。足が床についていないみたい。
ふわりふわりと動いていた私は、昔妹が捨てた絵本で見た森のような場所にいた。
緑が美しい。木々のざわめきが優しく耳朶に響く。
夢の中だから、だれに遠慮することもない。ここでは私は自由なのだ。
「貴方だーれ?」
「?!」
ふいに声をかけられて飛び上がらんばかりに驚いた。
振り返った私の視線の先で、私と同じ年頃だろう女の子がにこにこと笑っている。
女の子は、私と同じ黒い髪と目を持っていた。
「え……?」
「どうしたの? 不思議そうな顔をして」
穏やかに笑う女の子。私と同じ『忌み子』の色彩を持つ女の子だ。
この子は、どうしてこんなに穏やかに笑っているのだろう。
私に、笑いかけてくれるのだろう。
ぐるりと疑問が胸の中を巡って、私は泣きそうになるのを堪えて、ぐっと唇を噛みしめる。
「こっち! 湖があったの! 遊ぼうよ!」
「あそぶ……?」
私は人生で一度も誰かと遊んだことがない。
立ちすくむ私の手を女の子が握った。
びくりと肩を揺らした私に、女の子が屈託のない笑みで笑う。
「名乗ってなかったね、私はつむぎ! よろしくね」
「ツムギ?」
「うん!」
元気な子だな、と思った。ツムギに手を引かれて、湖による。
水に入るのが怖くて立ちすくむ私に、ツムギは湖のふちに座って足を水の中に浸していた。
「ん~! 気持ちいい! 貴方もどう? あ! 名前教えてほしいな」
「私は……アマーリエ」
「アマーリエね! よろしく!」
はきはきとした喋り方や影のない笑顔はツムギが愛されて育ったことが分かる。
私と同じ色彩を持っているのに『忌み子』なのに、どうしてそんなに愛されたのだろう。
私は疑問に思った以上に羨ましくて、ツムギに問いかけた。
「ツムギはどうして明るいの?」
「えっ? 性格、かなぁ」
「忌み子なのに?」
「?」
きょとんと瞬きをしたツムギは私の言葉の意味がわからなかったらしい。
私はツムギの隣に佇んで、ぽつぽつと口を開いた。
「黒は忌み色でしょう。私は生まれつき髪も目も黒いから、家族からとても嫌われていて……」
「そんなの可笑しい!」
「えっ」
ぱしゃん、と水しぶきを上げてツムギが立ち上がった。
私の正面に回って、私の手を取る。
「アマーリエの国のことはわからないけど! 私の国ではみんな黒髪に黒い瞳だよ!」
「え?」
「髪や目の色で差別するなんておかしいよ! 肌の色の差別もよくないし!」
私の常識を粉々に打ち砕くツムギの言葉に、私は喉の奥から嗚咽が零れ落ちそうになった。
「そう、なの?」
「そうだよ!!」
力強く肯定される。私はたまらなくなって、涙をこぼした。
ぽろぽろと落ちる涙をツムギの柔らかい指先が拭ってくれる。それでも、涙は止まらなかった。
「アマーリエ、今までの人生はもう変えられない。でも、これからの人生は変えられるよ!」
「じんせいを、かえる」
「そう! 差別する家族なんて捨てちゃって、新しい人生を歩もうよ!」
きっと、ツムギの言葉は無責任だった。
私の置かれた立場も、私の公爵令嬢という地位も、なにもかも無視した、酷い言葉だったかもしれない。
でも、確かにツムギの言葉を聞いたその瞬間。
私は、救われた、と思ったのだ。
▽▲▽▲▽
翌日、夢の内容をしっかり覚えて起きた私は、ぐっと手を握り締めた。
(人生は変えられる)
夢の中の人の言葉だけれど、その通りだと思った。
このまま一生、公爵家の屋根裏で膝を抱えるだけの人生なんて嫌だ。
私は決意を胸に抱いて、初めて恐る恐るではなくちゃんとした足取りで屋根裏部屋から出た。
世間のことはあんまりわからない。
でも、本当に幼い頃、私を憐れんだメイドが「せめて男の子であれば実力主義の騎士団に行けたのに」と零していた言葉を思い出した。
私は女だけれど、妹が捨てた絵本の一つには女性が騎士になる物語もあった。
ああなりたい。強い女になりたい。心から、そう願った。
なら、あとは行動あるのみだ。
私はツムギの言葉を励ましに、別人になったかのような心の前向きさで、私が姿を見せたことに騒ぐ母親と向き合った。
「なにをしているの! でてこないで! 汚らわしい!!」
母が騒いでいるから、妹も姿を見せる。
私をみて眉を顰めた妹は美しい顔に蔑みの色をのせて、私を睨む。
「ちょっと、やめてくださる? 酷く匂うんだけど」
さらに父まで書斎から出てきた。もう大騒ぎだ。
「なんの騒ぎだ。何をしている。さっさと戻れ!!」
だけど、もう私の心には響かない。
私は真っすぐに三人を見据えて、言い切った。
「いままで失礼しました。私はこのお屋敷を出ていきます」
私の言葉に、三人が目を見開く。
妹は鼻で笑って、母は瞠目し、父はため息を吐きだした。
「さっさと野垂れ死んでいただけます?」
そう口にしたのは妹だったけれど、恐らく母も父も同意見だったのだろう。
私を引き留める言葉なんて端から期待していなかったけれど。
私はにこりと笑って、三人に背を向けた。
どこに行けばいいのかなんて、よくわかっていない。
でも、酷く清々しい気持ちだった。
▽▲▽▲▽
「そんなこともあったねぇ。アマーリエの両親は言葉は悪いけど『毒親』だったからなぁ」
「ツムギのおかげで人生が変わったの! 感謝しているわ!」
今日も今日とて、夢の中で私はツムギに一日の報告をしている。
現在、私は騎士団の団長カミル様に拾われて、彼の元で下宿をしながら、騎士として働いている。
毎日、寝る前に私は祈るのが日課になっていた。
『今日もツムギと話せますように』
と。ツムギはあの日から毎日私の夢に現れて、私を励ましてくれる。
人生の恩人だ。
「私はなにもしてないよ。頑張ってるのはアマーリエだもの!」
ツムギは今日も明るく笑ってそう告げた。
私がいくら感謝を伝えても、ツムギは謙遜してしまう。
それが、ちょっとだけ私は不満だった。
「私はアマーリエの恋模様の方が気になるなぁ!」
「えっ」
「カミル様って人のこと好きなんでしょう?」
直球で切り込まれて、私は頬を染めた。
うろ、と視線をさ迷わせると、ツムギがからころと笑う。
「お話を聞いてるだけでわかるよ! アマーリエはわかりやすいもの!」
「そ、そうかしら……!」
赤くなった頬を抑える私の手のひらは、夢の中でも豆が潰れて固くなっている。
でも、ツムギもカミル様もそんな私の手のことを褒めてくれるから、私にとっての誇りの一つだ。
「うん! それに、きっと両想いになれるよ」
「そ、そう?」
「だって、好きでもない子と同じ屋根の下で暮らさないでしょ~!」
からかうように笑うツムギの言葉が本当だったらいいなぁと私は思った。
家を飛び出して、行く当てもなくさ迷っていた私を保護してくれたカミル様は、騎士になりたい、と訴える私の言葉を笑うこともせず、騎士団の門を叩く手伝いをしてくださった。
カミル様は、一度も私の髪や目の色に言及したことはない。
一度だけ「忌み色を持つ女をお屋敷に置いていると、よくない噂が立ちませんか?」と尋ねた時には「馬鹿なことを気にする暇があるなら素振りでもしてこい」と怒られてしまった。
それ以来、私はカミル様が気になって仕方ないのだ。
「両想いになったら教えてね!」
「ええ。一番にツムギに報告するわ」
にこりと笑った私に、ツムギは嬉しそうに笑い返してくれた。
でも、どこか。
ツムギの纏う雰囲気が少しだけ寂しそうで、それが心に引っかかった。
▽▲▽▲▽
ツムギと夢の中での会話を楽しんでいると、あっという間に朝が来る。
目覚めた私は、カミル様が私用に整えてくださった部屋のベッドから起き上がった。
外はまだ暗いけれど、新米の騎士である私には鍛錬の時間はいくらあっても足りない。
水で顔を洗って、髪を結ぶ。
鏡の中には、大分健康的な顔立ちになった女の子がいる。
カミル様に拾われた当初は、痩せてガリガリで、生きているのが不思議だとカミル様お抱えのお医者様に言われてしまった。
でも、いまはカミル様のお屋敷に勤めるシェフが用意してくれる食事を三食しっかり食べて、夜もぐっすりと眠って、鍛錬もしているから、いたって健康体だ。
私は部屋に置いている木刀を持って、庭へと向かった。
今日も一日が始まる。
朝の鍛錬を終えて、軽く汗を流し、食堂へ向かう。
カミル様を待って朝食を食べていると、いつもより沈黙が多いカミル様のことが気になってしまった。
元々口数の多い人ではないけれど、ここまで黙り込むのも珍しい。
私は口に含んでいた食事を飲み込んで、問いかけてみることにした。
「カミル様、なにかありましたか?」
「……アマーリエ、生家に心残りはあるか?」
「欠片もありません」
唐突な問いだったけれど、はっきりと拒絶した私の言葉に、カミル様がほっと息を吐き出した。
私の実家が何か言っているのだろうか。腐っても公爵家だ。
カミル様にご迷惑をかけているのならば、身の振り方を考えなさなければならない。
眉を顰めた私の前で、カミル様が慎重に言葉を口にする。
「最近、イルサ公爵家は事業に失敗して財政が傾いている。アマーリエをどこかでみたのだろう。美しくなった君を呼び戻して、政略結婚を結ぼうとしているようだ」
「……なんて身勝手な……」
イルサ公爵家での扱いを考えれば、どうして縁を切ってなお私を政治的に利用しようなどと考えられるのか。吐き気がする。
口元を抑えた私の前で、カミル様もまた眉を寄せていた。
「アマーリエ、結婚を考えてはどうだ」
「え?」
「君が先に結婚してしまえば、公爵家といえど口出しは出来ないだろう」
その言葉に、目の前が真っ暗になった。
私がお慕いしているのは、貴方なんです。カミル様。
そういえれば、どれだけよかったのか。
はく、と口を動かしたけれど、言葉は音にならなかった。
私はただ「そう、ですね」と呟いて、下を向いた。
私は、まだ無力な子供だ。
その日、私は夢の中でツムギに泣きついた。
ツムギは酷く憤ってくれて「いっそ実家に乗り込んで剣を片手に暴れてみたら?」なんて冗談交じりに口にした。
ツムギにとってはきっと冗談だったのだろうけれど、私には天啓に思えた。
お屋敷で大暴れをすれば、引き戻して嫁に出そうなんて思わないのでは? そう思ったのだ。
だから、その日起きた私は、カミル様に書き置きを残して、剣を片手に実家に乗り込んだ。
「私はこの家とは縁を切りました! 呼び戻そうなど、言語道断!」
両親の寝室に乗り込んで、叩き起こした父に剣を向けてそう言い放った。
母は青ざめて目覚めたばかりなのにまた卒倒した。
父は青い顔色でこくこくと人形のように頷く。
「なんのさわぎぃ?」
起きてきた妹が豪華なネグリジェ姿で現れた。私は妹を睨んで口を開いた。
「貴方は今まで散々甘やかされてきたのだから、貴方が家を建て直しなさい」
「なにいってるの?! 穀潰しのくせに!」
私は長く伸ばした黒髪を翻して、両親に背を向け妹の前に立った。
剣は鞘に収めたけれど、いつでも抜くことができる。
「な、なによ! 生意気ね!!」
「生意気なのはどちら? 身分もわきまえず王太子に無礼を働いて、勘当寸前らしいじゃない」
「?!」
カミル様が教えてくれた。
王太子に一目惚れをした妹は、王太子に付きまとって酷く嫌われていると。
公爵家の立て直しに王家が力を貸してくれないのは、妹の無礼な振る舞いの数々があるからだ、と。
ふんと鼻で笑った私に、妹は悔しげにしている。
でも、言い返しては来ない。流石に自覚はあるらしい。
「私はこの家とは関係のないところで幸せになります。もう二度と私に関わらないで」
そう告げて、私は十六年を過ごした家を後にした。
▽▲▽▲▽
カミル様のお屋敷に戻った私を、呆れた顔をしてカミル様が出迎えてくれた。
呆れが顔に出ていたけれど、半面で少しだけ可笑しそうにもしていた。
「おっまえ……変に思いきりの良い所があるとは思っていたが、そこまでとはな。ちょっと面白かったぞ」
「みていらっしゃったのですか」
「遠くからな」
もう膝を抱えて泣いていた女の子はいないのだ。ここにいるのは王国に仕える騎士。
だから私は胸を張って告げた。
「カミル様、お話があります」
「なんだ」
「私は、カミル様をお慕いしています」
はっきりと口にした。
私の言葉にカミル様は目を見開いて、頭をガリガリとかく。
粗野な仕草でさえ、私の心はときめいてしまう。
「やめとけ、俺なんておっさんだぞ」
「私を救い上げてくださいました。あの時から、お慕いしています」
自覚したのは、自虐を怒られた時だったけれど。
きっとその前から惹かれていた。
凛と胸を張る。これもツムギが教えてくれたこと。
いつだって胸をはっていれば、カッコよく見えるから、と。
「あ~、年の差がなぁ」
「貴族の結婚ではよくあることだと聞きました」
「誰の入れ知恵だ……」
カミル様は今年三十を超える。一方で私は十七歳だ。
十三歳の年の差なんて、貴族の結婚では珍しくない、と私と親しくしてくれている先輩の騎士が口にしていた。
でも、ここまで断られると不安になる。
嫌われていないとは思っていたけれど、それは私の勘違いだったのだろうか。
「……ダメですか?」
「……ああ、くそっ!」
がり、と再び頭をかいたカミル様が、私の手首を引いた。
そのまま、抱きしめられる。
私よりよほど鍛え上げられた胸板は固くて温かくて、私は目を白黒させてしまった。
「もう、離してやらねぇぞ。あとで嫌がっても知らねぇからな」
「はい。はい……!」
それは、私の告白に対するオーケーの返事に違いなかった。
嬉しくて視界が滲む。
涙を浮かべてカミル様の背中に手を回した私は、感極まって泣き出してしまった。
私の頭を撫でる手が、とにかく優しくて。それがまた、嬉しかった。
▽▲▽▲▽
その日の夜、私は喜びを胸にツムギに報告に行った。
「ほ、ほんとに乗り込んだの?!」
「ええ! おかげですっきりしたわ!」
出逢った頃と同じ湖のほとりで朝からの騒動を報告した私に、ツムギは驚いていたけれど、一拍置いて笑いだした。
「ふふっ! さすがアマーリエ! 私の親友は一味違うわ!」
「わ、私たち親友だったの……?!」
「えっ?! 違うの?!」
思わぬツムギの言葉に私が挙動不審になると、ツムギは驚いた様子で私を見た。
その瞳に嘘の色はない。私はまた、泣きそうになる。
「違わないわ! ツムギは私の命の恩人で、大切な親友よ!」
ツムギの両手を握って告げた私の言葉に、ツムギが穏やかに笑った。
「ありがとう。アマーリエ。あのね、私も大切なお話があるの」
真摯な口調で告げられた言葉に、私も姿勢を正す。
私の前で、ツムギは信じられない言葉を言った。
「そろそろ、会えなくなるの。私ね、死んじゃうんだぁ」
「……どういう、こと……?」
なにがなんだか、わからない。
突然の別れの言葉に絶句する私の前で、ツムギは初めて困ったように笑った。
ツムギと交流した一年の間に、見たことがない表情だ。
「癌なの。余命宣告はアマーリエと出会った日に受けたから、この夢は頭がおかしくなっちゃったんだ、って最初は思ってた」
「……」
「でも、アマーリエの言葉は私の妄想では片づけられない。本当に異世界ってあるんだと思う。……ねぇ、アマーリエ」
真っ直ぐにツムギの少し茶色がかった黒い瞳が私を見る。
こくん、と私が唾を飲み込む音が、あたりに響いた気がした。
「私、生まれ変わっても、アマーリエの親友に、なりたい、なぁ……!」
ぼろぼろと、涙をこぼしながらツムギが訴える。
私は「そんなの、当たり前じゃない!!」とツムギを抱きしめた。
「ツムギ、絶対にまた会いましょう」
「うん」
「ツムギのこと、私は忘れないから」
「うん」
「ツムギ、大好きよ」
「うん……!」
一つ一つ、言い含めるように口にする。
いつも私がツムギに励まされていたけれど、今日ばかりは立場が逆だった。
ツムギは私に縋るように抱き着いて、わんわんと泣いた。
それが、私とツムギの別れだった。
その日から、私は夢を一切見なくなったから。
「奥様! 元気な女の子です!!」
おぎゃあおぎゃあと赤子の泣き声が部屋に響く。
私とカミル様の愛の結晶。やっと生まれてくれた、私の愛しい子供。
医者が赤子を抱きかかえている。そっと手を伸ばすと、私の指を掴んでくれた。
身体は疲れてへとへとだったけれど、その姿はあまりに愛らしくて私の口角が緩んだ。
「ありがとう、ありがとう、アマーリエ……!!」
男泣きをしている旦那様――カミル様に私は微笑んだ。
「名前は、決めていた名でいいのか?」
「はい。――ツムギ、と」
きっと、女の子が生まれると予感があった。
その子は黒い髪に黒い瞳を持っているだろう、とも。
私の不思議な体験をカミル様は笑い飛ばすこともなく受け入れてくれて、生まれてくる子が本当に女の子だったら「ツムギ」と名付ける許可をくださった。
「ツムギ、これから幸せになりましょうね」
大好きな旦那様と、大切な親友の生まれ変わり。
きっと、これからの人生は今までの不幸を塗りつぶすかのように、幸福であるはずだ。
幸せを胸に、私は笑み崩れた。
読んでいただき、ありがとうございます!
『どうやら私の両親は『毒親』らしいので、女騎士になって見返してみせます』のほうは楽しんでいただけたでしょうか?
面白い! 続きが読みたい!! と思っていただけた方は、ぜひとも
ブックマーク、評価、リアクションを頂けると、大変励みになります!