11話 二日目の憂鬱
お久しぶりです
今の時刻は午前六時。本来なら今はまだ、夢の中にいるはずの時間だ。夢から覚めると、一気に気分が下がっていくのを感じる。昨日の夜に何かあったような気もするが、気にしないでおこう。
この心のモヤモヤする気持ちはなんだろう。昨日は感じることが無かったが、二日目の朝になると急に憂鬱な気分になる。
早く家に帰りたい。そんなことしか思わない。
「おはよ〜、みやのくん〜ん」
ん? 誰の声だこの声。この寝ぼけボイスは。
「ね。おかーさん。ぱんやいて〜」
まだ寝ぼけている。声の出元を探すと、その声は富田からの声だとすぐに分かった。
ここで、富田の母を演技してもよかったのだが、出会ってほぼ二日目の相手にすることではない。ここはおとなしく
「富田 おはよう。 ここは富田の家じゃないけれど」
と優しく言ってあげた。すると、富田は飛び上がって
「お母さんじゃない!?」
まだ寝ぼけているのか。きっと『富田のお母さんは朝いつも富田を起こすのが大変なんだろうなあ』と思った。ここでようやく
「あ 僕オリ合宿に来てたのか。じゃあ、宮野くん?」
と確認してきた。なぜ、名前を確認してきたのかは、謎だがちゃんと名乗っておく。
「はい 宮野です」
ここにきてやっと
「あ ごめん! 僕朝弱くて・・・・・・」
やっと夢の世界から現実世界に帰ってきたらしい。
「富田 朝のよういしないと三十分後には朝食やで」
「え!? まじ!? はよ準備しないと」
このあとは、富田はめちゃくちゃ焦って朝の準備をしていた。
朝食の時間になると、僕たちは昨日の夕食と同じ場所へと向かった。
「今日の朝めしなにやろ?」
そう、富田に尋ねると
「そんなん知るかいな」
とても不機嫌な感じで言われた。もしかすると富田は朝は機嫌が斜めな人なのかも知れない。だから、出発する朝もギリギリだったのかも知れない。確認しておくか。
「昨日の朝なんでギリギリやったん?」
「僕、朝に弱いから・・・・・・ 気づいたら出発の三十分前やって」
予想通りの返事が帰ってきた。『やっぱりか』思わず心の声が漏れてしまう。
「宮野? 何か言った?」
「いや、なんでもない」
「それより、ご飯食べよう」
「そうだな」
こうして、何事もなく朝食を食べるはずだったのに。悪魔は突然やってくる。
「ね! 宮野くん 一緒に朝ごはん食べようよ!」
おいおい。この状況で朝ごはん一緒にとか若菜どんだけ人懐っこいねん。周りの奴らに勘違いされるだろう・・・・・・
「富田とたべるから、若菜は女子たちと食べなよ」
いたって男子高校生の一般的な返答を意識して答えた。でも、若菜はこれでも引かない。
「富田くん? も一緒に食べよう?」
次は富田をターゲットにして話を進め出した。頼む富田。頑張ってくれ
「わ、わかりました」
『富田ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』※心の声
どうやら富田は推しに弱いらしい。
「富田くんは行くって! こうなったら宮野くんももちろん?」
まるで獲物を捕まえたかのような笑顔で聞いてくる。
「行かせてもらいます」
いうても、女子二人くらいだろう。そう思って行くと
「宮野くんっていうのはこの人!」
パッと数えた感じ八人ぐらいはいる。若菜を合わせて九人。それに対して男子は二人。どう考えてもこの状況は異変でしかない。
「なんか、恥ずいな」
富田に尋ねると
「・・・・・・・」
富田は完全に緊張のあまり神経系が全て機能停止していた。
この状況、つまり一人で乗り切るしかないってことか。
若菜に案内されるままに席に着く。明らかに気まずい空気が漂っている。
「よ、よろしく」
皆が社交辞令として言ってくる。
ま、出会ってほぼ初日の男子。無理もない。またして、自分がイケメンでも全くない。そりゃ、女子たちもも盛り上がるはずもない。
気まずい空気の中、慣れない早食い(キレイに早食い)をしていると
「若菜?」
「なに?」
「宮野と付き合ってんの?」
思わず、食べていたキャベツの千切りが変なところに入って咳き込んでしまう。
「ちがうよ! 仲がいいだけ!」
若菜はもちろん即否定していた。なんか、これはこれで心にくるものがある。
「ならいいけど」
視線を感じる。早くこの場から逃げたい。やっとの思いでご飯を食べ終わり、片付けに行こうとすると
「宮野くん あと一口だから、ちょっとだけ待って」
おいおい、待つの? 僕?
かといって待たない理由もないので、待ってあげた(三十秒くらい)
その後は出口で別れたが、男子からも、女子からも目線を感じるのは気のせいだろうか・・・・・・
こんな青春・・・・・・