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蒼雷のオデュッセイア~黒き獅子王と紅き吸血姫は月下に舞う~  作者: くろいゆき
第一幕 機械仕掛けの騎士
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第12話 動いた……こいつ動くぞ

 クラーケンの触腕が迫ってくるが、何も出来ない。

 自分だけ、助かろうとするのなら、助かる手段はある。

 だが、悠の中に目の前で意識を失っている少女を見殺しにするという選択肢はなかった。


 男としても人としてもどうかと考えてしまったのが悪かったか。

 こういう状況での判断の遅れは致命的なミスに繋がるものだ。

 しかし、もう遅いと思わず、反射的に目を瞑った悠だったが、衝撃も痛みも何も来ない。


「何だ……雪?」


 鞭のようにしなっていた触腕の動きが完全に止まっていた。

 ふと顔に触れる冷たい物に気が付いた悠が見上げると空から、深々(しんしん)と降ってくるのは白くふわふわとした雪だった。


(おかしいだろ!?)


 彼の頭は軽く、混乱していた。

 今は九月である。

 残暑が厳しいどころではない猛暑が続く日々なのだ。

 雪が降ってくるのは早すぎる。

 明らかに狂っているのだ。


 悠は触腕も止まったのではないということに気付いた。

 季節外れの雪。

 異変(急激な気温低下)に因るものだと彼が答えを導き出した時だった。


 音もなく、静かに闇が舞い降りた。

 闇色のカーテンが降りた黒い森に溶け込む闇よりも深く、昏い影が触腕とミネルヴァの間に立ち塞がっていた。

 立ちふさがるという言い方は正確ではないだろう。

 その姿はまるで悠とミネルヴァを庇うように黒い影が現れたと言うべきだった。


 黒い影は装甲機兵(アーマードマシナリー)に良く似た外観を備えていた。

 頭から、黒い塗料を被ったのかと疑いたくなるくらいに漆黒としか、例えようのない全身。

 二本の角とも羽飾りとも取れる突起物と単眼(モノアイ)は、悪く言えば悪役面をしているように見えた。

 

 装甲機兵(アーマードマシナリー)は人類共通の資産である。

 その為、共通規格のコネクタが搭載されており、背中、腕、足にウェポンラックや追加兵装を装備が可能になっているのだ。

 だが、目の前の影が装備しているものはこれまでにない形状をしていた。

 見た目は蝙蝠の翼に良く似ている。

 奇妙な形状は翼としか、言いようがないものだ。


 黒い装甲機兵(アーマードマシナリー)の頭部で赤く輝く単眼(モノアイ)が触腕を捉えると腕部マニュピレーターで掴み、そして、軽々と砕いた。


「粉々になった? 凍っていたのか」


 黒い装甲機兵(アーマードマシナリー)は悠に向かって、右の拳を握りながら、親指を立てた。

 サムズアップ。

 そして、ゆっくりと地面の方へと向ける。

 いわゆる、サムズダウンだった。

 この場合、ゴートゥーヘルの意味合いが強かったのかもしれない。


「蛸だけじゃないのか! 冗談じゃない」


 初めて、恐怖と思しき感情を抱いた悠は何とか、ミネルヴァを起動させようと焦るが、それを横目に黒い装甲機兵(アーマードマシナリー)は蝙蝠の翼を広げる。

 そして、夜空へと溶け込むように飛び去っていった。


「飛んだ!? 嘘だろ……」


 単独で大気圏を飛行出来る装甲機兵(アーマードマシナリー)はまだ、開発されていなかった。

 これには制空権をルフ鳥やサンダーバードに抑えられていたことが大きく、影響している。

 通常の航空戦力をいくら、揃えても太刀打ち出来ないことは明らかだったからだ。

 その為、無駄なお荷物になりかねない空戦用の装甲機兵(アーマードマシナリー)を開発するよりは陸と海の戦力を充実させるべきだと上層部は判断した。


 悠は唖然として、闇夜を見送ることしか出来なかった。

 つい苛立ち紛れにコンソールの球に拳を叩きつけた時、異変が生じる。


「何だ?」


 それはグニャという掴みどころのない感覚だった。

 まるでゼラチンの塊にでも手を突っ込んだようだと悠は感じていた。


 その瞬間、ミネルヴァのハッチが閉じる。

 全天モニターに膨大な数字とアルファベットが羅列されていく。


『登録No.01を確認。メインシステムを起動します。


Genesis

Outwit

Exodus

Thrive

Immortal

Axiom』


 女性に似せた機械音声が抑揚なく、読み上げていくのは装甲機兵(アーマードマシナリー)OSオペレーションシステムだった。


「GOETIA……ゴエティア?」


 彼は不思議な感覚を味わっていた。

 自分が何かと繋がっているような錯覚を覚える。

 自分の体が自分だけではないと感じる。


(なるほど、そういうことか……)


 ミネルヴァが両腕で大地を押さえ、ゆっくりと上体を起こしていく。


「動いた……こいつ動くぞ」


 そんな動きが行われているのに、ミネルヴァのコックピットには何の揺れも生じていない。

 悠は早くも操るという感覚を掴んだ。

 思う通りに動いてくれる。

 自分の体のように動かせる。

 さっきの黒い影が言いたかったのはそういうことか、と合点した悠は眦を上げた。


「俺が蛸を地獄に送れってことだな」


 立ち上がるミネルヴァの胴や脚部の廃熱口から、熱気が吐き出される。

 頭部のツインアイに光がともり、二つの輝きが戻った。


 冷静さを取り戻した悠はどう戦うべきかを考え始める。

 先程のミネルヴァとクラーケンの戦いで使用されていた短めの刀――忍び刀は手元になかった。

 恐らく、吹き飛ばされた時に落としたのに違いないと予想した悠は次の手を考える。

 操作マニュアルなんて、気が利いた物はないのだ。


「ならば、この拳と蹴りでどうにか、すればいいだけだ!」

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