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獣道(4)

※ハトホル視点です。

 2人きりにされてしまった。縄を解かれ首輪も無い彼女を繋ぎ止める物は何もない。


 この部屋にあるのは彼が残していった灯火と彼女の剣だけ。


「彼は何を考えているんだ?素性のわからない私をこんな薄暗い中でお前1人残して…」

 彼女は怪訝そうな顔で自分を照らす火を見つめている。


 実際彼女が言う通りだ。何の戦闘力も持たない私を討つ事は容易だろう。


「彼が考えている事は全てはわからない。でも、あなたが私に危害を与える事は無いと思った、というのだけはわかる。」


「それが何故か聞いているんだ!」

 彼女は急に立ち上がり、静かに声を震わせた。


「わからないわ…あれだけ色んな所を撫で回した私を、あなたは殺したい程恨んでいるかもしれないしね。」

 私は自嘲気味に微笑んだ。


「何だそれ…お前は何を言ってるかわかっているのか?自分で殺されるかもしれないと言ってるんだぞ!」


 彼が降りてきて、私達の方を交互に見てから焚き火へ火をつけ始めた。

「ちょっと煙たいかもしれないな…外は俺が見張るから穴を開けても良いか。」


 ぶつぶつと呟いていると思ったら鉄の蓋が開き、天に召される聖人の絵のように、彼だけに月明かりが差し込んでいる。


 体がすっぽり入りそうな穴へと黒い煙が吸い込まれていく。



「喧嘩は良いが話し合いにしろよ。」

 彼は鍋に具を入れたり、鉄板にパンを並べながら一瞥もくれずに言ったが、香ばしい小麦の匂いと、水面が湯立つ音に私は釘付けになっていた。


 また彼がいなくなると、乳の優しい脂の香りが充満し始めた。


 彼の料理の腕は控えめに言って天才だ。簡単そうにささっと作るが、在庫の減り具合と相談しつつ最適な栄養を美味しく摂らせてくれる。


「さっきの続きだけど…「ねぇ、それより食べない?」」

「こんな得体のしれないもの食べれるか!」

「ちょっとだけ。ちょっとだけで良いから…ね?」


 彼女の分の器を取り出し、焦げない内に2枚取った。スープもよそい手渡すと、テカテカした鼻で入念に嗅いでいる。



「美味い…だと…」

 黒猫は世紀末みたいな顔をして呟いてから次々に具材を流し込んでいる。


 前に食べた時は無かったキャベツや人参が新たな趣きを加えている。


「…それに、胸がふわふわとする…」

「そう!そうなの!彼の料理はとっても優しいの。」


 私が同調すると、彼女は呆れるように苦笑した。


「取っておいてくれたんだな。ありがと。」

 彼がまた降りてきてパンをひと齧りし、私を優しく撫でてくれる。


「あ、クソ!また来た。」

 そう言うと頭に少しの脂と温もりを残してすぐ居なくなってしまった。


「アイツ!どさくさに紛れて手拭いて行きやがった!」

 私が立ち上がり穴に向かって小声で叫ぶと、彼女にクスクスと笑われてしまった。目が合い少しの気まずさが残る。


「ねぇ、これ食べちゃわない?」


「い、いやでも…彼の分…」

 言葉とは裏腹に口端からよだれが滲み出ている。


「良いの良いの!懲らしめてやらないと!…内緒だよ?」

 そう言って2つに分けて、私は彼の食べかけた部分を少し口に入れた。



「私、彼を信じてるの。あなたは私を傷付けない。」


 食べ終えた私は彼女を真っ直ぐ見て先程の問いに答えた。彼女は何か言いたげだったが、ため息をついて追及を諦めたようだ。


「彼が好きなの…苦しいほど。」


「別に聞いてないぞ〜。惚気話はよそでやってくれ。」

 彼女は背を向けて寝そべってしまった。



「あれ!?俺の分は?」

 帰ってきた彼はキョトンとしてから、「どっちが犯人だ。」と私達を交互に見ている。


 私達は示し合わせたようにお互いを指差していた。彼女が抱きついて胸を揉んだり脇を弄ったりするので、私も負けじと応戦する。


「いや、いいよ。それよりもう遅いから寝ててくれ。」


 彼はやれやれと食べ終えた空の皿を見ていた。私が掌を出すと彼女は小さい手を合わせてくれる。


 彼がまた上に戻ると、私達は顔を見合わせて微笑み合った。


「じゃあ寝ましょうか。」「そうだな…」

 焚き火の方向へ同じように足を向け、横になる。


「何故嘘をついたの?」

 唐突な質問に彼女は起き上がって、顔を引き攣らせこちらを向いた。


「気付いてたのか…なら尚更どうして。」


「さっき言ったでしょ。私は彼を信じてる。」

 私は仰向けに寝そべりながら、鉄の天井を見たまま告げる。


 真ん中をぽっかりと開けたからか、空気穴から風が吹き込んでいた。足は暖かいが、少しだけ肌寒い。


「私達があなたを救う。」

 覚悟を彼女へ向けると、俯き背中を丸めてしまった。


「…私は…わ、わ…たし…は……」


 後ろから抱きしめると、温かいものが冷えた私の手を伝っていく。


「大丈夫。話したくなければ話さなくても。彼は全てわかってると思う。」

 コクっと頷く彼女の毛が鼻をくすぐる。


「ごめんね。それより今は体を休めなくちゃね。」


 彼女もきゅっと抱きしめ返してくれて、体温が少し高いのか暖かい。そのまま私達は月明かりが朝日に変わるまで眠ったのだった。

拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。


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