君とバースデー
こんにちは! こんばんは! おはようございます!
拙作を再びご覧いただいてくれた方、初見の方もありがとうございます!
普段は、拙作「最低なケモノと共に。」という作品を書いている水浦奈介と申します。
本日は拙作の主人公「七樹」と「奈波」が誕生日ということもあり、七夕にちなんだIFショートストーリーを書いてみました。
それでは、楽しんでください!
人々の喧騒がここら一帯には響き渡り、皆、楽しそうな表情をしている。ある小学生グループは小柄な体に元気と楽しさを秘めて、祭りの雰囲気を目いっぱいに楽しんでいる。
ある陰気臭い男子のグループはTシャツに半パンという地味な格好だが、目当ての商品や景品欲しさに闘志を燃やしている。
初々しさを見せつけるように付き合いたてだろうカップルが手を繋ぐか繋がないか迷っていたり、逆に手をガッツリ繋いで愛を見せつけているカップルも多く存在する。
七樹は七夕祭りに来ていた。待ち合わせである鳥居の前にはたくさんの人々が行き交っているが、七樹は一人鳥居の前でとある人物を待っていた。
ちらりと自身の服装を見てみると、紺の浴衣はシンプルでクールな印象を与える。そして、未だに慣れない下駄を履いていた。
慣れない格好と気恥しい髪型──センターパートをし、いつもとは違い、大人の風格を漂わせる。遠くで煌びやかな服装をした騒がしい女子たちが七樹を見てかっこいいと騒いでいた。
「遅れてごめーん!」
声のする方へ視線を送ると、そこには七樹と同じく浴衣姿の奈波がいた。
白の浴衣は愛らしさと清楚感を表し、お団子をした髪はいつもの下ろしているときと違い、色っぽい印象を与える。そんな彼女に七樹は見とれていた。
「ごめーん! 準備に時間かかってて……」
「いや、大丈夫。つーか、走ってくるなよな。危ないから……」
謝る奈波に七樹は大丈夫と伝える。それよりも、奈波の心配をした。慣れない下駄で走るのはさすがに危険すぎる。七樹のために走ってくれたとはいえ、危ないことはさせたくなかった。
「だって……七樹に早く見せたかったんだもん……。私の浴衣姿」
「……ありがとうな。めっちゃ可愛いし、似合ってる」
可愛らしいことを言われれば七樹はお節介を言うのは躊躇ってしまう。「自分のため」という言葉に男子は弱いのだから。もう従妹ではなく彼女。同じように接してはいけないと少し七樹は反省した。
「だって、今日は私たちが付き合って一年目だし、私たちの誕生日だからね。好きな人には早く会いたい! って思うのは当然でしょ?」
「うん、もう一年か……。めっちゃ早かったな」
「こないだまで誕生日二人で祝ってた気分だもんね!」
二人でいれば時間の流れは早いことを更に実感し、七樹はそっと奈波に手を差し伸べた。
「それじゃあ、今日は今までのどのデートよりも楽しんでくれるように頑張らないとな」
その意味を理解した奈波は一層瞳に輝きを見せて、
「うん! よろしくね!」
その手を絡ませた。
二人は人混みのなか、散策をした。奈波のリクエストを次々と叶えていた。
「七樹! 綿あめ一緒に食べよう?」
「いいよ、買ってくる」
「私もいくー!」
奈波の手を離さないようにしっかりと繋いで屋台へ向かった。お金を払って商品を受け取り、奈波に渡す。
「ありがとう! あ、写真撮っていい?」
カメラを向けられて、ツーショットを撮る。七樹と奈波の二人の思い出がどんどんと増えていく。七樹は奈波の思い出を大事にしてくれるところにすごく惹かれた。とても人のことを大事に思ってくれるのだ。
「よし、次行こっか!」
それから、七樹と奈波はたくさんの屋台を回った。
「見てみて! ラーメンなんてあるよ!」
それはご当地限定のラーメンを紙コップほどの大きさの容器に入れて食べ歩くものだった。興味津々の二人はそれを購入し、夏には不釣り合いな熱さを帯びた麺を食べる。
しかしながら、全く熱さに不快感はなく、それすらも美味しさと思えるほどだった。
射的をし、ヨーヨー釣りをして、りんご飴を食べて。
色々なことをして、小学生やどの学生カップルよりも、この祭りの雰囲気を楽しんだ。
『──間もなく花火大会が始まります。ご覧いただくお客様は展望エリアにてご覧ください。繰り返します──』
アナウンスが流れ、そろそろそんな時間かと人々は我先に展望エリアへと向かう。
「……最後にこれして行こっか」
「おう、つーか、俺がエスコートする予定だったのにいつも通りお前に引っ張られたな」
「あはは、だね。いつも通りの私たちが一番いいってことかな」
最後に行うのは金魚すくい。七樹と奈波が幼い頃からやってきた「勝負」だった。敗者は勝者の次の年に何でも願い事を叶えさせる、というルールで行っていた。勝敗は現在、五分五分だった。
「今年は負けないよ?」
「負けるわけないな。俺めっちゃ上手いから」
お互い闘志を燃やしていざ、慎重に金魚たちを救っていく。普通の金魚はカウントを「一」としデメキンは「五」、滅多にいない金色の金魚は「十」と数えての勝負だった。
慎重かつ、素早いポイ捌きで二人のボウルにはどんどん金魚たちが集まっていく。
「あっ!」
デメキンが跳ねた衝撃で奈波のポイが破れてしまった。奈波は続けることが出来ず、まだすくっている七樹は優位になった。
七樹のポイも破れてしまい、結果は──わずかながらの差で七樹が勝利した。
「よし、勝ったかった! 危なかった……」
「くやしいー! 来年こそ勝つからねー!」
勝っても負けても彼らには笑顔が絶えない。そんな雰囲気に辺りは人だかりが出来ていた。
「あ、やばい。そろそろ向かった方がいいんじゃないか?」
「そうだ花火! 急がないと!」
人だかりを撒きながら、七樹は奈波のペースを見ながら展望エリアに向かった。ぎりぎり始まる前に到着し、人の少ないスポットで二人は待った。
突如、空に轟音が響いて、人々の歓声が波のように聞こえた。
赤、青、緑。そして、スイカやかき氷などを模した花火まで、色とりどりの色がたくさんの歓声を促した。
「めっちゃ綺麗!」
「すごいよな! あの形ってなんだ?」
「うーん、虫っぽいね。……もしかしてセミ?」
「セミはないだろ……。カブトムシじゃないか?」
「言われてみればカブトムシっぽいね」
奇妙な形をした花火が続いており、二人で形を当てながら景色を楽しむ。
そして、フィナーレ。連発で放たれる花火が空を埋めつくし、まるで日が昇ったかのように辺りが明るくなった。
一瞬の太陽が消える瞬間、七樹は奈波に向かってこう伝えた。
「奈波、誕生日おめでとう。そして、俺と付き合ってくれてありがとう」
その声に次は本当の太陽が登ったのかと思うほど奈波の笑顔が輝いて見えた。
「七樹も誕生日おめでとう! 私こそ今までありがとう! これからも。ずっとよろしくね!」
その言葉と共に奈波は七樹に抱きついた。どうしようもなく、愛おしくなり、七樹は支配した欲望──キスをしたいと思った。
「奈波……」
そっと顔を近づける七樹。奈波はその意思を読み取ったのか、潤んだ瞳を閉じた。
二人の甘いキスが、この世界に産声を上げた。
いかがでしたか?
七樹と奈波のIF日常はこれにておしまいです。
本編の七樹たちはあらすじのURLまたは「最低なケモノと共に。」で検索してもらえると嬉しいです。
拙作は毎日投稿中ですので、少しずつご覧いただけると嬉しいです。
いいね・感想頂けると喜びます!
それでは、「最低なケモノと共に。」でお会いできれば嬉しいです。
ありがとうございました!