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世界を知り己を知る(2)

 リズミカルに石段を木が叩く音が、徐々に部屋へ近付いてくる。

「終わりましたか?では昼食の準備しますね!」


 扉を開けると同時に、アベリアは返事も聞かず準備を始めた。

 これは何か良いことがあったんだろう。こういう時は、何も聞かなくても…


「聞いてくださいフーマ様!……

 ……って聞いてませんね?そんなだとお婿にもらって頂けませんよ!」


 そう言うと、彼女はむくれながら食べ終えたばかりの食器を急かすように片付けていく。

 それにしても一国の王子に向けて、婿だとか少しも笑えないんだが…


 揺れる緑髪の隙間から、貴金属の輝きが滑らかな曲線を描いている。ウィリアムに耳飾りをもらったようだ。

 朝の話は察しの通り……


「良かったな。似合っているぞ。」


 さりげなくお約束の世辞を言うと、鼻歌を歌いながら食器を片付け続けていた。


「つけあがるんで、やめて下さい坊ちゃん。」


 軍服姿の青年がやれやれといった様子で部屋に入ってきた。昼食を食べ終えると、ウィリアムとの鍛錬の時間だ。



「ちょっとそれどういう意味?」


 ムッとした顔を彼の胸元に近づけながら、上目遣いで睨んでいる。

 ウィリアムの方は顔をふいっと背けてしまうが、短く刈ってある銀髪から耳や頬が赤く染まるのが見えている。


「似合ってるけどよ…坊ちゃんを困らしたらだめだぞ」


 何を見せられているんだか…困らせてるのはお前もだウィリアム。

 このまま2人の世界に入られても困るので、現実に引き戻すとしよう。


「今日は何をする?」


 俺の声を聞くや否や、アベリアはハッとした様子でそそくさと部屋を出ていき、ウィリアムはその騒々しさで我に戻ったようだ。


 それからいつものように部屋の中で、柔軟体操、基礎体力の運動、柔術のような護身術を終えると、彼はどこからともなく木剣を取り出した。


「基本的な体の動かし方は上出来です。これからはこいつの素振りをしましょう」


 扉の前で刃の部分をパシっと叩いていたかと思ったが、次の瞬間には横薙ぎに振った切先が、鼻先で止まっていた。


「へぇ…さすが坊ちゃん…」


 そう言うと木剣をくるっと反転させ、柄の部分を差し出してきた。


 咄嗟にバックステップして事なきを得たが、こいつバカか?10年後にはこいつを殴り倒す。


 そんな事を考えつつ剣を奪い、今の背丈では水平に振れないが、同じようにウィリアムの喉元に剣を振る。

 彼は暫く目を丸くしてから、ククッと笑った。


「これは驚いた…次に進んでも良さそうだが、ここでは手狭だな…。坊ちゃん!セバスさんと月は見ましたかい?」


「夜は1人だから、一緒には見てないぞ。」


 彼が素っ頓狂な返事を聞いたという顔でこちらを見るので、俺も首を傾げてしまい、変な角度で見つめ合う。


「セバスさん大事な話をするとか言ってなかったか?」

「それは毎日聞いている。だが、明日は本当に大事だとも言っていたな」


 それを聞くと、天を仰ぐように見上げて何か考え込んでいたが、頭を縦に振って右手を差し出した。


「じゃ、今日はここまでだな。ちょっと爺さんと話してくるわ。」

 持っていた木剣を渡すと、恭しく礼をして出て行った。


 いつもならアベリアが夕食を運ぶまで居て、誰が見ても恥ずかしいイチャイチャを見せつけてくるのにな。


 テーブルを元の位置に戻しながら、そんな事を考えていた。




「俺はなぜこの世界に来たのだろう。」


 蝋の火を見つめながら、筆を止めてポツリと呟く。


 今日も見聞きした事を『なぜそうなのか、元いた世界とどう違うのか、どう展開するのか』なんて考えながら、白紙の本に書き留めていた。

 こうして思考を巡らせる時間が少し好きだ。


「今日はあまり進んでいないな」


 黒に青色を垂らしたような夕暮れ空に、威厳のある声が静かに響いた。



 いつの日からか、夜にはこの男がどこからともなく現れ、こうした思考を巡らせた話をするようになっていた。


 文字の成り立ちや時の数え方から単語の意味やこの世界には無い季節という概念。

 時を忘れ話し込むほど、この時間が好きだ…




 男は話疲れてウトウトしている子供をベットに寝かしつけ、厳格そうな顔を緩め、胸をそっと叩く。


「誕生日おめでとうフーマ」


 大男の姿は消え、部屋には寝こけた子供だけになった。

拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。


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誤字脱字や批評でも構いませんので、コメントも頂けるとありがたいです。


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