土竜(4)
気付くとガーベラの前に立っていた。
「いつからお前は顔パスになったんだい?」
小さな拳骨がゴリゴリと音が出そうなくらい、こめかみを押しつぶす。
「た、単刀直入に言う。これを買い取って欲しい。」
そう言って伯爵と準男爵が買い集めたコレクションを出すと、彼女の手が止まった。
彼女はそのまま品定めをし、黙々と計算を書き始めた。
「何が欲しい?」
「あなたの心です。」
また立ち上がった彼女の拳骨が、今度は脳天に突き刺さり、ゴツっと良い音がした。
「冗談じゃなくて、ガーベラ商会を移転してほしいんだ。クロユリの街に誘致する。」
頭を抑えながら言うと、少しの沈黙があり、彼女はまた計算を始めた。
「残った分は?」
「街の開発資材に充てて欲しい。とりあえずこれだけ準備してくれ。足りなければまだ出す。」
そう言って、紙と金塊を1つ出した。
しかし、これは首を振って押し戻されてしまった。
「鉄はこんなに無い。
火の国でしか取れない石を土の国で加工してるんだ。流通量が少ないのさ。」
「その石で良い。集めてくれ。
それと、移転は了承という事で良いんだな?」
彼女はきょとんとしていたが、気にせず店を動かした。
“ガーベラ商会をクロユリの街、B-1番地へ”
瞬きする間に、彼女の後ろにある窓の景色が、見慣れた街並みになっていた。
「会長!み、店が…表に人がいっぱい……」
受付嬢が慌てる声を最後に意識が遠のいていった。
「……ーい!おーい!聞こえる?」
体を起こすと白い大地の世界に、前世の俺の姿をした奴が立っていた。
「ああ。神様が何の用だ。」
「やっぱり!君はここでの記憶を持ったまま下界に転生しちゃったんだね?」
確かに俺は覚えていた。
ここで、こいつは自らが神であると名乗っていた。悪趣味にも俺の姿をしながら…
その時に「下界を観察する、君らの世界で言うシミュレーションゲームをしてるのさ。」と言っていた。
暇つぶしなんだと…
「それで、何の用なんだ。俺は死んだのか?」
苛立ちを募らせながら、ぶっきらぼうに吐き捨てた。
本当は魔力が枯渇して気を失っただけだと知っている。そこに付け入り、こいつは俺を呼び出したのだ。
さっさと立ち去りたくて、子供のように駄々をこねた。そんな俺を見透かすように、うんうんと頷きながら、こう言った。
「君を堕として正解だったよ。実に面白い。」
彼は代表選手を讃えるが如く、偉そうに拍手をしながらそう言った。
「でもね、君はルール違反をした。ここでの記憶を使うなんてチートだよ!」
続けて彼はアニメなら効果音が出そうなほど大げさに、頬を膨らませて腕を組んで見せた。
やめてくれ…30過ぎのオッサンで天真爛漫キャラの女子みたいな仕草…
「チートでもなんでも使ってやるさ。俺はこの無理ゲーを生き抜く為ならなんだってやる。
それに、この記憶は取引した…」
「うるさいうるさい!
とにかく罰として一回休み!」
俺の言葉を遮るようにそう言った彼は、聞き分けのない子供のようだ。
だが、一回休みとはどういう事だ。急激な展開に頭が追いつかない。
俺の考えなど他所に、粒子混じりの光が徐々に、彼の頭から下に向かって走り出す。
「そこで少し頭を冷やしてて。それと忠告!
今はまだ間違えてない。でも君は間違えるよ。」
ホログラムのようになっている彼が、先程までとは打って変わって真面目な表情を見せる。
「それってどういう…」
「じゃあ最後に大ヒント。カケ…」
次の瞬間、白い光が靄のように彼を包み、靄が晴れると共に彼も消えていた。
「途中じゃん…ノーヒントだろそれ…」
少しの間、呆然と立ち尽くしていたが、辺りを見回すとリクライニングのシングルソファーが、ぽつんと置いてある。
腰掛け見上げると、大きなスクリーンに子供の俺が映し出され、奴が主演になり代わったのだとわかった。
こいつの悪趣味な1人芝居を見ていても退屈なだけだ。話を整理しよう。
まず俺を呼んだ理由…は聞いたが、何故今なのか。
奴の言い方だとルールは最初から破っていたという事だ。
今になって咎める理由は何だというんだ。
『今はまだ間違えてない。でも間違えるだろう。』と言っていた。
「近々間違えるという事か…」
一つの仮説を立て、積み上げる。足場を一段ずつ組み上げるように。
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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