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第二話 風ッ!(強風)+火ッ!

もうすぐ日付が変わる時間だというのに俺は自宅のキッチンにてグラム2000円|(もっとするかな?)の黒毛和牛厚切り200グラムをフライパンの上で焼いていた。

肉の香ばしい香が鼻孔を刺激し、見てるだけで俺の口には大量のよだれが溜まっていた。

「うわぁ…超美味そう…」

味付けは塩オンリーで他に余計な物は一切無く、素材の味を最大に引き出している…はず。

つーか俺みたいな家庭料理しか作ったことのない主夫ぎみな男子高校生にステーキ用の高級肉なんか焼かせるなよ!

肉に失礼だろうが!


ん?…なんでわたくし風戸・信玄ががこんな夜中に肉なんか焼いているのかって?

そりゃあ、現在俺ん家のリビングで深夜のお笑い番組を見ながら爆笑してる身内の悪魔、姐さんの命令だからだよ…襟首を捕まれて家に入ると、うう…きっついお仕置き…を受けた直後、

「腹へった。おいゲン坊、金渡すから高い肉買ってきて焼け」

だってよ…そう言われてまだ閉店してないスーパーを探して、この辺のスーパーはほとんど閉店してたから隣の市にあるデパートまで行かされたんだ。

クソッ!今日は厄日だ!

朝はアイツのせいで面倒に巻き込まれ、昼は鬼担任に追っかけ回されて、夜はヤンキー共に絡まれ、きわめつけは姐さんかよ!ホンットについてねぇ!

「畜生…なんだか泣けてくる…」

と、俺は盛大にため息をつきつつ肉をひっくり返す。肉の裏側はいい焼き色がつき、キッチンには美味そうな肉の匂いが充満した。

おお!よくやった俺!お肉様を美味そうに焼いたぜ!

なんてちょっと気分を持ち直して舞い上がっていたとき、

「ゲン坊!まだか!?」

リビングから姐さんの怒声が飛んできた。あんたさっきまで爆笑してたのに…なんて人だよ…

「ハイハイ、もう出来ますって〜」

俺は焼けた肉を皿に移し、フォークとナイフ、それから日本酒を瓶ごとリビングへ持って行く。

「おぉ〜美味そうじゃねーか!」

テーブルの上に料理|(肉と酒だけだけど)を置く。それから姐さんにナイフとフォークを渡すと姐さんはフォークだけを俺の手から奪い取り、マナーもへったくれもなしにフォークを肉に突き刺した。そしてそのまま肉に食らいつく。

ちょい!こんな高級なお肉様になんの敬意も払わず食いつく人なんて俺初めて見たぜ!?

「うめぇ〜」

姐さんは今度は酒瓶を開けるとコップにも注がず、らっぱ飲みをし始めた。

もうこの人めちゃくちゃだ…今に始まった事じゃねーけど…


あ、そだ。姐さんが食い終わるまでしばらくかかりそうだし、ここいらで姐さんの紹介でもしておこう。

姐さんの名前は風戸・輪廻(カザト・リンネ)25歳独身、彼氏いない歴イコール年齢って…痛いッ!ちょっ…姐さん!灰皿投げないで!てか人の心の中勝手に覗かないで!



フゥ死ぬかと思ったぜ…さ、気を取り直して紹介の続きだ。

俺と姐さんは苗字こそ同じだが、兄弟じゃない。姐さんは放浪癖のある俺のオヤジのお兄さん、俺からすると叔父さんにあたる人の娘、つまり従兄弟だ。

姐さんの職業は…ああ見えて警察官。それもエリート街道まっしぐらのキャリアってやつだ。踊る大〇査線に例えるなら室井さんみたいな位だったかな?

それにしても…畜生一体だれだよ…この傍若無人、俺様至上主義な超人に国会権力与えバカは!こんな超キケンな人にそんなチートみたいな権力与えたら、いろいろ崩壊するだろうが!

それと…姐さんは超がつくほど頭がいい、どっかの有名な国立大学を首席卒業するほどだ。そして更に…有り得ねー程強い。剣道三段、柔道五段、合気道八段、空手は師範のレベルを持っていて、よく技の練習台だーとか言って俺が使われてたんだよな…そのおかげで俺は驚異的なタフネスを手に入れた訳だ。

うぅ…今思い出すだけでも身体の節々が痛いぜ…

でもまぁ、そんな超ハイブリット、パーフェクト超人、バグキャラな姐さんでも出来ない事がある。

それは炊事、洗濯、掃除とか身の回りの事だ。それがホントに…壊滅的に駄目なんだ。

一度おにぎりを作らせたときなんて…ありえねぇ程リアルな心臓を象っちまったんだよ…味噌汁を作らせたらニトログリセリン並の爆発物が出来上がるし…うう…あれ以来普通のおにぎりと味噌汁が食えなくなっちまった。

つーわけで俺は叔父さんから家事がダメダメの姐さんの世話を頼まれてるんだよ。まったく…はた迷惑な話だよな…

とまあ、姐さんの紹介はこれで終わりだ。お?ちょうど姐さんが食い終わったみたいだ。

「あ〜食った食った。さて…腹も膨れた事だし、寝るかぁ…」

「ハイハイ、じゃあ今すぐ布団敷きますよっ…て、はい?」

今、なんか非常におっそろしい言葉を聞いたような気がするんですけど…聞き間違いかな?

「姐さん、今なんといいました?」

「ああ、私は今日からここに泊まるんだよ。メール見てないのか?」

「へ…?」

泊まる?止まる?とまる?トマル?

姐さんが、俺のマイホームに、泊まる?

「はいぃぃぃぃ!?!?…って姐さんマンションは!?…まさか家賃滞納で追い出されたんですか!?」

俺がそう言うと姐さんは笑いながら俺の頭を殴り、こう答えた。

「ははは!バカヤロウ、私は仮にも警察官だぞ?家賃の滞納なんぞするか」

「ッッ…じゃ、じゃあなんで?」

「ああ、家賃の集金の時、大家が部屋に入って来てな。ドアを開けた瞬間、泣きながら「出てって下さい」と言われて渋々出てった訳だ。それでその時はとりあえず部下に泊めて貰おうと思ったんだが、何故か皆大家のように泣きながら「勘弁してください」と言うから仕方なくここに泊まる事にした訳だ」

ちょッ!どんだけぇ!?どんだけ酷い有様になってたんだ姐さんの部屋!確か三日前に俺が掃除したはずだよなぁ!?ものっそい気になるけど、その前に姐さんの部下ぁ!なんで泊めねぇんだよ!お前等の上司だろうがぁぁぁ!


「どうせ叔父さんも叔母さんもしばらく帰って来ないんだし、勝手に部屋を使わせて貰うぞ。今考えれば、マンションなんぞに住まなくても最初からここに済めばよかったんだよな。あのマンションの部屋は私には広すぎたが、ここは調度いい。飯もタダだし、掃除も洗濯もお前がやってくれるしな」

「そんな勝手にッ…!」

「ふわぁ…ねむ…じゃあ私は寝る。明日は起こさなくていいぞ〜」

そう告げると姐さんは2階の俺の部屋に入り、そのままドアを硬く閉じてしまった。

「ちょっ!そこ俺の部屋!酷いよ姐さぁぁぁん!」

「うるさいカス!」

姐さんは部屋から片手を出し、ベッドの下に保存してある俺の夢|(断じてエロ本じゃないよ!)が詰まったダンボール箱を投げられた。

「畜生…横暴だぁ…俺の家なのに…」



拝啓、世界の何処かにいるお父様とお母様へ。

四年間、二人が留守の間わたくし信玄が我が家を守って来ましたが、姐さんという悪魔の襲来でもう無理です。守り切れそうにありません。

早く帰って来て下さい。でないと俺…たぶん殺されます。

敬具。




翌日


俺は今、悪…姐さんからの干渉を受けない唯一の安全地帯である梨乃木高校、二年A組のクラスにいる。

時刻は7時30分。朝礼までまだ一時間近く時間がある。

いつも遅刻ぎりぎりに学校に着く俺としては珍しい、というより奇跡に近い時間滞に俺は学校にいる。さっきすれ違った生徒指導にして担任である鬼ハ…(マサカリ)先生がスゲー驚いてた。

クラスには俺一人、他のクラスメートはまだ誰ひとりとして来ていない。いや、性格に言うと部活でもう学校に来ている奴らはいるだろう。

「暇だなぁ…」

…朝の学校ってびっくりするほどつまらない。

まぁ、姐さんから逃れる為とはいえ、ちょっと早過ぎたと思う。どうせならコンビニで時間潰せばよかったかな?

なんて思っても仕方がないので暇つぶしに校内を散歩してみる事にした。


…適当に歩いていてもつまんねぇし、よっしゃルート決めて行こう。

と思った瞬間、遠くでピアノの音がした。吹奏楽部が朝練でもしているのだろう。


「じゃ、音楽室にでも寄ってみますかね」

俺は教室を出ると、音楽室を目指してダラダラと歩き出す。


梨乃木高校は四階建てで空から見るとカタカナのコの型をしていて、なんとも在り来りな学校だ。全校生徒の数は600人弱、クラスはAからDの四つ、ちなみに三年B組に金八先生はいないぞ♪

…ゴメン、今の適当に流してくれ…


音楽室は四階の端っこにあり、俺のいる二年A組からはもっとも遠い教室になる訳だが、今の暇つぶしには調度いい距離だ。

音楽室に向かう間にいろんな先生や生徒達とすれ違ったけど、みんな俺を見るなり道を開けるんだよな…酷いやつなんて俺と目が合った瞬間叫んで逃げるんだもん…そんなに怖がるなよ…逃げられる俺は結構淋しいんだぜ?


そんなこんなで音楽室に到着…したけど、中でピアノを弾いていたのは眼鏡を懸けて女みたいな顔をした長髪の美形男子生徒だけだった。

他の吹奏楽部員はいないみたいだ。

せっかくなんでメガネ君|(今命名)が弾くピアノを聞こうと思った瞬間、メガネ君と目が合った。そしてメガネ君の手が止まる。

ヤベェ…さっきの奴らみたいに逃げられんのかな!?と、とりあえずなんか話し掛けて場を持たせねーと!

「す、吹奏楽部って今君だけ?」

なんて咄嗟に出た事を聞いて見ると、メガネ君は、

「フッ…」

っと鼻で笑いやがった。

「君は自分の通う学校の事を知らないのか?この高校に吹奏楽部はない」


あ…そういえばそうだ。うちの学校に吹奏楽部は無い。楽器イコール吹奏楽部だろうって思ってた俺ってバカだ…すげえ恥ずかしい…つーかピアノって弦楽器だ…吹奏楽は吹く楽器、トランペットとかトロンボーンじゃん。うわ〜俺バカすぎだ〜

「ところで君は何故この時間帯に居る?確か君はいつも遅刻ギリギリに来るはずだったが…」

「そうなんだよな〜いっつも遅刻ギリギリで鬼ハゲにどやされる…ってなんで知ってんだよ?」

「君は…同じクラスメートの顔も知らないのか?」

とメガネ君は呆れ顔で俺を見る。俺はうろ覚えのクラスメートの顔を思い出してメガネ君と照合する。

(美形メガネ…美形メガネ…)

30秒後…

「あ!居た!しかも生徒会副会長じゃん!」

俺が言うとメガネ君改め副会長は盛大にため息をついた。そしてクククッて笑い出しちまった…

「まったく君は…人の顔を思い出すのにどれだけ時間をかけるのか…まぁいいさ。俺は別に構わない。だが次からは、ちゃんと俺の名前を覚えておけよ風戸?」

「お、おう。ワリィ…で、なんて名前だっけ副会長?」

なんて聞くと副会長は軽く俺を睨んだ。

うう…そりゃそうだよな…相手は俺の名前知ってるのに俺は知らないなんて半端なく失礼過ぎるよなぁ…

火羽・戒縁(ヒバ・カイエン)だ。次からは覚えておけよ風戸・信玄」

「おう、わかった。任せとけ火羽副会長」

「以後俺の事は戒縁と名前で呼べ」

副会長改めカイエンはメガネのズレを直しながらそう言った。

「さて…俺は生徒会の業務の時間だ。また会おう、風戸」

カイエンはそう言い残すと音楽室から外に出て行った。

…なんだったんだアイツは?でも結構面白いやつかもしれない、ってか俺が知らないだけで他にも面白い奴っているんじゃね?

「にしてもアイツ…自分は名前呼ばせといて相手の名前は呼ばないんだな」

…まぁどうでもいいけど


ふと、時計を見ると時刻は7時50分。まだ40分も暇つぶしができる。

次は何処に行こうかね〜と思いながら俺は散歩を再開した。



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