己を知りチートを知る(5)
目の前が真っ白になり、朝日が差したのだと認識すると同時に、久しぶりに夢を見ていた事に気付いた。
起き上がってすぐに石の塊を砂にして、空間に隙間を作り、ノートを次々と放り込んだ。
次に本棚や机、テーブルを滑らせるように押し込んだ。
片付け終えベットに腰掛け一息つくと、何もないこの部屋は時間が止まっているように感じた。
ハヤテの話から察するに、朝食ももうここでは食べないのだろう。王妃様が早速動いてるというところか。
アベリアが塔の下くらいまでは迎えに来るだろう。
目を閉じ、今日やる事を反芻する。
全て確認し終えたら、朝の気怠さを飛ばすように立ち上がって体を動かす。
何の気なしに動いていたつもりが、染みついたラジオ体操を流れるように終えていた。
クソだったあの世界と一緒の事をしてる自分になんだか笑いが込み上げる。
いや、この世界も一緒か。
他人の事なんてお構い無しで自分勝手に生きて、自分の無能さで困って縋ってきて、自分は何もせず怠惰を貪る。
責任を押し付け逃げ回り、手柄を拾い集めて威張り倒す…
そこまで考えてから頭を振り、深呼吸する。
嬉しい事、楽しい事に記憶を巡らせ、負の感情を奥へと押し込める。
今の俺には立場があり、力がある。
前世よりもっと良い記憶が増えるだろう。
そうだ!王族貴族なら一夫多妻だしハーレムも作ろう!
容赦はしない。
間延びする心の葛藤はいらない。
シ●ジくんに表面的に影響された意気地なし主人公にはならない。
覚悟が決まった所で立ち上がり、空間収納へベットを仕舞い、散らかった砂や石片は、塊にして投げ込んだ。
「足元よし!整理整頓よし!」
外に出てから指を差して、部屋を見渡し口ずさみながら、自然と口角が上がったのが分かった。
塔を降りるとやはりアベリアが待っていた。
いつもとは違い張り詰めた空気を纏っており、小さな俺の5歩ほどの距離が、表情を読み取れないほど遠くに感じた。
息を止め、彼女の足元まで近づいた。
「フーマ様どうぞこちらへ」
真下にいる俺に向かって、丁寧に頭を下げながら言い、流石ですといつもの笑顔で付け加えた。
すぐに能面のような顔で頭を上げ、付いてくるよう促した。
大きな扉の前で止まり、ここが食卓なのだろうと嫌でも勘づいた。
「ちょっと待て!この手荷物が見えないのか!先に部屋へ案内しろ!」
シーツに包んだ石の塊を見せ、大声で怒鳴り散らすと、彼女はまた歩き始めた。
通された部屋は、以前の部屋より広くなったものの、不要な家具のせいで手狭に感じた。
「フーマ…「しーっ、静かにしろ。」
扉が閉まるや否や、嬉しそうに振り返る彼女を制した。
いかにもと言った大理石のテーブルに、花瓶の水を零して念じる。
“「今から言う指示を淡々とこなせ」と書け”
彼女が小さく頷いたのを確認し、また声を張り上げる。
「さっさと飯を持って来い!」
淡々とと言ったのに彼女は慌てて部屋を出て行ってしまった。
呆れながら水を戻し、大きすぎるイスに座って豪華な彫刻扉が静かに閉まっていくのを眺めていた。
「さあ、仕事を始めようか。」
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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