鑽火が清めるもの(1)
※ハトホル視点です。
彼が入ると30そこそこの女性が食器を片付け、男の子が走り回っていた。
「なんだアンタ、帰ったのならそう言いな。なんだいその格好!外で脱いで来な。」
「父ちゃんなにコイツ!新しい玩具?」
「い、痛い…痛い。」
男の子は5、6歳だろうか。鼻を垂らしヨルの髪を引っ張っている。
「お前らは何故飯を食えてると思う?」
「アンタ、酔ってんのかい?声もおかしくなるまで飲んで!そこの…なんだっけ、アンタも帰んな。うちにゃ酒は無いよ。」
厄介そうに手を逆手に振っているが、彼は頑として動かない。
「お前らは何で飯を食えてると思うんだ。」
「はいはい、アンタが町を守ってるんだろ。何万回と聞かされたよ。」
「父ちゃんこの獣遊んで良いの?」
彼女は呆れたようにまた食器を片付け始めた。子供はヨルの尻尾を引っ張り始める。
「そういう話でな無いんだが…この町は何故飯を食えてると思う?」
「はぁーっ、そりゃカルロス様がこの小汚いのを売ってくれるか「フーマ、待って。」…え…」
私の制止も虚しく彼は女の心臓を一突きし、投げた短剣は子供の右目を通って頭部を貫通させていた。
「台本通り、想像以上だな。」
彼は鎧を脱ぎ、死体の服で刀の血を拭っている。
「フーマ、あなた子供まで…」
彼に対する怒りが込み上げたが、そこまで出た言葉を引き止めた。
私も鎧を脱ぎ、ヨルの手を縛る縄を解く。彼女の顔を見ると、長く乱れた髪の中で白い歯を剥き出しにしている。
「優しいな。」
血を拭き終えた手で私の頭を撫でると、私達を座らせた。
彼は鍋に残る料理を一口食べ、調味料とトマトを足してミネストローネを出してくれ、3人で食卓を囲んだ。
「俺は歪んだ思想や倫理観は根絶やしにする。」
「子供に手をかける必要があるの?」
怒りと恐さで思わず声が震えてしまう。しかし彼はいつもと違い、冷たい眼差しで真っ直ぐ私を見つめ返している。
「この病巣は綺麗に全て取り除かなければ必ず伝染し、いずれまた大きな巣を作る。」
「あなたは何を恐れているの?」
問いに彼はヨルの方へと視線を注いだ。ヨルは上機嫌でトマトの風味が効いた肉を食べている。
トマトが弾けるような惨状を目の当たりにしてよく食べられるものだ。
「奴隷という概念…君にも小さな巣がある。君らは当たり前の感覚だろうが…俺も君を物として扱って構わないか?」
「…嫌……でも、子供まで殺さなければならない事なの?」
「子供は清いか…ヨルを連れてきた意味がわからないかな。さっき道端で石を投げてた子供は何にぶつけて遊んでた?」
彼女を見ると「ん、呼んだか?」と口の周りを真っ赤にしている。彼は暖かい視線を送り、彼女の口を拭いた。
「もう奴隷はいらないだろ…荷車は馬が引いてくれる。農業は賃金が払えるだけの価値を作った。土木、建築作業にも、採掘作業も。」
彼は俯いて投げ捨てるように呟く。
彼の行いを思い返してみると、いつも奴隷に分け隔てなく接していた。様々な奴隷が行う事業と商業を結び付けていた。そして階級制度を無くした。
「…ごめんなさい。」
「いいよ。地獄までついてくるんだろ?」
頭を優しく撫でてくれる。いつもの暖かい微笑みを浮かべながら…
「話終わったか?おかわり欲しいんだが。」
ヨルがあまりに空気を読まないので2人で見合わせて笑ってしまった。彼はおかわりをよそい、私は彼女の口を拭いてあげる。
「ところでヨル、これからお前はどうする?」
「どうするって…ついてくぞ。」
また口の周りに付けながらガツガツとご飯を食べて話すので、テーブルに赤い汁が飛び散る。
「もう自由になっていいのよ?それでも私達と来るの?」
「こんな美味いものが毎日食べれるなら私は行くぞ!」
私と彼はまた顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。彼女は「なんだ。悪いか?」と鼻まで赤いのを付けて言うのでまた笑ってしまう。
「悪くないが…それじゃお前の話、町の話を聞かせてくれ。」
ひとしきり笑った後に、彼は真剣な面持ちで彼女へ視線を向ける。彼女は観念したように話を始めた。
「現存してる獣人は売れ残りの雌を犯し、孕ませた子供。残ったのは爪も牙も無くなった、危害を加える可能性が少ない猫族だけ。この町はそれを売っている。」
「酷いな…町には商人や商店が無かったが、生活はどうしてる。」
「村で作った物を領主から買ってるようだった。ここは奴隷の生産拠点。衣食はある程度保証されている。」
生産という言葉の棘が胸に刺さる。彼女達は産まれた時から物として扱われるのだ。
「町の駄目な奴は皆、村に送られて農奴として働かされる。向こうは出来た物が全て吸い上げられる。私もその1人…草や死骸を食べていたよ。」
「黒毛だから…ヨル、あの日の事を教えて。何があったの?」
彼女は苦い顔をしてため息をついた。まだ飲みかけの赤いスープがゆらゆらと水面を戦がせていた。
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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