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望んだのは、私ではなくあなたです  作者: 灰銀猫


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突然の来客

 ずっと気になっていたレニエ様の奥様の話は想像以上に残酷な話だった。王家と王太子妃殿下への心象が下がったのは否めない。ルイーズ様の文官でよかった。王太子妃殿下だったらきっと今まで通りにお仕えできそうになかったから。


「こんな私だけど、いい?」


 絡めた指が離れていく。それを寂しく感じながら頷くと、強張っていたレニエ様の表情が緩んだ。レニエ様は何も悪くないのだから嫌になる筈がない。離れた指を追うようにレニエ様の手を握った。


「ジゼル……ありがとう」

「いえ、私の方こそ……こんな辛いことを話して下さって、ありがとうございます」


 手が離れたと思ったら、そっと背に腕が回されて抱きしめられた。レニエ様の息遣いと体温を感じて心臓が一層動きを速め、思わず身体に力が入った。どれくらいそうしていただろうか。最初は息をするのも憚られる気がしていたけれど、優しく背を撫でられて落ち着いてくるとレニエ様の身体を感じた。思っていたよりもがっしりした体格なのだろうか。自分よりも体温が高く固い身体を意識してしまう。それでも、好きな人の腕の中にいるのはなんて幸せなのだろう。止まった筈の涙がまた溢れてきそうだった。


「はは、私は幸せ者だな。異動を断っておいてよかった」

「ほ、本当に異動、断っていらっしゃったんですか?」

「ああ、本当だよ。王家も私には強く言えないからね。そこは助かったよ」


 本当だったなんて……不謹慎かもしれないけれど嬉しかった。


「ジゼル、愛しているよ」

「レニエ様、私もです……」


 レニエ様の黒の中に私の姿が映っているのが見える。レニエ様の顔が近づいてきてそっと目を閉じた時だった。


「旦那様! よろしいでしょうか!?」


 あと少しというところで、突然ドアをノックする音と男性の声がした。驚いて目を開けると鼻が触れるほどの距離にレニエ様のお顔があった。


「……どうした?」


 さすがのレニエ様も声が固く低かった。


「そ、それが……お客様が……」

「客だと?」


 惜しい気持ちはあるけれど、来客なら仕方がない。執事が入って来てもいいように身体を離して座り直した。レニエ様が入れと言うと恐縮しながら入ってきた。


「一体誰だ? 今日はそんな予定はなかっただろう?」

「は、はい。左様でございます」

「それで、前触れもなくやって来たのは誰だ?」

「そ、それが……」


 そう言うと執事が気まずそうに私をチラっと見た。嫌な予感しかない。レニエ様もそれに気づいたようで目が合った。申し訳なく思いながら小さく頷いた。


「話してくれ」

「は、はい。お見えになっているのは、シャリエ伯爵でいらっしゃいます」

「父が……」


 やっぱりと体の力が抜ける気がした。元が付くけれど父なのには変わりない。一体何をしに来たのか……


「シャリエ伯爵は何と?」

「それが、ジゼル様に話したいことがあると。このようなことを言う立場にないのは重々承知しているが他に相談する宛がないと酷く焦燥されたご様子でして……」


 あの元父が焦燥? 俄かには信じられなかった。私とエドモンに事実上の絶縁を突きつけられて受けたんじゃなかったのか。しかもレニエ様のお屋敷に押しかけてくるなんて……そちらの方が腹立たしかった。


「……仕方ない。応接間に通してくれ」

「レニエ様? ですが!」

「追い返してもまた来るだろう? 職場に押しかけられる方がもっと困る。話だけでも聞いて、聞き入れられない用件なら突き放すだけだよ」


 微笑みながら諭すようにそう言われた。レニエ様は執事に元父を応接室に通すように命じる。確かにその通りなのだけど、申し訳なくて涙が出そうだ。これは悔し涙だけど。


「申し訳ございません」

「こういうことも想定済みだから気にしないで。ジゼルのことならどんなことでも迷惑だなんて思わないよ」

「ですが……」

「こんな時こそ私を頼って欲しいね。ジゼルに頼られるなんて光栄でしかないから」


 嬉しいけれど、そんな風に言われ慣れてないせいかどう言い返せばいいのか困ってしまう。


「どんなに些細なことでも私に話してくれると嬉しい。ジゼルは何でも自分で解決しようとするけれど、頼られないのは寂しいよ」

「は、はい」


 益々顔が赤くなっているだろう……寂しいなんて言われると困ってしまう。頼り過ぎて重い女にはなりたくないのに……


「ああ、こんな可愛い顔のジゼルをシャリエ伯爵の前に出したくないな」

「ち、父ですよ?」

「それでもだよ。本当はどんな男にも見せたくないよ」


 こ、こんなことを仰るような方だったろうか。あまり女性に関する噂を聞いたことがないけれど、これだけ素敵で地位も身分も高い方だ。女性が寄って来ないはずがないだろうに……


「ふふ、心配しなくても女性が寄って来ることはなかったから安心して。まぁ、全くないとは言わないけれど」

「い、いえ……そんな……」


 こういう時、どう答えたらいいのだろう。経験がなくて何て言ったらいいのかわからない。


「可愛いね、ジゼルは」

「か、揶揄わないで下さい……」


 恥ずかしいし、返す言葉が見つからなくて頭の中がパニックになっていた。こういうやりとりも初めてだからお手柔らかにお願いしたい。


「さて、そろそろ向かおうか。あまり待たせるわけにもいかないからね」

「そ、そうですね」


 すっかり父のことが頭から消えていた。





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