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土竜(10)

 たぶんギルド長の部屋だろう。大きい書斎机と、応接テーブル、ソファしかない殺風景さが、大きい部屋を更に広く感じさせる。


 着くなり、彼はソファに腰掛け話し始める。


「さっきのカード、どういう事だ?」

「あれはこびり着いちゃって。困っちゃうなぁ。」


「剥いで見せろ。」

 “カードの銀を除去し、金にしろ”


 銀を取ったカードを渡した。金は元々薄く加工するのに優れている。研磨せずとも…


「舐められたものだな。訳をはな…いや、いい。理由はわかった。」

 そう言ってカードを返してくれた。


 先の戦闘もあり魔力がまた増えたのだろう。隠蔽している先から1という数字が飛び出て、1○〇7,000となっていた。


 以前風魔法のサラブレッドであるハヤテが見せてくれた時に5千程だったので、もはや隠しようがないのだが。



「それで、お前は何者なんだ。」

「シンドバッド様の元で修行をするため参りました。」

 一瞬身が縮まる程空気が張り詰めたが、彼は俺の回答を聞いてガハハっと大笑いし出す。


「それだけの強さで商人修行だと?冗談も休み休み…」


「本当ですよ。その子はうちで預かっております。」

 ガーベラが呼んでくれたのだろう。シンドバッドが立っていた。


「これは天下のシンドバッド様ではありませんか。何故こんなむさ苦しい所へ?」


「アーサー君を迎えに来たのですよ。」


 対照的に見えるが、どちらからも内面が伺えないだけの厚みを感じる。含みのある口調から、対立関係である事はわかるのだが…


「これだけの能力を捨て、商人に育てるだと?ふざけてんのか?」


「ふむ、やはり隠していたようですね。ですが私は依頼されたもので。あなたのように脅して引き止めているのとは違います。」


 声を荒げ圧をかける彼に対し、シンドバッドは淡々と嫌味をつける。側から見るとむさ苦しいオッサンと脂汗のオッサンが、俺を取り合う奇妙な構図なのだが…


「交渉と行こうじゃないか。

 あんたもギルドに盗賊討伐や護衛の依頼を山ほど出してるが、処理出来る人間が居なくて困ってるだろう。」


「やれやれナジム、それを引き合いに出すのは良くないのでは?それに交渉事は私の土俵。野蛮な貴方に出来るのですか?」


 俺は商会に預けられている。シンドバッドが俺に直接討伐や護衛をやらせればいい。たしかに交渉にもならない。


「最後まで聞けよ。

 預かっているという事は期限があるだろ?その間にコイツが世界中の盗賊を討伐してくれるのか?返してしまえば元の木阿弥だぜ。」


「一理ありますね。貴方には案があると?」


 俺の手を引き、立ち去ろうとしていたシンドバッドが卓についた。当事者であるはずの俺は、ただ行く末を眺めていることしか出来なかった。



「無事だったようだね。それじゃあ気を改めて、一度帰らせてもらおうか。」


 今度の帰り道は何事も無いことを祈って、シンドバッドに別れを告げ、元来た道を引き返した。


 先程の話し合いは、ナジムが俺に報酬を出して冒険者に訓練を行う事と、討伐依頼は従前通りギルドに出す事になった。


 その分の報酬もほぼ俺に渡る。それで俺の修行費用を稼がせ、期間を伸ばすという事のようだ。


 シンドバッドは俺を土国の学習院に通わせながら、修行させるつもりだったようだ。ただ、入学は7歳から。渡した金ではこの計画に足りないらしい。


 その間は買い出しや運搬の下働きをさせながら、基礎を学ばせ、足りない分を稼がせるつもりだったようだ。


 一見すれば立て替えるか、ガーベラに追加費用を請求すれば良いだけに思えるが、他に示しがつかないし、彼女へ貸しを作りたい側面もあるだろう。


 その空白の期間に臨時収入を渡す事が出来る。ギルドに貸しも出来る。彼にとって多くの利益を産む。


「なるほどね。良い読みだ。」


 彼女は魔力の回復待ちに作ってやったカレーの、最後の一口を名残惜しげに突きながら言った。


「それで、あんたの利はどこにあるんだい?

 そもそも仲間になってくれる土魔法師を探しに来たんだろう?何年もかかってしまうじゃないか。」


「あの街はウィリアムの爵位を上げる為でしか無い。基礎は出来上がっている…俺の利はその先だ。」



「怖い男だね。あんたにはどこまで見えてるんだい?」


 諦めたように最後の一口を頬張りながら問うてきた。ふと、自称神が言っていた事が気にかかる。


「最後まで。そう思いたい…」


 燦々と照りつける砂漠の真ん中で、口に含んだ水をゆっくりと飲み込んで答えた。

拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。


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