己を知りチートを知る(1)
朝のドタバタが収まると、セバスは本と丸鏡をテーブルに置いた。
「今日のお話ですが、大切なお話に…」
「昨日聞いたぞ。」
話の腰を折られてしまった事もあると思うが、淡々と話す彼にしては珍しく言い淀んでいるように見える。
「さっそくですが、人間には魔法を扱う事ができる者がおります。
また、国によって扱える魔法の属する理が異なり、見た目が異なります。
火は赤髪、土は茶髪、水は青髪、風は緑髪となり、銀髪の者は無系統、神殿の者は白髪で聖魔法を扱う事が出来ます。
属性魔法を扱える者は無条件で無系統を扱えます。
ここまでよろしいですか?」
意を決したように話し始めた彼は、少し早足で説明を進めた。
「扱える属性と魔力は、ここにある『真実の月』を使うと知る事が出来ます…」
そう言うと、鏡を持ちながら俺の背中へ周り、右側からすっと目の前に置いた。
俺は促されるままに鏡を持ち上げると、後ろには見慣れた白髪の老人が立っていた為、前に座る子供が自分であると認識出来た。
少しすると何も写っていない銀色の円盤となり、また少しすると銀の空間に青、赤、茶色が渦を作り、やがて中央から鏡は割れてしまった。
背中から深いため息が聞こえたかと思うと、彼は鏡を取り上げながら続けた。
「古くから魔族は黒髪に黒眼と伝えられており、闇魔法を扱うとされています。
フーマ様は闇魔法を扱えないものの、見た目、魔力は魔族のようにございます。
そして、風国王子でありながら風の適性が無いのです。」
そこまで話すと彼は俯いてしまった。
休憩のようだ。
この世界の5年をようやく納得することができた気がする。
しかし、この世界の文化水準から察するに、本来なら生まれてすぐに殺されていてもおかしくないと思うが…
復活したセバスから、風国の王家構成や立場について教わった。
「自分を自分で守れるようになるまで話すまいと3人で決めておりました。
こんなにも早くその時が来るとは…
聡いフーマ様ならばご理解頂けたと思います。」
彼は少し物憂げな表情のまま、いつものように教材を空間に仕舞い込んだ。
「では、明日からは魔術についてもお話致します。」
「それは初めて聞いたな」
それだけ聞くといつものように恭しく礼をし、部屋を出て行った。
昼食をとり終えると、アベリアが独り言のように話し始めた。
「生まれた日の事をさっきあった事のように覚えています。
従者の寝泊まりしている空き部屋で、生意気なフーマ様が裸で泣いていた事を…」
「当たり前だろ!というかたった5年前だろ!」
「私はあなたを抱き抱えた時に思ったのです。
この小さな双肩に全てが託され、のし掛かる日が来るんだって…その時は…」
人の話を聞かないのはいつもの事だが、明るく哀の抜けたような彼女にしては珍しく感傷的だ。
「巻き込まれないように逃げようって。」
「ふざけんな!変な雰囲気出すな!」
テーブルを中心に追いかけ回していると、ノックをしてウィリアムが入ってきた。
「まったく…坊ちゃんを困らせんなって」
「だって…フーマ様が落ち込んでるみたいだったから…」
彼が軽く小突くと、口を尖らせながらボソッと呟き、そのまま部屋を出て行ってしまった。
「さてと、準備は良さそうだな。着いてきてくれ。」
言われるがままに彼の背中を追い、長々と続く螺旋階段を降りると、昼下がりの太陽が視界を煌々と遮った。
目が慣れてくると、そこは50m四方ほどの庭園になっていた。
「今日から剣術の稽古だ。」
投げられた木剣を受け取ると、正対した彼の構えを真似してみる。
土の香りを心地よい風が運んできていた。
この時の俺は、剣術稽古と言う名の袋叩きを受けている間、好奇の眼差しに晒されていた事を知る由も無かった。
幽閉されていた第三王子が解放されたという噂が、城中を駆け巡るのに半日とかからなかった。
「ふーん…あれがクロユリの忘れ形見ね…」
彼女は目を細めながらそう言うと、ふっと笑いカーテンを閉めさせた。
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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