「仕事と私どっちが大事なの!」←わかる。「彼女と私(仕事)どっちが大事なの!」←!?
「仕事と私、どっちが大事なの!」
彼女の声がリビングに響く。ソファでテレビを見ていた俺は、聞こえないふりをした。しかし、彼女の鋭い視線が突き刺さり、観念して振り返る。
「もちろん、お前だよ」
言おうとした瞬間、聞き慣れない声が割り込んだ。
「彼女と私、どっちが大事なの!」
振り返ると、そこには黒髪ロングの美女が立っていた。スーツを颯爽と着こなし、自信に満ちた表情。見覚えのない彼女に、俺は目を丸くする。
「え、誰?」
「仕事よ」
彼女の言葉に、俺はさらに混乱する。仕事? 仕事が擬人化? 頭の中がハテナで埋め尽くされる中、彼女は不敵な笑みを浮かべた。
「さあ、どっちを選ぶの?」
まるで俺を試すかのように、彼女は挑発的な視線を向ける。
彼女と、仕事。どちらも俺の人生において重要な存在だ。しかし、擬人化された仕事と対峙する状況に、俺は言葉を失った。
「私は、彼が学生時代から一緒ですけど!」
彼女は一歩前に出て、仕事へと詰め寄る。対する仕事は、一歩も引かず、余裕の笑みを浮かべる。
「私は一日8時間以上一緒に過ごしているが?」
仕事は腕組みをして、挑発的な視線を彼女に向ける。
「私の料理美味しいっていつも言ってくれるし!」
彼女は一歩も引かず、反撃する。
「私がいるから彼は食事にありつけているが?」
仕事は涼しい顔で反論する。
「ずっと一緒に居たいって、言ってくれたし!」
彼女の言葉に、仕事は眉一つ動かさずに答える。
「私と彼は、少なくとも40年は付き合うことになるが?」
「私、こんなにかわいいし!」
彼女はやや感情的に声を上げる。
「私は、こんなに社会の役にたっているが?」
仕事は冷めた口調で切り返す。
二人の議論は平行線をたどり、部屋の中は異様な緊張感に包まれた。俺は二人の間に挟まれ、ただただ困惑するばかりだった。
「「ねえ! どっちなの~?」」
二人の声がハモる。鋭い視線が俺を貫き、リビングの空気が張り詰める。
(ついに来たか…)
俺は、固まった笑顔のまま、内心で呟く。彼女と仕事、どちらも大切だ。しかし、どちらかを選べと迫られるこの状況。正直、答えなんて出せない。
(逃げよう)
俺は、まるで電流が走ったかのように飛び起きる。
「あっ、逃げた!」
彼女の声を背に、俺はリビングを飛び出した。廊下を駆け抜け、玄関のドアを勢いよく開ける。
(どっちが大切かなんて、まだ分からないよ!)
心の叫びを夜空に放ちながら、俺は夜の街へと走り出した。