鑽火が清めるもの(3)
※ヨル視点です。
「そりゃ皇族だから妾も必要だろうけど…私の事ももっとというか…」
ハトホルが頬に手を当てて何かごにょごにょ唱えているが…不思議な女だ。茶色い顔を赤くしている。
それよりもなんだかわからないが、あの黒い飲み物が気になるぞ。この白い飲み物も美味いのだが…2人の満足そうな顔を見ると余計唆られる。今すぐ確認してもらえば飲ませてくれるのか?
私は着慣れない服の裾を託し上げ、彼へ見せつけた。
「なんなら今からでもいいぞ!フーマ、どうだ!?」
「いや、今はそれで我慢してくれ!それより隠せ!」
彼も白い肌を赤くして、手を前に出して横に振っている。仕方なく裾を直して不満を露わに椅子へ座った。
昨日は彼女のものを見てた癖に何なのだ。
「俺は愛無き交わりは好かん。ヨルが心を開いてくれるまでそういう事はしない。」
彼はまだ赤い頬のまま、真剣な面持ちでそう付け加えた。
フーマは時々難しい事を言う。愛があるとは何なのだ。そもそも愛とは何なのだ。私が昨日見た事と今まで見てきた行為の何が違うというのか。私はただコーヒーとかいうのが飲んでみたいだけだと言うのに…
腑に落ちないが、私はまた牛乳を舌に乗せて舐めとるように飲み始めた。少し温くなったまろやかなそれは少し癖があったが、中々に美味かった。
「さて、ではそろそろ参りましょうか。」
彼はハトホルと私にそれぞれ手を出している。彼女の真似をして、差し出された手を取り立ち上がると、開けた場所へ転移していた。
「こちらへどうぞ。」
人が変わったように私達を椅子へと座らせる。まだ日が低く風が少し肌寒い。
彼はお見通しのようで、膝に厚手の布を掛けてくれた。
「ここはどこなの?」
「観客席だよ。領主様の家の屋上。」
彼女の問いへ彼はストッと座りながら答える。彼の視線の先へ目をやると、町から一列に伸びる人の群れが見える。何かへ向かって一列に…
「あれはなんだ?」
「亡者の後進だよ。神様は果たして彼らの罪穢れを清めてくれるかな。」
彼は目を細めてじっくりと行く末を見ている。帰ってくる人間達は肩に死体を乗せて、こちらへ歩いてきた。
「み、見つかるんじゃないの?」
「大丈夫。重い物を担いでいる時、自然と目線が下がる。それに動かなければ意識の外にいる物を見つけるのは難しいんだよ。」
彼の言うことは正しいのだろう。せっせと隣の建物の前へと運んでいく。
「あれは何をしてるんだ?」
「俺にもわからない。せっかく並べてやったのに何をするんだろうな。」
彼は呆れた様子でやれやれと首を傾げている。
運ばれた死体は身ぐるみを剥がされ、どんどん積み重ねられていき、山の様になっていく。山を囲むようにその親族らしき者達が輪になっていく。
そこへ偉そうに胸を張って歩く男と、一際目を引く変な格好の男が現れた。
「主演と助演の登場だ。」
「彼らを知っているの?」
「カルロス侯爵様と大司祭エドワード様だよ。」
「その汚いのをさっさと燃やせ!目障りだ。」
「腐る前に燃やさなければなりませんよ。さっさとおやりなさい。」
2人は民衆へ向かって大声で喚いている。取り囲んでいる住人や兵士は躊躇し、立ちすくんでいる。
「やめてー!お父さんを燃やさないで。」
子供が1人駆け出して行き、山の中から雪崩れ落ちた頭を抱えた。
「おい、これの親はどこにいる?
ん?貴様か…村とわしの部屋、どっちがいい?」
へたり込んだ女を見つけ、馬鹿でかい声で笑いながら2択を迫っている。
「ひどい…なんて事を…それに風の国でも遺体は土葬では無かった?」
「あぁ。死してなお業火に焼かれる姿は争いを彷彿とさせる。安らかに眠ってほしいと埋葬する事が多いようだな。」
塞ぎ込むように俯く彼女と対照的に、彼は物語の行く末を全て焼き付けるようにじっと見ている。子供は引き剥がされ、松明が投げられる。
煌々と燃え出す亡骸を見て、何とも言えない高揚感が胸を占めていく。燃え広がる気まぐれな火の手と共に…
人身が焼ける匂いが鼻を突き刺す。木が燃え落ちるように肌が黒く変わっていくのがわかる。周囲に居た人々はそれが自分と関係ない物になっていき、立ち込める悪臭から逃げるように家路についていく。
「さてさて、序章の一幕が終わり、休憩という所かな。」
そう言いながら彼は筆で紙に何やら印をつけているようだ。
「お昼にしようか。さ、手を出して。」
言われるがまま私達が手を出すと、優しく包むように手を握ったかと思ったら、また朝のように食卓へ座らされていた。
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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