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望んだのは、私ではなくあなたです  作者: 灰銀猫


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次の婚約者と言っても…

 次の休み、オリアーヌを訪ねた。父が私の婚約者を探すと言っていたから、彼女に令息の情報を聞きたかったからだ。彼女はルイゾンと復縁する前に相手を探していたから情報を持っているだろう。彼女は次期当主として父君と一緒に当主の集まりに行くし、令嬢や夫人らのお茶会にも顔を出している。他の令嬢よりも情報通なのだ。


「そう、ミレーヌ様が……」

「ええ、父もさすがに焦っているわ」

「でしょうね。クルーゾー侯爵は元々ミレーヌ様との婚約には難色を示していたから」

「淑女教育、思った以上に進んでいなかったわ。それにエクトル様が公爵令嬢に心変わりしたと聞いたわ」

「ああ、ドルレアク公爵家のラシェル様でしょ?」

「ええっ!? ラシェル様って、あの?」


 ドルレアク公爵家には三人の令嬢がいる。てっきりエクトル様と同じ年の二女かと思っていたけれど、三女のラシェル様だったとは。ラシェル様は美しく聡明で年より大人っぽい顔立ちで、ミレーヌやフルール様とは対照的なご令嬢だ。だからエクトル様が惹かれるとは思わなかったのだ。


「反動というか、同じ美人でもマナーが出来るかどうかは大きいと気付いたんじゃないかしら? エクトル様、一足早く成人して次期当主として働いているし」


 成人して世間に出れば、学園での価値観などあっという間に消えてしまう。社交は遊びじゃない。人脈を広げ、情報を集め、領地を富ますための駆け引きの場だから。


「世間に出て目が覚めたんでしょうね。ルイゾンやフィルマン様と同じようなものよ」

「ああ、なるほど」

「それにしたって、次期当主ならもっとしっかりしろと言いたいけどね。私なんか在学中から家のことに忙しくて、恋愛なんかする暇もなかったわ」


 オリアーヌのお父様は厳しい方だから、早くから当主の仕事を任されるようになっていた。そのせいでルイゾンと過ごす時間が少なく、それがあの騒動の一因になったのは否めない。


「婚約者だからって、好きになれるとは限らないものね」

「そうね。向き合える相手ならいいけど、そうとは限らないものね」


 時間をかけて絆を深める夫婦もいるけど、そうでない夫婦も同じかそれ以上にいる。相手の家格が低いと蔑ろにする者もいれば、生理的に無理という場合もある。相性を見るなんて言われるけど、事業提携などが絡んでくるとそんなことは言っていられない。

 平民の間では恋愛結婚も増えたけれど、貴族ではまだまだ少数派。だからアラール様やルイ殿下が真実の愛だとあんなにも持て囃されたのだ。


「……結婚って、難しい……」

「それは否定しないわ」


 既婚者に言われるとよけいに重みを感じる。


「するなら信頼出来る相手がいいわ……」

「今、実感しているわ」

「ええっ!? ルイゾン様、まさか?」


 オリアーヌを見上げると、困ったように眉を下げていた。


「浮気なんかしていないわよ。そこは大丈夫なんだけど……」

「だけど?」

「一度冷めるとダメね。何だか空気みたいなの。きっと浮気されてもふ~んとしか思わないんじゃないかしら。それが虚しいわ」

「そう……」

「貴族なんだから仕方ないって言われればそれまでだけどね」

「まぁ……確かに」

「ジゼルには、納得出来る相手と結婚して欲しいわ。私みたいな縛りもないんだから」


 オリアーヌも兄弟がいたらもっと楽に生きられただろう。それでなくても女性の当主は風当たりがきつい。わかっていても辛くない筈がない。そう思うと、私はまだ恵まれているのだろう。


「ジゼルなら公爵夫人もいけそうよね。ルイーズ様の文官だもの」

「そんなことはないわ」

「あるわよ。男性だって文官試験に受かればそれだけで箔が付くもの。女性なら尚更よ」


 確かに女性は男性の一、二割しかいないから数は少ないけど、私は特別優秀なわけじゃない。


「最近はジャンベール伯爵家が嫡男の妻を探しているわ。優秀ではあるんだけど、女性関係が派手なのよね。しっかり者の妻を探しているようだけど、そんな男性は嫌でしょう?」

「もちろんよ」

「後は……アルカン侯爵家の次男、バレーヌ公爵家の三男、ベルティエ伯爵家の嫡男辺りかしら。中央貴族ね。辺境の方なら嫡男でも独身の方はいるけど、お父様が許さないでしょう?」

「多分ね。父は家の利益になる中央貴族しか考えていないと思うわ」


 我が家の領地は王都に近いから、父が狙っているのは王都近くに領地を持つか重職に就いている宮廷貴族だ。


「中々いい相手はいないわね」

「そういう人は争奪戦だもの。学園に入る頃には売約済みよ」

「そうよね……」


 それは私も身に染みている。フィルマン様と婚約した時も大変だった。美人でもなく特別優秀でもなく、伯爵家の中では家格も高くない我が家、しかも目立った産業もない家と縁を結びたがる家は少ない。せめてミレーヌみたいに美人なら違うのだろうけど。美人は遺伝しやすいからそれはそれで価値があるのだ。


「職場は? 誰かいい人いないの?」

「う~ん、独身はブルレック様だけよ」

「ブルレックって……伯爵家の?」

「ええ」

「ああ、あの家、嫡男が探していたわよ」

「あの家も? 嫡男って……」


 ブルレック様は次男だと聞いている。彼も独身だけど、その兄も未婚だったのか。


「いい話は聞かないわ。伯爵は暴力を振るうと言われているし」

「ブルレック様もそんな感じよ。あの家に嫁ぐくらいならフィルマン様と復縁した方が百倍ましね」

「私もそう思うわ」


 ブルレック伯爵はあちこちに婚約の打診をしているという。でも未だに婚約者が決まらないのは兄弟そろって性格に難があるということか。


「そうなると……あれ? そういえばミオット侯爵は? あの方、奥様いらっしゃったかしら?」

「え?」


 そう言われて、はてとこれまでの記憶を思い返す。カバネル様やムーシェ様のご家族の話を聞いたことはあるけれど、室長の話は聞いたことがなかったかも……


「夫人の話を聞いたことないわ。お茶会でも。え? もしかして独身?」

「まさか。当主だしあのお年よ。いなければ話題になるでしょ」

「そうなんだけど……」


 オリアーヌはまだ納得いかない風だったけれど、あのお年で独り身だったら周りが黙っていないだろう。特別美形ではないけれど、若くして当主になり、王子妃付きの文官室の責任者なのだから。


 結局、希望が持てる情報はなかった。出来れば父より先に好ましい相手をと思ったのだけど……学生だった頃でも難しかったのだ。この年ではもっと難しいのは明らかだった。





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