土竜(6)
風車小屋の中には大きなシャフトに鈍く輝くポンプが繋がれていた。
風が無いお陰で、動作してなくて良かった。
このままでは辺り一面水没させていた事だろう。
風の国だけあって風車は多く見かけたが、全て粉引きに使われているようだ。
水の汲み上げには使われていないため、水が溢れていたら仕組みが分からず、シャフトを折ってしまうだろう。
先に風車のシャフトに歯車を付け、その下へ更に歯車を付ける。
この歯車をレバーで水平移動出来る様にする事で、連結を外すと上下運動を止められる。
最後にピストンを繋げた歯車を付けて完成だ。
次にポンプを切断して開けると、しっかり逆止弁が入ったダイヤフラムポンプになっていた。
この仕様だと効率は良いが、メンテナンス性として俺のように固体を操れないと、分解が大変なのだ。
上のピストンに革製のOリングを入れて、キツキツにシリンダを作る。
メンテナンスのために、逆止弁のボールが入る部屋を分割出来るようにして、ここにもOリングを付けて完成だ。
「最後の仕上げを忘れてたな。」
風車小屋の基礎をコンクリートにし、次の家へと向かった。
半分の家に地下室を作った所で、陽が落ちて空は真っ赤に燃えていた。
カードを見ると魔力がかなり増えていたが、使えば増えるようだ。魔力が多いと回復も速くなっている。
レベルのような物とHPは無いが…刺されたら死ぬんだ。当たり前か。
とりあえず、帰って飯にするか…
「フーマ様。もしよかったら、うちで食べて行きなよ。」
「良いのですか?是非お願いします!」
最後の家主から、願ってもない提案をもらったので、厚意に甘えさせてもらう事にした。
決して気まずいからではない。
出てきた料理は相も変わらずパンにスープだが、城の物より美味しく感じる。
パンは外が硬めで中が柔らかく、スープは具沢山のポトフ。
単に料理が上手というだけでなく、暮らしが豊かである事が伺える。
夫婦は隣村に住んでおり、夫は目が悪く、兵士にはなれなかった為農業をしていたが、給金の良い仕事を求めて街へ移住したそうだ。
「全部フーマ様達のおかげなんだよ。この家もこの飯も。
もっと…もっと早く…フーマ様が来てくれたら…」
「あんた!王子様の前でみっともない!男がめそめそしてんじゃないよ!」
気丈に振る舞っているが、彼女も悲壮感を漂わせていた。聞くと不作の年に幼い娘も息子も売らざるを得なかった。
その年は特に酷く、隣の老夫婦が死に、次はその隣の赤子、その隣の娘も売りに出て…
話しながら泣き震える手は、長年の農作業でゴツゴツと節くれだっていた。
「話してくれてありがとうございます。
僕もウィリアムもそんな思いを二度としなくて良いように…必ず…
きっとまたあなた方の力が必要になります。農家の力が…その時もよろしく頼みます。」
そう言って握った拳は、彼らの大きく雄々しい手より、半分もないくらいちっぽけで弱々しく感じた。
「今日はありがとうございました。」
「うちで良ければまた来てよ!街の皆に自慢してやるんだ!」
女性はどの世界でも逞しいな。
もう一度礼を言い、見上げると満天の星空が、押し潰すように輝いていた。
「フーマ様。ここに居たんですね。」
走り回ったのか、汗をかいたヴァイオレットの姿が、暗闇に浮かびあがった。
「さっきの事…その…謝りたくて…」
「いいよ。気にしてない。」
少しの沈黙が、何光年も続いているような気がした。
「明日の夜にはここを立つ。
昼は時間が空いたらヒューゴと訓練を、夜はセバスに勉強を教えてもらってくれ。」
業務連絡のように、淡々と告げた。
「わ、私…その…」
今にも泣き出しそうな彼女は、触れれば壊れてしまいそうだ。
「大丈夫。俺はいつでも、何があってもスミレの味方だよ。」
優しく告げながら抱きしめ、その場を立ち去った。そうだ…彼女は俺の恋人でも婚約者でもない。これで答えは合ってるはず…
“俺をクロユリの間へ”
その日は少し傾いたベットで、夢も見ないほど黒く深い眠りについた。
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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