表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/56

土竜(24)

 ……ザシュッ…………ぐっ……

 肺に刺さったのだろう。俺の肩へウィリアムの吐血が垂れる。引き抜いた刀からもおびただしい鮮血が俺を濡らす。


 幾多の修羅場をくぐったせいで、反射で左旋回しながら、右脇を掠めるように刀を後ろに突き立ててしまっていた。


 旋回したおかげで、彼の短剣は俺の心臓を僅かに避け刺さっている。


「坊ちゃん強くなったな……もう、か…ゲホッ…敵いそうにねえや。」

「もう喋るなウィリアム…」


「ははっ…ゲホッゲホッ…

 あぁ…こんな俺の為に…ウッ…な…泣いてくれるんですかい?

 …坊ちゃんが…ゲボッウェッ…強く優しくて…ゼェっ…人に涙…ゼェっ…見せない…」


「俺は強くなんて…ない。お前に…守られて、支えられて。そうだ!他の領地を…復興しないと。まだ仕事があるんだぞ…」


「そいつはいいや…またこき使われて……難しくて…でも、面白くて…」


 石畳に血の海が広がり、目は虚ろにもう見えてないかもしれない。肺に溜まる血ももう無くなってきたのだろう。


「…俺の手で楽にしてやる。」

「やめて…はぁ…くだせ…え。俺は土竜…坊ちゃんを…裏切ってた。罪には罰だ…苦しんで…死なせてくだせえ…坊ちゃんから俺への…最後の試練だ。」


 傷口に乗せた俺の手へ彼の手が触れた。


「坊ちゃんの手は…皆を救う為に。坊ちゃんは…はぁっ…もう独りじゃねぇ…はぁっ…はぁっ…。もう行きな……生意気で…はぁっ…はぁっ…可愛い…俺の坊や…」



 俺は立ち上がり、静観していた彼女達へ向き直った。


「お別れは済んだかしら?貴方の盾が私の剣だったなんて、貴方でも驚いたんじゃなくて?」

「何故そんなに冷静でいられるんだ。家臣が死んだんだぞ。」


「家臣?それの事をおっしゃってるのかしら。命令を遂行出来ない物を家臣だなんて…」

 俺は深く息を吐き、頭に上り、はらわたを焼き尽くさんばかりに熱くなった血を冷やした。


「挑発しても無駄だ。俺はお前らの思惑通りには動かない。」

「どこまでも小賢しい、目障りな奴だな。」


 彼らが肌を触れ合うようにしているのは、魔力量を増やして酸素濃度0の空間を増やす為だろう。


 塔を初めて出た日に、曖昧に薄めただけでは死なない事を知った彼は、酸素を無くしてしまえば人が死ぬ事を学んだ。


 ただ、1吸いで死ぬ事を知らない彼は、分厚く自分を囲むように結界を張っているため、範囲が狭いのだろう。


 俺を近付ける為、挑発する程に…


「俺の魔法は警戒しなくていいのか?」

「ここには土も水も無い!火を点けるための布も身につけて無い!」


 その椅子も立派な可燃物だろうに…だから肌身に鉄鎧なんて変な性癖拗らせた格好だったのか。


 それに固体、液体はそこら中に転がってるんだが…本当におめでたい奴らだ。相応しい死をあげよう。


「お前の鎧は父の物だな?」

「?…そうだが。」


「父親に抱きしめられた事は?」

「き、貴様!何が言いたい!」


「いや別に。最後に父から熱い抱擁だ。」

 “デービットの鎧を液体に”

 じわーっとタンパク質を焦がす異臭と共に、彼は発火し始める。


「ぎゃぁぁぁぁ!熱い、痛い!母さん!熱いよ!」

「いやぁぁぁぁ!デービット!何で消えないの。嫌、嫌よ。熱い!あぁぁぁぁ!」


 母子の愛だろうか。自らの身体で消そうとしたのだろうか。彼女は高温の鉄で内臓まで抉れた息子を抱きしめている。


「最後に良い事を教えてやる。高濃度酸素も人体を死に至らせる。」


 次の瞬間、彼らは爆発点を超え飛び散った。


「今教える事じゃ無かったな。火を消すなら酸素0を自分の周りにかけるのが正解。」


 俺はウィリアムを担ぎ、城を後にした。



 “俺をクロユリの街の教会へ”

 教会ではアベリアが祈りを捧げていた。


「フー…!ウィリアム!どうして、どうして彼が…」

 駆け寄る彼女へそっと彼を渡すと、抱き抱えながら座り込んだ。


「俺が殺した。」

 次の瞬間、突風が俺の周りを駆け抜けて、教会の窓や椅子が一斉に震え出す。


「フーマ様…聞き違いでしょうか。あなたが…ウィリアムを?」

「あぁ、俺が殺めた。申し訳ない。」

 俺はこの世界で初めて土下座した。


「こ…ろ…す。殺してやる…」

 背中に刺さった彼の短剣が抜かれ、カタカタと後ろ首に突き立てられているのがわかる。


「殺される覚悟は出来ている。すまない、アベリア。」


 カランと乾いた音で石床に短剣が落ちる。

「訳は聞きません。聞けば私は許してしまう…彼の為に、私はあなたを一生許しません。」


「あぁ、俺を責めてくれ。俺を許さないでくれ。」

 そう言うと彼の胸で少女のようにわんわん泣く彼女を背に、土の国へと戻ったのだった。


 俺が戻ると全てを察したハトホルの胸に顔を埋めた。彼女の温もりが痛くて、涙が溢れた。


「俺、思い出したよ…」「うん。」

「俺、知ってたんだ…」「うん。」

「救えたかもしれないのに…」「うん。」

「今度こそ間違えないようにって…」

「フーマ…治療しないと…」


 治癒魔法をかけようとする彼女の手を止めた。


「これは俺の罰だ。この後ろ傷は治さない。…少しの間、ただ側にいてくれ。」

「いるよ。ずっと側に。」

 そう言って頭を撫でてくれる彼女の手は、心の傷を癒やしてくれるようだった。


 俺は風国改めウィステリア皇国の皇帝となった。土国が武力で劣る風国の傘下に入るような印象になるので、反発が予想されたがシンドバッドが抑え込んでくれたようだ。


 まずは土国の鉱物加工、物流を風国に共有し、風国の農業、食料加工を土国に伝えて両国の技術発展させている最中。


 同時にハイダラを中心に土魔法師を各地へ派遣して下水整備、ルークを中心に風魔法師を派遣し、風力利用して水の確保を行っていった。


 教会の爛れた神官を処刑し、土国同様に貴族制を廃止したことで反感も買ったが、国民は多いに喜び、反発は最小限で済んだ。


 教育制度の成果も着々と上がり、各地の統制管理が、迅速かつ簡略化されていた。


 ただ、大陸を跨るように領地を持った皇国に対して、火国、水国との国境沿いは戦線が活発化している。


「皇后陛下、私と共に来てくれますか?」

「ふざけてる?ずっと側にいるわよ。地獄でもどこでもずぅーっとね。」


 コツンと額を合わせる彼女へ触れるだけのキスをした。



「さあ、次の仕事を始めようか。」

拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。


『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】に評価を頂けると幸いです。

誤字脱字や批評でも構いませんので、コメントも頂けるとありがたいです。


評価ボタンは励みになりますので、何卒応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ