土竜(11)
帰り道はネズミやハゲタカのような魔獣が出たが、魔法の試し撃ちや剣の練習台になってもらった。
大人2人を相手取れたとはいえ、油断のない状態で一斉に向かってこられたら、ひとたまりも無かっただろう。
剣術はステータスで見えない能力だ。いくら練習しておいても、損は無いだろう。
次に転移した先は、ようやく砂漠を抜け土の道になっていた。ここから5日以上かけて到着した事を考えれば、一度手戻りがあったが5分の1なら十分短縮できている。
「今日はここで休もう。」
行きに確認した人に見られそうなエリアを避け進んでいるので、帰りは夜に休む事にした。
昼夜逆転は前世でも設備の停止時間の関係などで経験したが、成長期の子供の体には厳しい。逆算するとあと1日くらいで着くが、こればかりは自分の意思や根性論ではどうにもならない。
「またカレーかい…さすがに飽きたよ。」
カレーは何日も続くというのは、どの世も同じ常識だろう。ただ俺も飽きてきたので、小麦粉と水を練ってガーベラに渡した。
「これを踏め。同じカレーが嫌ならお前も働け。」
「これを踏めばカレー以外食べれるのかい…それなら…」
そう言うと彼女は立ち上がり、ふらふらとうどん生地を踏み始めた。
彼女も同じタイムスケジュールで動いてきた。帰りは寝ていても良いと言ったが、ずっと起き続けていた。
その前まで夜通し歩き回ったのだ。いかに逞しい彼女でも疲労の色が隠せない。だが、こうした慎重さや警戒心が商会を背負うために必要だったのだろう。
黙々と踏む彼女をよそに、麺つゆがわりにカレーの中に醤油とみりんを混ぜ温める。カレーつゆのような物を味見するが、やはり深みがない。
水系の生き物が採れないと、出汁が無いから物足りなく感じてしまう。
「カレーじゃないって言ったよな?騙したのか?」
彼女は出来上がった茶色の料理を見て、がっくりと項垂れた。
隣でカレー温めてたの見えてたはずじゃ…と思ったが、それすら気付かないほど疲れているのだろう。
「ま、食べてみてくれ。」
「気になってたが、この白いの…弾力があって…パンとも米とも違う感触で喉を通る。それにカレーも風味が変わって…美味いな。」
満足してもらえたようで良かった。
「細長い食べ物は麺と言うんだが、小麦で作ったこれはうどんって言うんだ。」
「ふーん。そういえばうどんもそうだが、乳のことも何故知っていたんだい?」
確かに風の国にただ居たのでは知り得ない情報かもしれない。うどんはあっても良さそうだが、出汁の文化が無いから根付かなかったのかもしれない。
「知的好奇心かな。俺は色んな事を知ってたい。ガーベラも知らない物を取り扱ったりしないだろ?」
知らない物を知ろうとする。調べるツールが本しか無いというだけだ。知りたいという欲は前世もこの世界も同じはず。
上手く誤魔化せたようで、彼女は「そうかい」とだけ言って、横になった。
次の日にはガーベラの店に着き、膨大な数の商品を店内に吐き出した。
「こ、こんなにいっぱい置けないです…」
「知らん。とにかくやるしか無い。」
ガーベラがアベリアの所へ、新規従業員の打診に行っている間、受付嬢が文句を言いながら山積みの商品を棚卸しする。
さすがに女性1人では可哀想なので、陳列は手伝ってやった。せっかく空の陳列棚へ並べるので、類似品や関連品で整理する。
「今日一日は店が開けられなさそうだね。」
帰ってきたガーベラが、半分も並べ終わらない在庫の山を見て、呆れたように言った。後ろには新しい従業員らしき男が立っていた。
「追加の人手も来たし、俺はもう行くよ。ウィリアム宛の手紙は渡したか?」
「あぁ、こっちはなんとかするとさ。
暫しお別れだね。無茶するんじゃないよ。」
「ありがとう。近い将来、輸出の仕事が増えると思う。その時はよろしくな。」
3人に別れを告げ、再び土の国へ旅立った。
荷物が減り、1人旅だった事もあり、1日でシンドバッドの所へ辿り着く事が出来た。早速買付けの指示をもらい、商人修行が始まったのだった。
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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