表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/17

プロフィール写真の衝撃と、見えない「理想」

樋口彰の婚活は、まさに「婚活戦線、異常あり」と呼ぶべき状況に突入していた。鈴木優子との穏やかな仮交際。しかし、職場の後輩である井上真奈美からのまさかのお見合い申し込み、そして仮交際への突入。さらに、カレー屋の無愛想な店員、七海との、謎めいた接触。樋口の心は、三人の女性の間で激しく揺れ動き、自身の「結婚」に対する本音が見えなくなりつつあった。


栗原沙耶からの「ご自身の心に正直になること」という言葉が、樋口の頭の中で何度も反芻される。しかし、正直になろうとすればするほど、何が本音なのかが分からなくなる。


そんな葛藤を抱えながらも、樋口の婚活は止まることなく進んでいく。栗原との面談後、樋口は鈴木優子と真奈美、それぞれの女性と定期的にデートを重ねていた。


鈴木優子とのデートは、やはり安らぎの時間だった。彼女の優しい笑顔と、穏やかな会話は、樋口の心の疲れを癒してくれる。三度目のデートでは、樋口が手作りのカレーを振る舞うことになっていた。鈴木優子が「すごく楽しみにしてます!」と言ってくれたので、樋口は腕によりをかけて準備を進めた。


「よし、これで完璧だ」


週末の土曜日。樋口は、特製のチキンカレーとナン、そしてサラダを準備し終え、一人ごちた。完璧に仕上がったカレーの匂いが部屋中に広がり、食欲をそそる。約束の時間に鈴木優子がやってきて、カレーを口にした瞬間、「美味しい!」と目を輝かせた。


「樋口さん、本当にプロみたいですね!こんな美味しいカレー、お店でも食べたことないです!」


鈴木優子の素直な賛辞に、樋口は照れくさそうに笑った。彼女は、樋口の趣味を心から喜んでくれる。そのことが、樋口には何よりも嬉しかった。食後も、二人はソファに並んで座り、他愛もない会話を続けた。テレビを見たり、雑誌を読んだり、ただ静かに過ごす時間も心地よかった。


一方、井上真奈美とのデートは、少し違った刺激があった。彼女は、仕事では見せないような、はしゃいだ一面を見せることがあった。二人でテーマパークに行けば、はしゃぎすぎて迷子になりそうになったり、アトラクションで絶叫したり。樋口は、そんな真奈美の姿を見ていると、自然と笑顔になっていた。


「樋口さん、これ、絶対面白いですよ!一緒に乗りましょう!」


真奈美が、まるで子供のように目を輝かせてアトラクションを指さす。樋口は、真奈美のはつらつとしたエネルギーに引っ張られるように、彼女の誘いに応じた。普段は行かないような場所へ行ったり、体験しないようなことをしたり。真奈美とのデートは、樋口の日常に新しい風を吹き込んでくれた。


真奈美は、時折、樋口に甘えるような仕草を見せることもあった。テーマパークで人混みに押されそうになった時、自然と樋口の腕にしがみついてきたり、別れ際、改札口で名残惜しそうに手を振ったり。その度に、樋口の心は小さく波打った。


鈴木優子との安定感。真奈美との刺激。樋口は、どちらの女性とも異なる魅力を感じ、自分の心がどこに向かっているのか、ますます分からなくなっていった。


そんなある日、樋口は栗原からメッセージを受け取った。


「樋口様、そろそろ価値観チェックを受けていただく時期かと存じます。今後の交際を深めていく上で、非常に重要なステップとなりますので、ご都合の良い日時をご連絡ください」


価値観チェック。それは、結婚生活において、お互いの価値観がどれだけ合致しているかを確認するためのものだという。栗原の説明によると、金銭感覚、子育て観、将来設計など、多岐にわたる項目について質問され、その結果がデータとして可視化されるらしい。


樋口は、少しだけ気が重くなった。いくら鈴木優子や真奈美と話が合うと感じていても、それがデータとして数値化されるとなると、妙に現実味を帯びてくる。


価値観チェックの日。樋口は、再び結婚相談所のカウンセリングルームにいた。栗原沙耶が、タブレットを樋口に差し出した。


「樋口様、こちらに表示されている質問に、ご自身の正直な気持ちで回答してください。時間制限はございませんので、じっくりと考えていただいて構いません」


タブレットの画面には、ズラリと質問が並んでいた。


Q1. 結婚後も共働きを希望しますか?(はい/いいえ/どちらでもよい)


Q2. 家事は分担したいですか?(はい/いいえ/どちらでもよい)


Q3. 子供は何人欲しいですか?(1人/2人/3人以上/欲しくない/どちらでもよい)


Q4. 転勤になった場合、帯同しますか?(はい/いいえ/どちらでもよい)


Q5. 親との同居は可能ですか?(はい/いいえ/どちらでもよい)


Q6. お金の管理はどちらが主導しますか?(自分/相手/共同)


Q7. 休日の過ごし方で重視することは?(自宅でゆっくり/外出/趣味に没頭)


Q8. 喧嘩をした時の仲直りの方法は?(話し合う/時間を置く/相手に合わせる)


質問は、樋口が今まで真剣に考えたことのないような項目ばかりだった。特に、Q5の「親との同居は可能ですか?」という質問を見た時、樋口は一瞬、手が止まった。


樋口の両親は、今は実家で二人暮らしをしている。だが、将来的に介護が必要になった場合、同居という選択肢も出てくるかもしれない。しかし、相手の女性が親との同居を望まない場合、どうすればいいのだろう。樋口は、正直なところ、どちらでも良い、としか言えない。だが、それでは「結婚」という具体的な未来が見えてこないような気がした。


「どちらでもよい」という選択肢が多いのは、果たして良いことなのだろうか。明確な意思がないと、相手に不安を与えるのではないか。樋口は、悩みに悩んだ。


結局、樋口は自分の正直な気持ちで回答した。結果は、数日後に面談で説明されるという。


価値観チェックの結果説明の日。樋口は、どこか緊張した面持ちでカウンセリングルームに入った。栗原は、樋口の前に一枚のグラフが描かれた資料を置いた。


「樋口様、こちらが価値観チェックの結果です。ご自身の回答と、お相手の方々、そして一般的なデータと比較して、数値化されております」


樋口は、資料に目を落とした。グラフには、様々な項目が棒グラフや円グラフで表示され、樋口の回答が点線で示されている。


「樋口様の全体的な傾向としては、非常に協調性が高く、相手の意見を尊重されるタイプであることが見て取れます。特に『家事分担』や『お金の管理』などにおいては、相手に合わせる柔軟な姿勢が伺えます」


栗原の言葉に、樋口は「なるほど」と頷いた。確かに、自分は人に合わせるタイプだ。それは良いことなのか、悪いことなのか、判断に迷う。


「しかし、一方で、ご自身の明確な主張が少ない傾向も見て取れます。特に『休日の過ごし方』や『喧嘩の仲直り方法』などにおいては、ご自身の意見をはっきりと示す部分が、他の方と比べてやや低い数値になっております」


栗原の指摘に、樋口はドキリとした。確かに、自分はあまり自己主張をしないタイプだ。それは、長所でもあり、短所でもある。


「これは、必ずしも悪いことではありません。協調性が高いということは、相手にとって居心地の良い存在である、ということでもあります。しかし、結婚生活は長いものですから、時にはご自身の意見をしっかりと伝え、二人で問題を解決していく能力も必要になります」


栗原は、淡々と、しかし的確に樋口の長所と課題を指摘した。樋口は、自分の性格が数値化されることに、改めて驚きを感じた。


「では、鈴木様と井上様、それぞれの結果と比較してみましょう」


栗原がタブレットを操作すると、樋口のグラフに、鈴木優子と井上真奈美のグラフが重ねて表示された。


「まず、鈴木様ですが、樋口様とは全体的に価値観の合致度が高いという結果が出ております。特に『子供への価値観』や『休日の過ごし方』など、共通点が多く見られます。鈴木様も、樋口様と同様に協調性が高く、穏やかな家庭を築きたいという志向が強いようです」


鈴木優子のグラフを見た時、樋口は安堵した。やはり、彼女とは相性が良いのだ。これなら、結婚生活もスムーズにいくかもしれない。


「次に、井上様です。井上様は、樋口様とは少し異なる傾向が見られます。『共働き希望』や『金銭感覚』などにおいては、井口様の方が自立志向が強い傾向にあります。樋口様は、どちらかというと相手に合わせる傾向が強いですが、井上様はご自身の意見をはっきりと主張されるタイプです」


真奈美のグラフを見た時、樋口は少しだけ驚いた。やはり、彼女は自分とは違うタイプだ。樋口が柔軟に対応できる部分を、彼女は明確な主張で補うタイプなのだろう。


「これは、相性が悪いということではありません。むしろ、お互いに足りない部分を補い合える関係になる可能性もございます。ただし、価値観が異なるということは、意見の衝突が起こる可能性も高まるということです。その際に、樋口様がご自身の意見をしっかりと伝えられるかどうかが、鍵になるでしょう」


栗原の言葉は、樋口の心に深く響いた。鈴木優子との安定。真奈美との刺激。それは、価値観の違いとして、データにもはっきりと現れていたのだ。


「樋口様は、ご自身の結婚生活において、何を一番大切にしたいとお考えですか?安心感を求めるのか、それとも、刺激や変化を求めるのか。ご自身の本音と向き合う良い機会になるかと存じます」


栗原は、そう締めくくった。その言葉は、樋口に選択を迫っているようにも聞こえた。


価値観チェックの結果は、樋口の心をさらに混乱させた。データとして可視化された自分の性格と、二人の女性の相性。頭では理解できるが、心がどうしたいのか、やはり分からない。


価値観チェックの結果を胸に、樋口は改めて自分の「理想」について考え始めた。しかし、考えれば考えるほど、その「理想」はぼやけていく。


結婚。それは、安定した生活。温かい家庭。子供。しかし、そこに「恋愛」という感情は、どのくらい必要なのだろう。


鈴木優子とは、安心して一緒にいられる。彼女の隣にいると、心が安らぐ。これこそが、自分が求めていた「安定」なのではないか。


だが、井上真奈美といると、心が躍る。彼女の屈託のない笑顔を見ると、自分も無邪気な気持ちになれる。これは、失われていた「ときめき」なのではないか。


樋口は、頭を抱えた。どちらを選べば、本当に後悔しないのだろう。


そんなある日の週末、樋口は、ふとあのカレー屋のクーポン券を思い出した。有効期限が近づいている。


「今日、行ってみるか……」


特に理由はない。ただ、漠然と七海に会いたくなったのだ。


カレー屋に入ると、七海はいつものようにカウンターの向こうにいた。樋口がカウンター席に座ると、彼女は無言で水を出してくれた。


「チキンカレーに、目玉焼きトッピングでお願いします」


樋口が注文すると、七海は無言で注文を厨房に通した。その様子は、いつもの無愛想な彼女と何ら変わりない。


樋口は、カレーが運ばれてくるのを待つ間、七海を観察した。彼女は、他の客の注文をテキパキとこなし、食器を下げ、無駄のない動きで店内を動き回っている。時折、疲れが見えるような表情をすることもあるが、すぐにまた無表情に戻る。


ふと、七海がカウンターの奥で、スマホを手にしているのが見えた。誰かとメッセージのやり取りをしているのだろうか。その表情は、普段の無愛想な顔とは少し違い、どこか真剣な、それでいて憂いを帯びたものに見えた。


樋口は、思わず彼女のスマホの画面に目を凝らした。しかし、すぐに視線をそらした。人のプライベートを覗き見るのは、マナー違反だ。


カレーが運ばれてきた。樋口は、いつものようにカレーを食べ始めた。美味しい。疲れた体に、スパイスの効いたカレーが染み渡る。


カレーを食べ終え、会計を済ませて店を出ようとすると、七海が声をかけてきた。


「ありがとうございました」


彼女の声は、普段よりも少しだけトーンが低いように聞こえた。樋口は、彼女の顔を見た。その目元には、クマができていた。やはり、疲れているのだろうか。


「七海さんも、お疲れ様です。無理しすぎないでくださいね」


樋口は、反射的にそう声をかけた。七海は、一瞬だけ驚いたような顔をした後、すぐに目をそらした。


「……別に」


そう呟くと、すぐに奥へと戻ってしまった。


樋口は、またしても彼女に拒絶されたような気持ちになった。しかし、なぜか、あの無愛想な態度の中に、彼女の弱さが見え隠れするように感じられた。


カレー屋を出て、樋口は夜道を歩いた。鈴木優子との安心感。井上真奈美との刺激。そして、七海という、謎めいた女性。


三者三様の魅力を持つ女性たちが、樋口の心の中で複雑に絡み合っている。一体、自分の理想の結婚相手とは、どんな人なのだろう。そして、自分は、本当に誰を求めているのだろう。


樋口は、答えが見つからないまま、重い足取りで家路についた。婚活は、進めば進むほど、樋口の心を深く、そして複雑な感情の渦に巻き込んでいくのだった。


翌週、樋口は鈴木優子と4度目のデートをした。今回は、二人の共通の趣味である「食事」をテーマに、少し足を延ばして隣町の評判のイタリアンレストランを訪れた。


「わぁ、このお店、すごく素敵ですね!予約、大変だったんじゃないですか?」


鈴木優子は、目を輝かせながらそう言った。樋口は、数週間前から予約を取っていたことを、少しだけ得意げに話した。


「パスタもピザも、すごく美味しいです!樋口さんのチョイス、いつもセンスがいいですね!」


鈴木優子の言葉に、樋口は嬉しくなった。彼女は、いつも樋口のすることを褒めてくれる。その素直な反応が、樋口にとって心地よかった。


食事中、二人の会話は途切れることなく続いた。将来の夢、行ってみたい場所、読んで面白かった本。互いのことを、少しずつ、しかし確実に深く知っていくような時間だった。


「樋口さんって、本当に優しい方ですね。一緒にいると、すごく心が落ち着きます」


鈴木優子が、食後のデザートを食べながらそう言った。彼女の優しい眼差しに、樋口はドキリとした。


「ありがとうございます。鈴木さんも、いつも笑顔で、僕もとても癒されています」


樋口は、素直な気持ちを伝えた。鈴木優子は、少しだけ照れたように微笑んだ。


「樋口さんと結婚したら、きっと穏やかで、楽しい家庭が築けるだろうなって思います」


彼女の言葉は、まるでプロポーズのようだった。樋口の胸は高鳴った。頭の中では、鈴木優子との結婚生活が具体的にイメージできる。それは、安定した、穏やかな未来だ。


「僕も、鈴木さんと結婚できたら、きっと幸せになれると思います」


樋口も、精一杯の言葉でそう返した。


デートが終わり、鈴木優子と別れた後、樋口の心は温かい幸福感に包まれていた。やはり、鈴木優子こそが、自分の求める「結婚相手」なのだろうか。


しかし、その幸福感の裏で、樋口の心には、わずかながらも疑問符が残っていた。それは、「恋愛」という感情の定義だ。鈴木優子とは、確かに居心地が良い。安らげる。だが、それは「好き」という、情熱的な感情なのだろうか。


樋口は、恋愛経験が少ない。だからこそ、自分の感情が何なのか、分からなくなるのだ。


翌日。樋口は、井上真奈美と二度目のデートの約束をしていた。今回は、話題の映画を見に行くことになった。


映画館で真奈美と合流し、チケットを買う。真奈美は、ポップコーンを買うか迷っている樋口の腕を引っ張り、「樋口さん、これ食べましょう!」と、一番大きなサイズのポップコーンを買った。その無邪気な行動に、樋口は思わず笑ってしまった。


映画館に入り、席に着く。映画が始まると、真奈美は、時折樋口の腕に触れるような仕草を見せた。それは、わざとではない、無意識の行動のように見えたが、樋口は少しだけドキリとした。そして、その触れるたびに、心臓が小さく波打つ。


映画が終わり、外に出ると、真奈美が言った。


「面白かったですね!樋口さんと映画見れて、すごく楽しかったです!」


彼女の言葉に、樋口は素直に嬉しくなった。真奈美といると、心が浮き立つ。彼女の予測不能な行動が、樋口の日常に新しい刺激を与えてくれる。


「樋口さん、この後、もしよかったらもう一軒、飲みに行きませんか?」


真奈美が、少しだけ上目遣いでそう言った。樋口は、彼女の積極的な誘いに、少し戸惑った。鈴木優子とのデートの後なら、迷わず「はい」と答えていただろう。しかし、真奈美といると、何かが違う。


「ええと……」


樋口が言葉に詰まっていると、真奈美は少しだけ顔を曇らせた。


「もしかして、ご迷惑でしたか……?」


「いえ、そんなことはないです!ただ、ちょっと疲れていて……。すみません」


樋口は、咄嗟にそう答えた。正直なところ、疲れていないわけではなかったが、それが断る理由ではなかった。何か、心のどこかで、真奈美とこれ以上関係を進めることに、ブレーキがかかるような感覚があったのだ。


真奈美は、少しだけ寂しそうに微笑んだ。


「そうですか……。無理言ってすみません。じゃあ、今日はこれで。ありがとうございました」


真奈美と別れた後、樋口は足早に駅へと向かった。自分の行動に、少しだけ自己嫌悪を感じていた。真奈美は、自分を必要としてくれている。それなのに、なぜ、自分は彼女の誘いを断ってしまったのだろう。


鈴木優子との穏やかな関係。真奈美との刺激的な関係。樋口は、二人の間で揺れ動く自分を持て余していた。


そして、その日の夜、樋口のスマホに、栗原沙耶からのメッセージが届いた。


「樋口様、お見合いのお相手、井上様から『仮交際終了』のご連絡がありました」


樋口は、メッセージを読んで、目を疑った。仮交際終了?まさか、真奈美から、仮交際を終了する申し出があったとは。


あの時、自分が彼女の誘いを断ったのが原因だろうか。それとも、もっと前から、彼女はそう考えていたのだろうか。


樋口は、胸の奥がチクリと痛んだ。真奈美は、自分を必要としてくれていたはずだ。それなのに、自分は彼女の気持ちに応えられなかった。


これで、樋口の仮交際は、鈴木優子一人になった。栗原が言っていた「どちらかお一人に絞り込み、真剣交際へと進む覚悟を決める時期」が、図らずも訪れたのだ。


しかし、樋口の心は、決して晴れやかなわけではなかった。むしろ、喪失感のようなものが胸に広がる。


「これで、鈴木さんと真剣交際に進むべき、ということなのか……」


樋口は、再び最初の問いに立ち返っていた。


結婚相談所のシステムの中。樋口のプロフィール写真が、まるで虚ろな笑顔を浮かべているように見えた。その笑顔は、樋口が本当の「理想」を見つけられていないことの証のようだった。


婚活戦線、異常あり。樋口彰の婚活は、まだまだ混乱の中にあった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ