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天上の一吸(2)

「どスケベなガキだなぁ…たまらん!」


 そう言うと、ジェームズはコップの中身を一気に飲み干し、俺を放り投げるようにベットへ押し倒し、馬乗りに唇を奪った。


 そびえる壁のように起き上がると、海老の殻を剥くように俺の服を破り捨てた。


「う、うおおぇっ」


 次の瞬間、目をひん剥いたかと思うと、ベット脇へ転げるように吐きながら落ちた。足が揃ってるしちょうどいい。

 “この木製足枷とさるぐつわをジェームズの足と口に”


 さるぐつわを外そうと両手を口に伸ばしたところで、手枷もつける。


「さてと、これでよし。」


 両手も拘束され、どぶ蛙のように這いつくばるジェームズを見下しながら、王子の服に着替えた。


 聞き取りづらいが「何をした?」と問われたので、吐瀉物に頭をめり込ませる下品な椅子に座りながら答えた。


「ズボンに隠してた煙草から抽出したニコチンをお酒に入れてあげた。

 急性ニコチン中毒、一本なら死なないと思うよ。

 極上の気分でしょ?まだ吸えない俺からすれば羨ましいよ。」


 ふふっと笑うと、目が回っているのか椅子がぐらぐら揺れる。聞かれたから教えてやったのに、えずいていて聞こえてなさそうだ。


 一旦帰るか…


 “俺とこいつを野営地へ”



「おかえり!アーサー!」

 俺の姿を見つけると、まだ起きていたスミレが抱きついてきた。


「ただいま。まだ起きてたのか。」

「起きて待っててあげたのに。」


 そう言ってそっぽを向く彼女の隣に座り、そっと体を預けた。

「ちょっ…て寝てる。」


 そっと布を掛けてくれた感触がしたが、そのまま俺はほんの少し眠ってしまったようだ。


 唸り声が聞こえ目が覚めたが、まだ星が綺麗に輝いている事から、夜更けとわかった。

 スミレが膝枕をしてくれていて、頬に柔らかい感触と温もりを感じる。


「坊ちゃんお目覚めで。こいつどうしますか?」


 吐き気が治ったのか、鼻息を荒げて睨んでくるジェームズを指差し言った。

 ウィルが後ろ手に縛り直してくれたようで、うつ伏せに転がっている。


 焚き火の明かりを便りに、2枚手紙を認め、彼が唯一着ていたパンツに挟んだ。


 “こいつをルークの部屋へ”


「とりあえずこれでいいだろう。」


「仕事が早いですね。おやすみなさい坊ちゃん。」


「あぁ、おやすみ。」



「フーマ様、仕事が早いのは有難いですが、夜中に家へあんな物送られては困ります。」

「も、申し訳ない…」


 依頼の完了報告に来たが、寝惚けていたのか、ギルドでは無く家に転移させてしまったようで、お叱りを受けている。


 だが、転移はある程度正確な座標が分かってないと、空間認識出来ず飛ばせないはずだが…


「と、とりあえず依頼達成でいいかな。」

「いいですが、まだありますよ。そもそも……」


 小言タイプのようだ。火のついたルークを横目にこっそり依頼書とカードをかざすと淡く光り、カードが銀色になった。


「じゃあ…俺達はこれで…」

「まだ話は終わってませんよ!」

「あははっ、また来るよ…」


 “俺を野営地へ、なる早で”


 その後野営地に戻った俺は、アベリアへ破られた服をまた買って来るよう、お金を渡してから素振りを始めた。



 ジェームズ準男爵は許可の無い奴隷売買と、それに伴う納税を怠っていた事、国土安定の重要産業である冒険者ギルド管理の職務放棄等で国家反逆罪。死罪となった。


 また、ジェームズを捕らえたルークは準男爵を叙爵。ギルド長に任命された。


 ちなみに、ヘンリー伯爵は前記の奴隷売買への関与と、不当な減税、支援金の受取り申告をしていたとして、爵位剥奪と財産、領地没収と共に国外追放となった。


 伯爵家の不正を暴いた功績として、ウィリアムは男爵となり、財産と領地は王家管理となった。

 特例として俺が管理者として任命され、ウィリアムが子につく形でこの件は落ち着いた。


 俺の二通の手紙通りに…


 この世界の処刑は前世の刑罰とは異なる。政治が絡み、国の根幹に深く関わってくる。

 その証拠に今回の一件は、瞬く間に国中へ広がり、類似した領地を持った伯爵家や公爵家の抑止力となったのだった。


 そして、庶民達の間では、この件で一役買った第三王子フーマが、奴隷解放の英雄だの、国を救う勇者だのと尾鰭のついた噂が流れていく。



 当の俺はというと、しばらく滞在する伯爵家に赴き、倉庫に向かったが、子供奴隷達は跡形もなく消え去っていた。

 床に血の跡を見つけ、彼等の虚ろな目を思い出し、涙が溢れた。


「無知っていうのは怖いなぁ…ごめんな…」


 全てを救う事の出来ない俺はヒーローでも勇者でも無い。

 こうなる事も想定していた。


 そんなこと頭では理解しているつもりだったが、現実に突きつけられると、どうしようもなく悔しくて、30歳にもなる大の男が5歳の体で泣いていた。


「泣いてもいいけど、苦しい時、辛い時は笑え」

 前世の子供時代に、部活の恩師がくれた言葉が、涙を拭いてくれた。


 仕事は山積みだ。泣いていても1つも仕事は減らない。


「さあ、仕事を始めようか。」

拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。


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誤字脱字や批評でも構いませんので、コメントも頂けるとありがたいです。


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