己を知りチートを知る(2)
「それでは今日はこれで。
明日は実践しながら魔力操作を習得してもらいますので、くれぐれもそれまで魔法を行使しないように。」
彼がいつも通り片付け始めていたが、険しい顔をしていたのが気にかかったのか、念を押されてしまった。
しかし、魔法使ってみたいという気持ちが無いでは無いが、問題はそこでは無い。
この世界の魔法の認識は間違っているかもしれない。
そして、俺の仮説が正しければ風魔法は現時点で最弱なのだろう。
それが風国劣勢の遠因となっているのではないだろうか。
そうなると確かめる為には魔法を使ってみたいわけで…
魔法の使い方はとてもシンプルだ。その魔法で何がしたいかイメージするだけ。
バレずに行う事のできる魔法は…
“石玉を作る”
空中に直径30cmほどの丸石が出現し、足元に落ちたかと思うと大きな音と共に割れてしまった。
破片を手で払うと、隣の石畳と5mmほど段差が出来ていた。
やはりと言うべきか、魔法はその場にある物へ変化を与える。
つまりこの割れた石玉を使ってコンクリートブロックを作れと念じても、範囲内にある物質ではセメントが作れないので骨材だらけの雷おこしが出来るのだ。
無から有を作り出している訳では無いと言う事。風は気体を、水は液体を、土は固体を操るが、それぞれが起こす事象から名前が付けられてしまったのだろう。
ただ、火に関して説明がつかないな…
“蝋燭に火を灯す”
音もなく蝋燭に火が点き、赤々と揺らめいている。
程なくして石段を駆け上がる足音が聞こえてくる。
「フーマ様!まだ魔法は使っちゃダメって言われてるでしょう!」
アベリアが息を切らして駆け込んできた。
なぜバレたのだろうと気まずそうに目を逸らしていると、城で騒ぎがあったので見に行くと、蝋燭がいっぺんに燃え出したと説明してくれた。
ぐりぐりと両こめかみを拳骨で抉りながら…
蝋燭の先に火が灯るという曖昧なイメージのせいで、魔法範囲にある全てに火が着いてしまったという事か。
それから長い説教を聞きながら昼食を取っていると、ウィリアムが迎えに来た。
彼の顔を見た瞬間、魔法を使えた高揚感が消え失せ、降りていく石段が地獄に通ずる道のように思えてくる。
剣の心得が無い俺からすると、ここまで年齢差がある騎士との稽古は流石に早すぎると思うのだが…
「フーマさん?少しお休みにならない?」
散々しごかれ、大の字に倒れ込む俺に、どこかあどけなさが残る可愛らしい淑女が声を掛けてきた。
「お言葉ですがロベリア様、フーマ様は鍛錬の最中でございます。」
ウィリアムは跪き丁寧な言葉を選びながらも、語気を強めた。
「そんなに根を詰めたら体を壊してしまいますよ。
それに、貴方だけ独り占めなんてずるいですよ。」
差し伸ばされた手は透き通るように白く、少し浮いて見える青い静脈が辛うじてこの女性が生きているのだと感じさせた。
彼は引き止めてくれていたが、いずれ対話しなければならないのならば早い方がいいだろうと思い、ついて行く事にした。
王妃の部屋に2人きり。
部屋は白を基調にした品のある作りだが、物が少なく質素な印象を受ける。
「単刀直入に聞きますが、貴方はこの国をどう思いますか?あぁ…並の5歳児くらいの返答は不要です。」
先に釘を刺されてしまった。
股下程度の子供を捕まえて、対等な腹の探り合いを挑もうとは…子供のフリをして煙に巻く事はできないか。
「僭越ながら、先の戦で我が国は疲弊し切っております。
このまま兵力増強路線で進めば、民衆の不満が溜まり、内外から崩れるかと。」
諦めたように話すと、彼女は深い緑色の瞳を微動だにせず、茶を一口含んだ。
「やはりそうね…
それで…デービットの剣として共に歩んでくれるかしら。」
生気の薄い外見とは裏腹に、声色や瞳から芯の強さが窺える。
「王子がお困りの際は必ずお助け致します。
ですが、私はこのような見た目でありまして…」
「その言葉を聞いて安心しました。
そちらの件については私の方からも何とかしましょう。
では、もう行ってもいいわ」
俺はひらひらと手を振る彼女に感謝を伝えて、恭しく礼をしてから部屋を出た。
第一関門突破だ。交渉事に慣れていて助かった。
まず、相手の思想に見合った話をして同じビジョンを持っている事を伝え、最後には自分の要求を相手からサインさせる。
深いため息をついて、塔の部屋へ歩き出す。
久しぶりに冷やでも飲みたいと思いながら…
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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