土竜(13)
シンドバッドに言われるがまま荷車まで戻ってきたわけだが、それらしき人物がいない。行き違いになってしまったのだろうか。
「ハトホル様はいらっしゃいましたか?」
外で待たされていた奴隷の1人に、水を差し出しながら聞いてみたが、彼は「い、いや…頂けません」とたじろいだ。
「やぁっと来た!私がハトホル様だよ!」
そう言って荷車の陰から少女がひょいと顔を覗かせた。
彼女は浅黒い肌で、目元がはっきりしているが、日本人を思わせる低めの鼻をしていた。背丈は俺より少し大きいくらい、丸みを帯びた顔から幼さを感じる。
「子供じゃないか。冗談だろ。」
ハイサムの気持ちがなんとなくわかった気がする。一緒に仕事するには、かなり心許ない。あいつの場合は内心大喜びだったのだろうが…
「失礼な!私よりチビのくせに。あんた歳いくつよ!」
「5さ「ほーらね。私6歳だもん。」」
彼女はふんっと鼻を鳴らしながら、仁王立ちして見せる。俺はため息をつき、木の水筒とコップを7個出した。
「冒険者ギルドに報酬と新規依頼を受けてくる。皆で飲んで待っててくれ。」
「え?まだ話は終わってな…」
一人一人にコップを手渡し、水を注いでいった。遠慮する奴隷には口を付けないと暴れると言うと、慌てて飲むのを確認して俺はギルドに急いだ。
ギルドに着くと面倒な筋肉おじさんが待ち構えていた。
「おう。今日から早速仕事か?」
「いや、まず一つ終わった。さぁ金と新しい依頼の手続きをしてくれ。」
次々に首を並べ、手を差し出す。「お、おう」と言いながら親戚の子に小遣いを渡すように金貨をくれた。その場にいた冒険者達が何やら騒いでいた。
魔獣で日々命を削る彼らからすれば、人殺しをして金を稼ぐ俺が、自分達の道理に反して見えるのだろう。罪人で殺す事を気にも留めない連中という事には目も向けず…
長居すると面倒そうだ。
その場はナジムに任せ、小さい体を活かして逃げるようにハトホルの元へ行き、昼過ぎには街を出立できた。
そして今度は奇跡的に何事も無く進む事が出来、日が暮れる頃には3分の1ほど踏破していた。
「よし。今日はここで野営にする。」
大声で言ってから、俺はせっせとガーベラから仕入れていた米を炊き、根菜と討伐した狼肉で豚汁もどきを作っていた。
「何作ってるの?」
彼女はすんすんと香りを嗅ぎながら、頭に乗るようにもたれながら聞いてきた。
ぶっきらぼうに「俺の故郷の汁物と米だ。」と答えた。
「ふーん故郷ね。ねぇ、あなたはどこから来たの?」
今度は隣にしゃがみ、聞いてきた。
「風の国だ。」
「え?それって変じゃない?だって土魔法師は土魔法師からしか産まれない。「聖魔法師は聖魔法師からしか産まれない…か?」」
俺が被せるように言うと、彼女は大きな目をぱちくりさせ、俺の横顔を見ながら「そ、そう」と小さく頷く。
皆に夜ご飯を配り、最後に俺たち2人分をよそった。砂漠の夜に温かい飯が良かったのか、先のように遠慮せず皆黙々と食べている。
「美味しい…優しい味がする。あなたの故郷は素敵な所なのね。」
「そうでもない。俺が優しいんだよ。」
「ふふっ、何それ!」
向かい合って座っている彼女は、そう言いながら俺の脛を軽く蹴る。
「私は故郷も両親も知らないの…物心ついた時には神殿にいたわ。」
彼女は空になったお椀を置き、水の入ったコップに映る月を見つめている。水面に映る小さな月が揺らいでいた。
「そうか…何故神官のハトホルが商会に?」
「神様のお告げよ。そうするようにと…あとハトホルさんね!」
悲壮感を隠すように、ごりごりと肋骨を肘で押し込んでくる。
「あんたは何で商会に来たの?」
「俺のため。あとアーサーさんな。」
「なんであんたにさん付けしなきゃ…」
「今にわかるさ。」
そう言って立ち上がると体を反転させ、踏み込みながら小太刀より少し長い刀を居合のように横薙ぎに振る。
振られた刀身は、硬いものに当たった金属の甲高い音を鳴らした。重たい物が砂を擦る音がする。俺はそのまま刀を下に突き刺した。
「何があったの?」
「こっちを見ずに、真っ直ぐ荷車へ向かえ。早く!」
訳も分からず走り出す彼女を尻目に、月明かりに照らされる人影を視認する。残り6人…
次の瞬間、腹部に砂の槍が突き刺さった。そのまま砂弾が連続で俺に襲いかかり、吹き飛ばされる。
「一発で仕留めろよ!」「おーやったぞ。」
思い思いに下卑た言葉を放っている。
考える余裕が無い…
“砂を波状に前方へ…”
意識が遠のく……
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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