ひとりぼっち
とてもとても綺麗な夕焼け空。
どこまでも続く、夕焼け空。
青い海も、赤く染められる。
全てを強引に染め上げる、真っ赤な空。
僕はその空を、ぼーっと眺めていた。ちっぽけで真っ黒な僕は、とっくの昔に空に食われていたことは知っていた。知っていたからこそ、僕はぼーっと眺めているんだ。自分には何もできないことを思い知らせる荘厳たる空。それに従いただ眺める僕。何もおかしくなかった。
「何を見ているの。」
彼が隣から囁いてきた。
「空を見ているんだ。」
「どうして。」
彼はさらに尋ねてきた。
「僕がちっぽけだからさ。」
彼はきょとんとしていた。それもそうだろう。彼は翼を持っている。あの荘厳たる空に唯一溶けこめる存在。僕とは違う、荘厳たる存在。僕の考えていることは、何も理解できないだろう。僕はただ、黒いだけだった。
「でもさ。」
彼は口を開いた。
「君がちっぽけだったら、僕はもっとちっぽけだね。」
何を言っているのだろうと思った。彼には立派な翼が付いている。僕には何も付いていない。空から僕を見下ろせる彼が、僕よりちっぽけなはずがない。彼は勘違いをしているのだと思った。
「僕は君の影に黒く染められている。君が大きいから、僕は輝きをもらえない。」
なぜだろうと思った。僕は今まさに空に飲み込まれているというのに、彼は今僕のせいで黒く染まってしまっている。ちっぽけなのだから、僕にそんな力はないのだと思っていた。現に僕はただ空を眺めることしかできていない。
「ねえ。僕は空を飛べる。僕より大きな君は、いったい何ができるんだい。」
「何もできやしないさ。できたらとっくにやっているよ。」
真っ赤な空は、気付いたら黒くなり始めていた。荘厳たる空が終わりを告げる時だった。荘厳たる空が終わる時、全てが黒に染められる。空の終わりは、全ての終わりだった。空は全てを決める存在だった。僕はその空に従い、全てを待っていた。
「ねえ、君はどうしてここにいるんだい。」
「わからない。」
「もしかすると、何もしなくていいから、ここにいるのかもね。」
そうかもしれないと、僕はそう思った。
ばさばさと、闇の中で音だけが聞こえた。黒くて見えやしないが、きっと彼は行ってしまったのだ。僕は闇に沈みゆく空をただ眺めながら、終わりを告げる世界に潜む。明日はきっとやってくる。僕はただそうぼんやりと考えたまま、目を静かに閉じた。閉じた目の先には、今の空と変わらない闇が広がっていた。僕はその闇に心を預け、じっと明日を待った。




