天上の一吸(4)
今日も朝から晩まで解体。
人が少し増えてきて、手が余り始めている。
ハンマーを室内で振り回す作業で、部屋が広がってきたとは言え、一部屋2人以上は入れない。
井戸を掘ろうか…街の区画も整理したいんだがな…あと下水整備、農場の開墾、商会の誘致….
城壁に関してはこの際、今のままでいいだろう。
一旦戻ってから、あと一年以上はここに張り付けになるだろう。
その間は俺が戦えば城壁がいらない。
俺は次の仕事を見越して動かなければ…
土魔法でボーリングして地下水の確認をし、予定地の区画をする為に杭とロープを同じ長さに切って…と。
「当たり…ここに井戸を掘ってくれ」
俺が掘れば早いのだが、任せられる仕事は任せていく。
次は街の現況図面を書いて、最終的な配置を計画図として書く。
領民達に家を移転する代わりに、庭を付け、汲み取りを不要とする厠を付ける事を条件に交渉する。
交渉事は明日からアベリア達を戻して、回ってもらおう。
俺1人では一軒一軒回って説得するのは、時間がいくらあっても足りない。
今日俺が話を出来る範囲だけ、とりあえず移転しようか。
「だ、第三王子様?何の御用でしょうか。」
「区画を整理したいのです。家を移転させて下さい。」
「どうぞどうぞ。王子のご用命とあらば。」
あれ?条件の説明もしてないのに、説得が終わってしまった。とりあえず家名を聞いて、図面に書き込む。
「何の条件も無く家を動かしていいのか?」
「はいー。噂の王子様の行う事ならば、私ども平民の事を思っての事でしょう?」
なるほど。
下衆共の掃除が思わぬ副産物を産んでいたようだ。
ただ他の家ではやはり庭が小さくなる事や、隣家が近づく事について抵抗のある家庭もあったが、汲み取りの無いトイレがかなり効いたようで、承諾を貰えた。
人力の汲み取りは不衛生で重労働。交渉材料としては思った通り大きかったようだ。
“この家をこっち。この家はこっち。”
土魔法で家をまるごと、図面上で移動させる。
ストラテジーゲームの建物を移動させるように。
今日交渉できた分は動かし終えた。朝から働き詰めでちょっと疲れたな…
「フーマ様!これは一体どう言う事ですか?」
「申し訳ない…」
1時間ほど眠ってしまい、ベットを運びこんでもらうのを言い忘れていた。
説教覚悟で野営を作っていたが、やっぱり実際に叱られると堪える。
ウィリアムもさすがに呆れてしまい、傍観している。
「さ、お説教も終わった事だし飯にしよう!」
「またこのガキィャア!止めないでウィリアム…一度鉄拳を落とさないとわからないんです。」
殴りかかろうとしてるアベリアは、流石にまずいとウィリアムが止めてくれたので、ヴァイオレットとご飯を作る。
今日は芋煮と生姜焼きにしよう。
この世界では薬草として、割と高値で取引される生姜を贅沢に使ってやろう。
「これは!食欲が増す匂いですね。」
「俺としてはやはりこんにゃくが欲しいな…」
「「こんにゃく?」」
いや、なんでもと誤魔化したが、こんにゃくの食感がこんなにも恋しい事があるとは…
3人はこれでも満足みたいだが。
片付けを終え、1人になって物思いに耽る。
明日から俺は何をしようかな…
「フーマ様。今日も明日の事を考えているのですか?」
ヴァイオレットが隣に座り、手を重ねる。
「ああ…こうして考えてる時間も好きなんだ。
出来上がる物を想像しながら、作っていくための明日の流れを想像する。」
少し低い俺の肩に、彼女は頭を乗せる。
周囲の地平線全てが赤く染まり、群青に染まる空の中、輝き出す一番星を見ながら彼女の頭に頬を寄せた。
「ヴァイオレット、勉学を教わるつもりはあるか?」
「フーマ様のお役に立てるならなんでも…」
そう言うと彼女は俺の横顔を見つめるように頭を上げた。軽く顔を近づけると、彼女はそっと目を閉じた。
「ご褒美は勉強してからな。」
「歳下のくせに…」
健気な彼女が可愛らしく、つい意地悪したくなる。彼女は目を見開き顔を真っ赤にして拗ねてしまった。
「ヴァイオレットは読み書きがある程度出来るから、算術からだな。
俺とヴァイオレット、人間が1と1で全部で2だ。
あっちにもアベリアにウィリアムがいて2だから2と2で4。でもこれは2人の固まりが2つとも…」
それからしばらく、青空教室ならぬ夜空教室を開校したのだった。
次の日には1日銀貨1枚の噂を聞きつけ、作業員が集まったので、道の整備と区画整理を進めた。
噂は更に広まり、2日目、3日目と次第に人が増え、一大プロジェクトのような人だかりになっていた。
修道院はそれから1週間ほどで完成し、子供達の受け入れが出来るようになったのだった。
そろそろ、次の段階だな…
俺は一旦城に戻る事を3人に伝えて、出来上がった教会へ向かった。
“俺を王の間へ”
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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