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土竜(18)

「ふむ、今回の品は奴隷では無いのですか。」

「はい。もはや本国では奴隷を必要としている箇所は当商会だけです。飽和状態でしょう。」


 土の国へ帰ってきた俺は、シンドバッドへ今回の報告をしている。彼は頷きながら聞いていた。


「今回の品は食料品。奴隷と違い消耗する上、貴族から庶民まで幅広く必要とする物です。まして今まで遠方から仕入れていた物が易々と手に入り、市場を独占出来ます。」


 食料品需要は尽きる事がない。それに今回持ってきた物はこれまで水国の少ない輸入に頼っていた品だ。


 チーズや砂糖は高級品として流通し、米や根菜は庶民に行き渡るだろう。


 季節は無いが田畑を休ませなければ痩せてしまうため、チーズや砂糖、穀物など保存が効く物を作らせ、定期的な収入源とした。


 農業の知識が薄いので、多毛作に踏み切れなかったが、買い手が大勢いる。彼らならきっと考え行動してくれるだろう。


 これまで武力派の力を借り、名ばかりの牽制から和睦の証としてヘンリー伯爵領から奴隷を仕入れていた。

 それが商会ひいては教会派単独で食物が手に入ったのだ。シンドバッドとしては鼻が高いだろう。


 まして不毛の土地が多い土国で、食料は貴重な資源だ。クロユリの街としては水国より安くすれば良いだけなので、双方嬉しい話となる。


「うん。一考に値するね。ひとまず良くやってくれた。」


 彼はすぐにプレゼンを聞き入れ、立ち上がると手を差し伸べたので、素直に握手へ応じた。


「さて今後の事なんだけど、ハトホルの進言もあってね。少し早いけど特例として学習院へ通わせようと思う。」


 これは手を取ってしまっている以上断れない。諦めて応じる事を頷いて伝える。またこちらの進捗だけ早まってしまった。



 そんな訳で俺は土国の学習院へ来た訳だが、周りの視線が痛い。


「アイツ…やけに小さくないか?」「やめろよ。シンドバッドの…」


 ヒソヒソと陰口のつもりかもしれないが、丸聞こえなのだが…


「アーサー!先に出るなら言ってよ。探したじゃない。さぁ行こ!」

 ハトホルが俺の腕に腕を絡ませる。


「いや、クラスは?」

「何言ってるの?私達はSクラスでしょ。」


 そのまま連行されるように教室へと引き摺られて行ったのだった。


 クラス分けは国の内政を示しているような構図で、Aクラスが土魔法師、Bクラスが聖魔法師。しかし昨今のパワーバランスの変状により、Sクラスが新設され双方の有力者10名が名を連ねる。


 しかしそうなると今度はクラスを受け持つ教員がどちらになるかで殺気立つ。


 この世界でも大人たちのゴタゴタが子供へ少なからず影響し、教育現場とは名ばかりの殺伐とした雰囲気になっているのだ。


 横長の教室に着くと一列に並んだ10席の机、8人が別れて座っており、真ん中の2席が空いていた。


「ちょうど隣だね!私達の為に空けてあったみたい。」

「そう言う事じゃないと思うが…」


 俺達も席へ着くとすぐに異様な雰囲気の教室へ小柄な男性教員が入ってきた。小声で何やら話し声が聞こえる。


「出欠を取りますよ。お静かに。」


 静かにはなったが、室内の空気は依然として固いまま出欠確認が進む。俺と彼女の番になると、またざわざわと蠢いた。


 今や国の最大権力者の商会から来た人間だ。大方盗賊殺しだの商人殺しだのという噂を聞いたのだろう。


「君達は選ばれし精鋭です。国を背負って立つ人間になる事でしょう。色々と事情がある事も承知しています。

 ただ、この教室では学び競い合う仲間という事をくれぐれも忘れてはいけません。」


 出欠を取り終えた教員は、少し頼りない風体とは裏腹に熱い言葉を皆へ送った。


「早速ですが皆さんの実力を確認する為に模擬戦を行います。修練場へ移動してください。」



 コロッセオの観客席が小さくなったような闘技場へ集められた。砂地に線を引き、鉄の的が20m程先に据えられる。


「まずはそこから的当てをしてもらいます。最初はAだから…アーサー君。」


 当てるだけでいいなら…

 “砂10kgを100m/sで投射”

「そこに置いた石を…って」「アイツあんな小さい砂弾で何する…」


 ……ギィィィィン……

 甲高い金属音と共に的の支柱が曲がってしまい、的のラインが消えてしまった。

 まずい…またバラけさせるの忘れてた。


「あんなに遠い的に砂弾を…」「当たったとこしか見えなかった…」


「い、良い見本を見せてもらいましたが、皆さんはそこに落ちてる石を当てて下さい。魔法でも自力でも構いませんので。」


 教員の思惑を完全に外してしまったようだ。

 土魔法師にだけ有利な肩慣らしの試験。この後は武力派らしく戦闘試験をして出鼻を挫くような意図だろう。


「当たったー!アーサー褒めて褒めて!」


 はしゃぐ彼女の頭を撫でる。

 女投げでは無く見事な野手投げだったのは、長い道中暇つぶしに教えていたおかげだろう。


 教員の忌々しそうな舌打ちが聞こえてくる。さっきの教室でのエールに少し感動した俺の気持ちを返せ!


「あー、皆さんの実力は大体わかりました。

 次に戦闘訓練をしましょう。アーサー君は魔力が少々強いので攻撃魔法は禁止です。」


 もう猫をかぶるのが面倒になったのか、口調が雑になっている。


「おい、俺と手合わせしろ。」

 そう言いながら、中学1年生ほどの恵まれた体格の色黒男子が俺の前へ立ちはだかっていた。

拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。


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誤字脱字や批評でも構いませんので、コメントも頂けるとありがたいです。


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