天上の一吸(1)
「おい!大丈夫か?」
ヘンリー伯爵領の門兵は、暗闇から現れた俺を見るや否や、駆け寄りそっと抱えた。
「お前、土の人間か!」
松明に照らされた途端、即座に長剣を向けられる。
暗闇の中照らし出された俺の髪は、酒をかけ、火で炙って乾かし脱色したため、薄らと茶色がかっていた。
「土の国はもうだめだ…徴兵と圧政で…妹達も食えずに死んでった…
助けてくれ!金になりそうな薬草なら、ほら!」
震えながらカバンいっぱいに入っている草花を見せると、門兵は互いに顔を見合わせ、仕方なさそうに首を振った。
「ついて来い。」
言われるがまま、ついて行くと領民達は隙間から哀れむように様子を伺い、通りすぎる前に勢いよく戸を閉めて戸締まりした。
暫く歩くと、王都では見られなかった立派な屋敷が建っていた。
中に入るとそのまま連行され、笑い声のする部屋の前で待つように言われ、先に門兵が入っていった。
「門の前で行き倒れの、土の国民を捕らえました。」
「なにぃ?処刑だ処刑。見せ物にしろ!」
「ですが、まだ幼い子供です。」
一瞬静まり返り、すぐに割れんばかりの笑い声がこだました。
「それを先に言わんか!中に入れろ!顔が見たい。」
中へと乱暴に引き連れられ、油ぎった中年の豚のような人間が2人、ステーキにワインを嗜んでいる。
どっちがどっちかわからないが…ヘンリー伯爵と…ジェームズ準男爵。
情報通りここにいたか…ギルド長。
「上玉じゃないか!後で俺の部屋に連れて来い…グヘヘ…」
無精髭に体毛の濃い男が、舐めるように俺の体を隈無く視姦し、下品な声で笑った。
「商品にあまり手を付けるなよ?」
俺を連れてきた騎士にまた乱暴に引っ張られ、屋敷の中を更に奥に歩かされる。
薄汚い倉庫のような10畳くらいの部屋に、4歳から7歳くらいの男女問わず、子供たちが20人くらい鮨詰めに入れられている。
「入れ。」
背中を押され中に入ると、扉の鍵が外から締まる音がした。
子供達は泣く事も無く、互いに目を合わせる事も無く、虚に床を見つめているのだった。
ちらほらと銀髪の子達がいるが、9割は魔法適性無しの金髪が占めている。
戦闘能力の無い子供が、食い扶持を減らす為に家を出されたのだろう。
子供を集めて何をしているのか…ジェームズの下卑た笑いを思い出すと寒気がする。
労働力にするにしろ、性奴にするにしろ、幼い内に徹底的に抵抗力を奪っておくのは、従わせるのに効果的だ。
即戦力にはならないが、より高く売れる『商品』なわけだ。
年中戦争中である伯爵領の村々は、男手は徴兵され女手だけで農作や狩りを行わなければならない。
能率は下がり、老人、女子供だけの村へ高額な税を取り立てる。
国から伯爵領は長きに渡る戦争によって、減税処置と支援金を受けているが…
食うに困れば春や子を売るしかない。
足がつかぬよう準男爵が二束三文で買い、御用達の商人から潤っている隣国にでも売る…といった所か。
この子達を俺なら簡単に逃すことが出来る。
穴を作る事もできるし、転移させる事もできる。
だが、ここから逃げたとしても、また違う所で奴隷になるか、野垂れ死ぬだけだ。
今はまだその時では無い…か。
「おい、ついて来い。」
髪を毟られるように引っ張られ、屋敷を出て離れに連れて行かれる。
「連れて参りました。」
扉が開くと半裸の毛むくじゃら、ジェームズに迎えられ、部屋へ入る。
ジェームズはそのまま椅子に腰掛け、入口付近で立ちすくむ俺を視姦しながら、ブランデーのような物をコップに注ぎ、回すようにコップを揺らす。
「そんなに緊張するな。すぐ慣れる。」
そう言うと一口飲み、またゆらゆらとガラスのコップを揺らす。
ジェームズは幼児趣味があり、男女問わず奴隷の子供を犯しているという噂があった。
噂が立ち始めた頃、一儲け考えていたヘンリーが肩を叩いた。下地の出来た村の奴隷売買…
ジェームズはギルド長の立場がありながら、噂から逃げるように伯爵領へ疎開した。
今は金儲けをしつつ、楽園気分で商品の子供達に囲まれているわけだ。
「そ、その…そんなに見られると恥ずかしいです…」
俺はモジモジとしながら、シャツの裾からズボンに手を掛けてみせた。
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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