君とキミ
いつからこうなってしまったのだろう。
君と初めて出会った時、心が軋むような感情があった。
だが今となっては声も顔もどんな性格だったのかすらも、思い出せない。
「ある春の日、唐突にキミから誘われたんだ。そして…。」
そこで君は言うのを突然やめた。
一体何があったのだろう。どう反応するのが正解なのかと、
考えを巡らせてみたが何も思い浮かばない。
黙っていることを気まずく思ったのか、また少しずつ話してくれた。
「キミはね、今まで出会ったことのない人だったんだ。
だからもっと話してみたいと思って、明日なら空いてると伝えたんだ。
今のキミに伝えても意味がないのかもしれないけれど…。」
そこでまた話が止まった。
君がどうして泣いているのかすらも分からない。
ただ、この人は優しい温かみのある人なんだと思い、
声を掛けようとしたところで意識が途絶えた。
ここはどこだろう
今さっきまで話していたはずなのに、姿が見えなくなった。
考えても仕方ないと思い、きっと今のは夢だったんだと自分を納得させた。
その時姿が見えないはずの君の声がした。
「今までありがとう。いつまでも幸せでいれたのはキミのおかげだったよ。」
少しずつ声の音量が小さくなり、鼻をすするような声が聞こえてきた。
そして、甘美で心地よい眠気が襲ってきた。
目が覚めたころにはキミはもう衰弱していて、病院のベッドだった。
「ごめんね。」と呟きながら、私はキミと出会った事を一生懸命話していた。
最初は一週間に一度の感覚で記憶をなくしていくようになった。
治療や投薬をしても原因不明の病で、治る見込みがないと言われた。
記憶をなくす期間も五日、三日、一日とどんどん感覚が狭くなってきた。
どうにか記憶を戻そうといろいろな話をしてみたけど、効果はなかった。
そして今日、ようやくキミは眠るように亡くなった。
私もすぐにそっちに行くから、また私を愛してね
「キミの事は二度と離さないからね。」
そして、キミの隣で手を繋ぎながら眠った。