土竜(3)
街の整地、街道の整地が終わったら、下水の整備だが…大きな問題がある。
この国は地下水くらいしか水源が無く水が貴重な為、水洗式には出来ない。
つまり、下水道を作り、導線を使って集める事が出来ない。
首都圏外郭放水路のような街全体の真下へ大神殿を作り、スライムを放つ他ない。
スライム大神殿予定地までの入り口になる階段は作ったが、ここからは土魔法師を大量に投入する必要がある。
階段も周りの壁を、土砂の荷重に耐えられるように作りつつだから、相当な魔力を使った。
それと神殿の柱を、所々空洞にしないと地下水を汲み上げられないという…
そのような複雑な固体形成をするのは、俺がやるとしても、他の部分はやはり土魔法師を調達…いや頂戴しないと…
そういえば茶髪のままだったな…
「そうだ。土の国行こう!」
とりあえず準備しなくてはならない。
長旅になるだろうから、居ない間の指示をしておかないと。
セバスとアベリアは大丈夫だろう。工事と兵士の訓練を見ているウィリアムの所に行こう。
「ウィリアム卿、少しいいかな。」
「坊ちゃん。からかうのはやめて下さいよ。」
彼は少しおどけてみせたが、俺が真剣な顔をしていたので、すぐ神妙な顔つきになった。
今後の問題となるのは領地経営だ。ただ悪戯に土地開発しているだけではお金は増えない。
一時的に大規模な仕事が出て、治安が良くなっているように見えるが、継続性のない日稼ぎと一緒だ。
終わりが来れば、この人数が一挙に路頭へ迷う事すらあり得る。
それまでに食糧の自給を増やすのと同時に売れる物を作る。
それに土国への防衛として、壁は効果的ではない。
壁が固体である以上、土魔法の前では太刀打ち出来ない。
「水田と水路を作ってくれ。そこと堀を繋げて、堀の幅を80m拡幅して欲しい。」
「80って坊ちゃん。あのロープ8本分ってことですかい?しかも水路って…」
あまりの規模の大きさに彼は大げさにたじろいだ。俺は頷きながら続けた。
「水源は俺が作っていく。それと稲作はセバスと村民に相談しながら進めてくれ。
それと人を襲わない魔獣を飼って、乳や卵、肉を安定的に採取出来るようにしたい。魔獣の狩猟も頼む。本当に安全かはヴァイオレット達に任せていい。」
化学製品や鋼製品は加工できる魔法がある世界で、その魔法が使える人間がおらず、原料もないこの国では得策では無い。
農業をまず進展させる。
「作ってくってどこかに行くんで?」
「土の国に行く。たぶん暫く戻れない。街と皆の事をよろしく頼む。」
「そっかぁ…うん。こっちはなんとかします。心配しないでください。坊ちゃん、お気をつけて。」
彼の顔はいつになく真剣で、妙な懐かしさを感じた。
あとはもう一度ヴァイオレット達の所に戻って、進捗確認しないと。
彼女達は早速、スライム達に餌を与えようとしている所だった。
「方針は決まりましたか。」
「うん。箱に数字を書いて、個体差があるとまずいから、この順番に餌をあげていくんだ。」
そう言って見せてくれた紙には50を超える項目が書かれ、その一つ一つに確認事項や注意点が記入してあった。
やはり人選は間違ってなかったらしい。
だが、中には生ゴミや糞尿など王子にやらせるには、少々気が引ける物もあった。
遠回しに提言するか…
「少し任せた方がいいのでは?」
「せ、セバスさんやウィリアムさんは他の仕事があるから。それに女性にこんな事させられないよ。」
ヒューゴは何処かの王子と違い、優しいんだな…
「…わかりました。それと俺は暫くここをあけるので、任せても宜しいですか?」
彼はコクコクと大きく頭を振るが、その姿はやはり可愛いらしく、犬が撫でろとせがんでいるようだ。
その後からは刺すような鋭い視線を感じるのだが…
「フーマ様。また私を置いてどこかへ行ってしまうのですか。」
「少し隣へ行くだけだ。留守番、出来るな?」
彼女は返事もせずにそっぽを向き、ツンツンとスライムをじゃらし始めてしまった。
困り果てた顔をすると、彼が慌て出す。
しまいには「こ、ここは俺に任せて先に行け」とか言う始末。
英雄ハヤテ伝説にでも感化されたのだろうか…
彼に気を遣わせるのも忍びないので、他にも魔獣の研究をしてほしい旨を伝え、その場を離れた。
あとは水源とスライムの実験が進んだ時のことを考えて、仮の神殿、トイレを作って行こう。
釉薬は作っておいたし粘土、細骨材、粗骨材もある。あと必要なのは木材、鉄、陶石、珪石だな。
あそこなら全て揃うだろう…ちょっと相談もあるし、先に買い出しに行くか。
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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