表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/56

獣道(1)

 俺達は土国最北端の街を抜け、かつて風国の領地だった街へ辿り着いた。


「おい!なんだここは…」


 建物の内からも外からも木や鉉が生え、街を覆うように生い茂っている。辛うじて見える外壁は土魔法で破損したと思われる瓦礫や、血の痕が残っていた。


「ここは…獣人達の街。」

「街って…人が住める状態じゃ…それに獣人って、見た事ないぞ。」


 ハトホルは俺から顔を背け、瓦礫を見つめる。


「風の国が敗走したのは知ってるよね。」

 俺は頷き、彼女の話を待った。


「ここは最後の防衛線だった。風国初代国王ハルカゼの重臣達と土国の激しい抗争により、このような状態になったの。

 水場の無いこの地域は私達の統治下で、水国が攻め入って来ないのだけど…」


 荒れ果てた街を再建するには金も人もいる。ここを前線に押し上げるという事は、水国の領域に一歩近づくという事。


「放棄して、空白の防衛線とした訳か。獣人達は?」


「土国では敵国の重臣扱いされていた彼らを神敵として受け入れなかった。一方で水国は高値で買い取るようになった。」


「戦勝国にも関わらず領地が増えなかったことで褒美に困り、捕虜を奴隷として売り払い金に替えた…か。」


 彼女が見つめる瓦礫を手に取り、手のひらで砕いた。風化してしまった土壁の中の藁材が手に残る。


 その時、遠くでカラッと瓦礫が1欠け落ちる音が聞こえた。


「気を付けろ…」

 音の方向から彼女を遠ざけるように、俺の背中へ回らせる。いつでも対応出来るよう、刀を抜きじわじわと近寄っていく。



「う、うぉぉぉぉー!」

 まずい!転移されたか。

 “ハトホル前方の土砂5m角深さ2mを空間へ”


「え…?うわ、うわわぁ!」

 踏み出したはずの地面が無くなり、宙を駆けるように壁に激突し、底でうつ伏せに気絶したようだ。


「これは…狼かしら。」

 いや、違う。人と同じ手足を持って短剣が握られている。


 狼と勘違いするような黒い毛だが、短い毛並みが背中まで覆っている訳ではなく、長い髪が衣服を覆い隠しているのだ。


 それにあの耳と細長い尻尾。たぶん…

「猫だ…獣人族だろう。」


「聞いた事がない響き…ってどうするつもり?きゃっ」

 彼女の手を引き、下へ降りる。とりあえず獣人を縛り、蝋燭へ火をつけた。


 “SS400、厚み30mm、5.5m角を上方1.9mに”

 一瞬で暗闇の中に閉ざされ、蝋燭の灯りだけが頼りになる。

「ちょっ、暗い!ちゃんと説明してよ!」


 “土砂を厚み70mm、5.5m角で上方2mへ”

「聞いてんの!?おい、こらってば!」

 服が引きちぎれんばかりに肩を揺さぶられるが、俺は黙々と作業する。


 “この角度で直径30cmの土砂を除去”

 同じ物を反対側の壁にも開け、空気穴を作った。大体だが、たぶん廃墟内に空いたはず。


「もう、何なの?まさか…こんな所で…」

 彼女は両手をクロスさせ、自分の体を隠すように押さえた。


「そういう事じゃない。見ろ。

 彼女の首輪…鎖が千切れた痕がある。話を聞こう。」


 顔を真っ赤にして、俺を睨んでから「そういう事にしといてあげる」と口を尖らせる。


 俺はしゃがんだまま彼女の手を引き、飛び込んでくる赤い顔を受け止め、不恰好に口付けした。


「だから…不意打ち禁止!」

 そう言って彼女はもう一度顔を近付け、俺の唇を奪った。



「ん…ここは……!お前ら!何者だ!」

 拘束された獣人が目を覚まし、甘い余韻に浸る俺と目が合った。


「シーっ。…落ち着け。」

「貴様!こんなこ…モゴモゴ…」


 彼女の口を手で覆い、顔を近付ける。見れば見るほど猫で、特有の獣と陽の匂いがした。モフモフしたい。


「静かにしろというのが聞こえなかったか。」

「その眼…ハルカゼ様!私達を救いに!

 …あ…く、くすぐったい。…ゴロゴロゴロ…」


 シリアス展開にも関わらず、俺の手は無意識に猫耳へ伸びていた。精神操作の魔法かもしれない。


 この裏耳の短毛で滑らかな質感と、耳中から伸びる長い毛が親指をくすぐるふわふわとした手触り。せ、精神が…


 急に脳天を激痛が走り、視界が揺れる。

「もう!フーマのバカ!」

 どうやらハトホルから天誅を食らったようだ。


「ち、違うんだ。今心を操る魔法がかけられてしまって…ほら。」

 腕組みして後ろを向いてしまったハトホルの手を強引に取り、猫耳に触れさせる。


「気持ちいい…なにこれ…」「そうだろう…」

「止め、くすぐった…にゃははは…両耳とか…ゴロゴロ…」


 それから俺達は時間を忘れて彼女の耳や尻尾の肌触りに心を奪われて、気が付くと蝋燭の長さが半分になっていたのだった。

拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。


『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】に評価を頂けると幸いです。

誤字脱字や批評でも構いませんので、コメントも頂けるとありがたいです。


評価ボタンは励みになりますので、何卒応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ