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土竜(8)

 その外観はさながら少し小さなタージマハルのようだ。


 これだけ大きい建築物は他国では中々お目にかかれないだろう。土魔法の建築への有用性を存分に発揮している。


 同じ物を作ろうとしても、風の国では何年もかかる事だろう。


 中に入ると外観の絢爛豪華な装飾とは裏腹に、中はデパートのように品の種類によって整理され、各コーナー毎に会計所が設けられていた。


 よく考えられている。どこぞの詰め込み商会とは大違いだ。


「あんた!今失礼な事考えてたろ!」


 ガーベラは人目を憚って、小さく俺の背中を叩いた。



「おやおや、お久しぶりですねガーベラ様。そちらのお子様はどなたです?」


 呼ばれた方を振り返ると、石油王のような出立ちの太った男が、石膏で固めたように笑顔を一切崩さず立っていた。


「お久しぶりですシンドバッド様。これは私の子です。」

 彼女の咄嗟の対応に、俺は驚きが見えないよう軽く会釈をして、顔を隠した。


「左様でございましたか。今日はどう言った御用向きで?」


 彼の右眉が僅かに上がったように見えたが、気取られる事なく即座に話を切り出す。

 一流の商売人のようだ。どこかの誰かとは大違い…


 足の小指が痛いと思ったら、彼女に踏まれてしまっていた。というかコイツは俺の心を読みすぎだ。



「睦まじいのですね。本当に親子のようです。」


 一瞬空間全てが止まったかと錯覚するほど、その場の雰囲気が凍りついた。


「魔法使いではないあなたが、魔法使いを産む事はありませんから。養子か何かですか?」


 俺達はほっと一息ついたが、すぐさま顔を見合わせた。そんな情報は風の国では聞いた事がない。


 近代的な土国の方ではそういった研究が進んでいるのだろうか。

 しかしアベリアの両親は、魔法適性が無いと言っていたが、彼女は風適性がある。


 彼が嘘を言っている気配は微塵も無い…というか全く読めない。

 話す時というのは、表情筋も動かす必要があり、全てを意識下に置いてというのは難しい。


 また、そちらに気を取られれば、仕草や体の動きがコントロール出来ない。


 この男は直立不動のまま、最初の笑顔を全く変えていないのだ。



「折行ってご相談したい事があるのです。この子について。」

「かしこまりました。では、あちらの個室で食事でもしながら…」


 そう言って歩き出す様は、太った体と対照的に、虎が茂みを進むように静かだ。


「おい…お前これからどうするつもりだ…」

 後ろを少し離れて歩き、聞こえないよう彼女へ問いただす。


「私に考えがある。任せろ。」


 彼女は俺を一切見ず、声も出さずに口元だけでそう言った。口は悪いが、賢い彼女なら言わずとも、俺の考えを汲んでいるだろう。


 彼は慣れたように、小綺麗なレストランのような所に入って行く。


 ふとドレスコードは大丈夫だろうかと気になった。ウィリアムのお下がりだが、上等な皮防具を身に纏っている。


 今更ながら場違いな気がするが。

 本当に今更だが、片やドレスのような様相で、冒険者見習いのような格好の園児を子供とはよく言ったものだ。


 心配を他所にオーナー権限だろうが、すんなり中へ入れてもらえた。店員もよく教育されており、全く動じずに席へ案内してくれた。


 ガーベラの受付なら顔を引き攣らせながら、柱に隠れる事だろう。



「さて、お話とはなんでしょう。」


「この子を預けさせて頂きたい。私が仕込みたい所だが、この容姿は風国では肩身が狭いのです。」


 表情はやはり一切崩さずうんうんと頷いている。座ると大仏が首を振っているように、穏やかな表情に見える。


「お代はいくらほど頂けるでしょうか。」


「アーサー、あれを出して。」


 俺は空間から金塊を2つ取り出し、テーブルへ置いた。


「ほう。ストレージ持ちですか。驚きました。冒険者カードはお持ちですか?」

 相変わらず顔は全く驚いていないのだが…

 俺は横目でガーベラと目配せし、カードを渡した。


「シルバーですか!魔力もその歳で大したものだ。適性は土と無系統…とても優秀ですね。」


 魔力と適性は、土魔法を使って銀メッキをして隠しておいた。こういう奴のためにヤスリをかけたので、横から見てもわからない。


 カードと引き換えに、金塊を彼の方へ差し出す。


「ふむ、いいでしょう。では成立祝いに食事を」


 すぐそばで待機していたように、その一言を合図に運び込まれるカレーとナン。食べてみてもカレーとナン。


「美味しい…辛味に酸味や甘味が複雑に隠されているようだ…白い方も塩気が邪魔せず、食感も癖になる…」

 彼女はスパイスカレーの魅力にすっかりやられてしまったようだ。


 それよりも鶏肉カレーのこのまろやかさ…明らかにバターだ。


「ここでは乳が手に入るのですか?」


「よく知っておいでですね。こちらは魔牛の乳を使っています。

 ですが、その魔牛は水の少ない土地では生息しておらず、水国から輸入しています。その為、ごく僅かしか手に入らない貴重な商品なのです。」


「そうですか…貴重な品をありがとうございます。とても素晴らしい料理でした。」

 俺も久しぶりのカレーに感動し、次々と頬張ってしまった。


「それでは支度をさせますので、一旦帰らせて頂きます。ご馳走様でした。」

 彼女は立ち上がり、淑女らしくカーツィをして見せた。


「わかりました。ではこちらに戻ってから今後の話をしようか。アーサー君。」


「はい。よろしくお願い致します。」

 俺も立ち上がり、深く礼をした。


 “さあ、仕事を始めようか。”

拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。


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