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土竜(1)

「セバスを修道院の長に任命する。」


 約束の1週間と数日が経ち、帰還するや否やハヤテへ打診すると、即座に仕事そっちのけで立ち上がり、その勢いで椅子が音を立てて倒れた。


「だ、ダメだ。あいつがいないと…」

「おい。てめぇのその頭は飾りか?」


 俺が睨みつけるとたじろいだのか、倒れた椅子が引きずる音が聞こえた。


「心配するな。セバスならもう引き継ぎしていつでも出れるよう準備してるだろう。」


「そ、そうか。でも何故あい…セバスなのだ。」


 俺は椅子に座りながら深くため息をついた。


「一つ目に修道院は教会の政治利用と切り離したい。

 その為には教会が大好きな聖魔法師で、教会と繋がりの薄い人間を据えたい。


 二つ目に修道院と言いながら、孤児院だ。

 村の売られる子供や戦争孤児を引き取るが、奴隷商に嗅ぎつけられても手出し出来ないよう、修道院の作法や役割をこなす必要がある。


 三つ目に寮付きの学校にする。王家や貴族の文官や秘書として育成する。

 その膨大な仕事が楽になる訳だが、その為に先生がいる。


 まだあるけど、お前の小さい脳みそじゃ3つで限界だろ?」


 そう言って彼を見ると途中から上の空で、いつの間にか椅子を起こして座り直していたようだ。

 書類の数はいくらか少なくなったように見えるが、ハヤテの仕事が早くなった訳では無い。


 元ヘンリー伯爵領の徴税額、収支、納税の手続き、区画整理の手続き、住民の管理等々、確認とサインで済むようにして提出しているからだ。


「まぁ、そっちはお前に任せる。くれぐれも気をつけてくれ。」


 また仕事を始めた彼を放って、セバスを探しに部屋を出る。

 しかし、広い城内で人探しは中々骨が折れる。誰か廊下に居ればきいて済むんだが…



「…ねぇ…こ、ここで何してるの…」


 肩を突かれ振り返ると、目が隠れるほどボサボサの頭の子が、本で口を隠して見下ろしていた。


「あなたは…ヒューゴ様。」

 第二王子。いつも書庫にいると聞いていたが…


「あ、か、隠れて。」


 咄嗟に腕を引かれ、薄暗い部屋に引っ張り込まれてしまった。その部屋は、天井まであるような本棚いっぱいに書物が収まっていた。


 そうか、ここは書庫の前だったのか…


「か、隠れてて。兄さんが通るから。」

 何故か分からないが、匿ってくれたようだ。

 領地の運営が上手くいっている事が、火に油を注いでいる。気をつけろとはこの事だったか。


「ねぇ、その髪どうなってるの?」

「これは…」

 座り込んでいる彼が上目遣いで聞いてきた。俺は髪の隙間から見える顔のあまりの美しさに言葉を失った。


 デービットは男らしく暑苦しい顔立ちだったが、彼は王妃に似たのだろうか。

 色白な顔は、女子と言われても見分けがつかない中性的で、この世の人間と思えない程美しい造形だった。


「ねぇ教えて。何故茶色になったの?」

 潤む目で見られると、男色の気がない俺でもどうにかなりそうだ…


 そんな考えを払い落とすようにかぶりを振り、素直に答えてあげた。それからも質問攻めで、答えを躊躇う度に上目遣いに負け、答えさせられていた。



「も、もっと教えて。僕本ばかりで…」

「何故こんな所に篭っているんですか?」


 ようやく攻撃が終わったので反撃してみると、彼は俯いてしまったが、振り絞るように声を出した。


「と、父さんや、に、兄さんみたいに剣術も魔法も上手くなかった。母さんは兄さんばかりで…だから勉強しようと…」


「そっか…頑張ってきたんですね。」


 ネグレクト…放置も立派な虐待だ。俺は気付いたら俯いてしまった彼を、ヴァイオレットを撫でるように撫でていた。


「少々ここでお待ち頂けますか?」


 頭を押さえてぽかんとする彼を置き、俺は勢いよく部屋を出て、ロベリアを探した。



「フーマです。お話ししたい事があるのですが、宜しいでしょうか。」


 陽気さの中に影がある声で、中へ通された。

 昼明かりに佇む彼女は、顔に影を落とし、笑顔を崩していなかったが気圧される何かを秘めていた。


「それで、話とは何かしら。」

「ヒューゴ様と暫く行動させて貰いたいのですが。」


「そう…あの子を。いいわよ。好きになさい。


 それと…あまり勝手はしないでね。」


 俺は礼を言い、その場を離れた。


 めちゃめちゃ怖かった…何故怒っているかわからないが、とにかく怖かった…

 だが許可を貰い、ヒューゴを迎える事が出来た。


 次は…セバスだ。

 すっかり熱くなって本来の目的を忘れていた。

拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。


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誤字脱字や批評でも構いませんので、コメントも頂けるとありがたいです。


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