土竜(2)
とりあえずデービットに見つからないように、書庫へと戻ってきた。
すぐ駆け寄ってきたヒューゴは、子犬のように目を潤ませて、大丈夫だったかと心配してくれた。
いや俺より背の高い彼は大型犬か…
「そんな事よりセバスを知ら…」
「ヒューゴ様、昼食のお時間…フーマ様。」
扉が開き、目当てのセバスが入ってきた。いつも書庫にいる彼を迎えに来ていたようだ。
誰にも相手にされず、寝食を忘れて本の虫になっている彼を気に留め、現実に引き戻してくれていたんだな。
やはりこれは人の心を持ったあなたの仕事だ。
「セバス。君を修道院の院長に任命する。すぐ支度し、速やかに街へ来るように。」
「かしこまりました。すぐ向かいますので、先にお戻りください。」
「さすがセバス。さて、それではお先に向かいますよ。」
そう言いつつヒューゴの手を取ると、戸惑い続ける彼を尻目に街へと向かった。
“俺とヒューゴをクロユリの街の教会へ”
講壇の前に整然と並ぶ長椅子とお手製のステンドグラスを見て、ふと前世の事を思い出す…
この世では何故か見目麗しい第二王子と手を繋いでいるわけだが…
「ど、どういう事?今何をしたの?」
戸惑いながら辺りを見回していたが、質問タイムが始まってしまった。
「転移しました。今日から一緒に住むんです。」
そう伝えると、彼の手を引き外へ出た。
表では順調に整地が進んでいた。アスファルト、車が走らないこの世界ではコンクリートでもいいが、これらを使うとなると俺の魔法に依存することになる。
石畳も同様で、魔法を使わないと時間がかかりすぎる。
そのため、今の土を転圧するだけにしている。
ボーリングした際に土の状態を確認したが、含水率の高い粘土質は含まれていなかったため、たぶんこれでもマシになる。
「フーマ様…ってその方は…!」
俺に気付いたヴァイオレットが駆け寄ってきて、警戒心を露にする。彼はというと俺の背に回り、背丈の小さい俺に隠れようとしている。
「今日からヒューゴも一緒に住む。よろしくな。」
彼女は驚きすぎたのか、口をぱくぱくさせている。
「こ、これは何してるの?どんな意味があるの?」
彼女の事などお構い無しで、いつの間にか俺の後ろを飛び出て、目をキラキラさせながらまた質問してる。
「これは転圧と言って土を叩いて固めてます。本当は掘り起こして底の土台になる地盤を押し固めて、その上に砕石等の…
でもここは人が歩くだけなので、とりあえずそのまま叩いて平坦にしています。」
ヒューゴは色々な事に興味があるらしい。胡散臭い魔法書や絵本なんかが詰まった書庫よりも、外の世界の方がずっと面白いようだ。
「何故第二王子をここへ?」
彼女にも質問癖が移ってしまったようだ。
だが確かに何故だかわからない…他の3人には明確な理由があった。
ウィリアムには他の者の守護と、主をすげ替える為。アベリアは領民と領主の緩衝材と交渉役。セバスは修道院の管理と領地の管理。
ヴァイオレットは城に残しては危険だから…
「ねぇ!こっち!こっちの建物は何をする所?」
まぁ可愛いからいいか!男は好きじゃないけど。
あとの問題はトイレの汚物処理だな。住民へ説明した以上、きっちりこなさなくては。
こういう処理は、ラノベだとスライム先生だが、もうそろそろ…
「取ってきたよー!」
アベリアがスライムが入っているであろう木箱を元気いっぱいに掲げて、こちらに走ってきた。
さて、開発実験の時間だが…
木箱を渡すアベリアにもう一度新しい木箱を渡す。
「え…これってどういう…「ワンモア」」
「えー!扱いがひどいんじゃ無いですか?」
これを10回繰り返す間に、ヒューゴとヴァイオレットに実験の指示を出す。
とりあえず分解物、分解力、繁殖力、死滅条件を確認する。
「とりあえず、どうやったら確認出来そうか考えてみてくれ。」
まず考えさせてみる。質問には答えるが、目的の答えは教えない事が一番勉強になる。
「色々な物をとりあえず箱に入れてみたらいいんじゃないかな。」
「それでは箱毎に分けて入れ、与える物を箱に記入してはいかがでしょう。」
最初は壁があったが共通の役割と目的が与えられ、同世代という事もあり、意見交換が出来ている。
「フーマ様。私めは何をすればよろしいでしょう。」
「ちょうど良かった!これを預けておく。これから来る子供達に教えてあげてくれ。」
セバスへノートを渡し、教えてもらう内容を説明する。この世界に不足している算数や理科を中心に書いた物だ。
「こんなに重要な物を私に。宜しいのですか?」
「俺には出来ない。セバスだからお願いしてるんだ。それと、ウィリアムには学がない。領地の管理をよろしく頼む。」
「かしこまりました。善処致します。」
そう言って恭しく礼をする彼が、どこか嬉しそうに見えた。
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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