土竜(9)
シンドバッドと別れてからは、ガーベラと暫し買い物を楽しんでいた。内容は仕入れがほとんどだったので、買い物なんて生優しい物ではなかったが。
空間収納があるので、数t、数百個単位で買うのは良いが、その分魔力容量が圧迫されるようなので、砂漠で漂う時間が増えるのだが。
「その…仕入れとは別に買いたい物があるんだが…」
珍しく恥ずかしがりながら言うものだから、何かと思えば香辛料店へ入った。
「俺ならカレーの材料がわかるぞ。」
カレーの妖精が教えてくれるから、スタンダードなスパイスカレーならすぐ引き出せる。
「本当かい!見繕ってくれるかい?」
これとこれと…と次々と指差すと、余程気に入ったのか全て仕入れのようにt買いした。
最後に目当ての物も手に入り、とても満足したご様子だ。
土国を出て、腹の虫がなる頃に手書きの地図を取り出す。まだ明るいが、辺りには人影どころか砂一面の地平線が広がり出した。問題ないだろう。
“俺とガーベラを40km前方へ”
……ガチャ…ズシュッ…
目の前では破れた肌着やズボンの男達が、カンドゥーラを赤く染め上げていた。荷車を引く首輪で繋がれた人々は、怯える事もなく座り込んでいる。
ちょうど強盗行為の最中に、不時着してしまったのだ。
「なんだい。クロユリの街まで行くんじゃないのかい?」
「流石に一回では届かない。それより下がっててくれ。」
「なんだおめーら…おい!上等な女じゃねーか。ガキ!そこどけや。」
一番近くにいた盗賊が、不用心に近づき剣を振り上げる。魔力は残りわずか、あまり使いたくない。
膝を脱力し両膝が折れた瞬間、砂を拾い顔目がけて投げた。男はよろけながら目を擦っている間に、屈伸の反動を活かすように一歩踏み込み懐へ入る。
推進力を今度は蹴り上げる力に変え、金的をかました。
「うぅ…」
男はうめき声を上げながら膝から崩れ落ちる。
半笑いで眺めていた後ろにいる仲間達の笑い声が消える間に、俺は上がった右足を回しながら地に着いた右手で落ちた剣を拾う。
そのまま回転軸に手足を近付け速度を上げ、一回転してから頚椎に届かないよう首の手前だけ切断した。
「てめぇ!ぶっ殺してやるクソガキがぁ」
次に近くにいた男が斜め前方から走ってくる。
俺は回転を止めた低い体勢から剣を落として砂を握り、バックトスのように顔に投げる。右手で防がれたが、俺は前転しながら剣を拾った。
“刃を硬化”
そのままの勢いで、俺を一瞬見失った男の左足を切断した。倒れ込んできた男を盾にし、次の男の斬撃を受ける。
更に追撃しようとする別の男の剣を、刃こぼれした剣先を倒れ込んだ男の上に乗せ、とりあえず受ける。
同士討ちで死んだ男の剣をすかさず取ったが、先に斬り下ろしてきた男の蹴りで、死骸もろとも吹き飛ばされてしまった。
肋骨にひびが入ったか。仕方ない。
”その2人の心室の血中水分を凍結。”
2人とも胸を押さえて俯きに倒れ込んだ。
血液循環に支障が出るのはもちろん、自分の意志と関係なく心臓が、氷にへばり付いたり離れたりしようとする。激痛だろう。
「終わったのかい?あんた顔に似合わず、えげつないねぇ。」
「殺していたんだ。殺される覚悟はしてただろうさ。」
何気なく答えたが、初めて人を殺したのに、思ったよりも穏やかな声で自分でも驚いた。
奴隷を見遣るとヒッと小さく悲鳴を上げ、小便を漏らす者もいた。彼らにとって俺は盗賊より怖い化物のようだ。
「この人達と荷はどうなる?」
「盗品扱いになるよ。下手な事は考えない方がいい…街からそこまで離れてないという事はシンドバッドの物だろうさ。」
やれやれと呆れながら盗賊の首を切り取り、商人の死体と共に空間へしまって、土の国へ戻る事にした。
「おい止まれ!そこの子ども!お前だ!」
1人目の首から溢れんばかりの血飛沫を浴びていた事を忘れていた。当然のように衛兵に止められた。
「その子はシンドバッドのとこの子だよ。」
その言葉を聞くと衛兵はびくっと身震いし、すぐさま掴んだ手を離していた。
「随分と早い戻りだと思いましたが、どうしましたか?」
「荷車が盗賊に襲われており、撃退しました。」
なるほどと相槌を打つ彼に、商人の死体を見せた。
「私の荷車で間違い無いようですね。ありがとうございます。回収に人を出しましょう。」
彼は死体を見ても感情の起伏を少しも見せずそう言い放ち、さっさと歩いて行く。だが、その足取りは怒気を放ってるように見えた。
「盗賊の首はどうすればいい?」
「冒険者ギルドだよ。賞金首か照会出来るし、依頼も出てるかもね。」
言われるがまま彼女に着いて行き、これまた風国の倍はありそうなギルドに到着した。
お決まりの嘲笑から、噛ませとのバトルは無く、いつかのようにヒソヒソされている。気にせず盗賊討伐の依頼を持ち、受付に提出した。
「これ、事後報告でも大丈夫か?」
「し、シルバー!?お客様のランク以上の…」
カードを出すと受付だけでなく、横目に見ていた冒険者も静まり返った。
「可能ですが、その場合死体の一部を…」
依頼を受理し首を一つずつ並べると、受付は腰を抜かしてへたり込んでしまった。
「タレクじゃねーか?あれ。」「あの子供が?」
今は目立ちたくない。早く済ませて欲しいのだが。
「おい小僧。なんだこの騒ぎは。」
豪快な髭を生やした浅黒い力士のような男が、2階から声をかけてきた。首を見るや、俺の真横に飛び降りた。
「お前さんがこいつらを?」
そうだと伝えると、依頼書とカードが載った板に手をかざした。板が緑に光り、完了したようだ。残された俺のカードが金色に輝いている。
金も貰えたしさっさと退散し…
「おい、ちょっと来い。」
後ろ襟を掴まれたかと思ったら、見知らぬ部屋に転移させられていた。
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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