天上の一吸(3.5)
※ウィリアム視点の短いお話です。
本編とはそこまで深く関係しませんので、読み飛ばして頂いても大丈夫です。
ただ、より楽しんで頂けるかと思いますので、是非読んで頂けると嬉しいです。
男爵の爵位を貰った俺は、当面の仕事を聞きに坊ちゃんを探していた。
……ぅっ……ぅぅっ……
我らが王子様は小汚い部屋で、いつもの覇気も図々しさも取れた抜け殻みたく、うずくまっている。
坊ちゃんが泣いたところは2回しか見た事がない。
1度目は生まれた時、これが2度目だ。
俺は彼がそこまで好きでは無かった。
妙に大人びていて鼻につくというのもあったが、教えた事が割とすぐ出来る事も気に入らなかった。
自分1人でなんとかしようとしてしまう所も、才能がある上に努力を人一倍するところも…
人の心を簡単に動かしてしまう所も…
俺は打算的で汚い人間だ。
アベリアとの結婚も、無系統しかない『ポンコツ』の俺の子供が、こんな迫害を受けて欲しくないという気持ちが多少あった。
そんな俺達の子、テオは4歳の時にスラムの者に殺された。治安の悪いこの国では珍しく無い。
彼女が泣く隣で涙を流す事が出来ず、悪戯に切り刻まれた『ポンコツ』の息子を呆然と見ていた事を覚えている。
その後すぐ、フーマ様の護衛として指名を受けた。
俺は息子を亡くして日も浅く、そんな気になれないと思っていたが、黒髪の彼を見るとすぐにこの子を守りたいと思ったからだ。
彼が話せるようになってからは、たくさん冒険話を聞かせたりした。
だが、そんな彼の魔法適性が3つあると知った時、妬みや悔しさ、憎しみといった感情が胸に渦巻く。
何故テオは虐められなければ…
何故テオは殺されなければ…
何故俺はこんなに辛い思いをしなければ…
だから俺はこの王子様が嫌いだった。
自分が差別を受けても臆さず、自分が傷ついても涙を見せず、理不尽に言い訳せず逃げ出さない。
俺とは正反対なこの男が…
俺やテオ、ヴァイオレットのような人間の劣等感を受け止める覚悟も、死んでしまった事に涙を流せる心の豊かさも、こんな俺を包み込むような器量を持っている事も知っている。
だから、この薄暗い奴隷部屋で涙を流す男を見て、この世界を変えて欲しいと思った。
神様なんて信じられないこの世界で、汚い大人の無責任な願いを背負ってくれ。
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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