段取り八分(7)
その男は振り返りながら、目配せをして人払いをした。
「お初にお目にかかります。フーマ様。私ルークと申します。」
そう言いながら恭しく礼をする彼は、目から頬にかけて傷痕があり、爽やかな顔立ちがそれを一層目立たせていた。
彼は副ギルド長として、ギルド長から全てを任されているとの事。
ちなみにギルド長は先先代の戦で武勲を立て、領地の代わりにギルドを任される準男爵家。
「冒険者家業もカースト社会って事か…早速だが、登録を頼みたい。」
「ではこちらに住所、連絡先、サインを頂いて、カードを剥がして裏にお名前をお願いします。」
これは…前世でカードを作るときの紙…
「本名は隠したいんだが…」
「カードの方はご自由に書いて頂いて構いませんよ。」
それなら…と書いていくと、筆に力を吸われる感触がした。
危機感を覚え、ウィルを見ると満面の笑みで親指を立てていた。
カードに名前を書き終えると、表面が輝きステータス画面が現れた。
「筆は魔力を流す魔獣の毛、カードは魔力を映す『月の石』が使われております。」
そういう事は先に説明してほしいな。何にせよ無知というのは本当に怖い。
「これで登録は完了ですが、何かご不明点はございますか?」
「依頼の受け方と報酬、素材買取りについて聞きたい。」
カードと依頼書を受付でガラス板のような物にかざすと、受注処理され、完了時も同様に完了処理されるらしい。
依頼書を持つ人の記憶が読み取られるらしく、虚偽申告は出来ないとの事。
素材買取りは冒険者ギルドでは行っておらず、商人や武器屋に直接持ち込んで欲しいらしい。
急なハイテク要素とアナログ要素。タッチIDの認証と直接交渉か。
「それと依頼はカードと同じ色の物を受けて頂きます。上も下も適正ランクの方に処理して頂かないと、死亡事故はもちろん昇格しにくくなってしまいますので。
ですので鉄ランクのフーマ様は、銀ランクのウィリアムとはパーティを組む事が現状出来ません。」
なん…だと…予定が大幅に狂ってしまう…
俺のほんの少しの焦りを彼は見逃さなかった。
「ただし、私からの依頼を受けて頂ければ、すぐにでも…」
「ちょっと待てルーク。お前…」
飛び出しかけたウィルを俺とアビーで宥めると、不安そうな目で見るスミレを撫でてから、座り直した。
「話を聞こう。」
「いやなに、町のお掃除ですよ。」
騎士隊長の顔パスで難なく王都を出て、小一時間歩き、小高い丘に野営の準備をする事にして、アビーには買出しのリストを作ってもらう事にした。
アビーの準備を待つ間、スミレのカードを眺めていた。
やはり彼女は魔法適性がないが、魔力を持っている。
たぶんこの世界の人は皆、魔法適性に関わらず魔力を持っているのではないだろうか…
風、水、土の魔法はその物質の事象を変える。これは適性が無ければ扱えないのだろう。
だが、火魔法は気体でも液体でも固体でも無い燃焼という現象を操っている。空間魔法も物体ではなく、三次元のイメージを具現化している。
魔法の筆のような物に手を加えれば、これらは使えるのでは…
「アベリ…あ!アビー準備出来ました!」
「それもう言ってる。それじゃ街に戻るぞ。」
野営の準備が終わったら、スミレに稽古をつけるようにウィルへ伝え、アビーの手を取る。
“俺とアベリアを冒険者ギルドのルークの部屋へ”
「お早いお戻りでしたね。ではここにカードを。」
音も立てず現れた俺達に、ルークは一瞥もくれず、煙草をふかしながらそう言った。
俺にも一本と言いかけた所で、アビーに差し出した手を叩かれてしまった。
すごすごと手を引き、光沢のない灰色の紙の上に、3人のカードをかざすと、ガラス板が微かに緑色に光る。
PCの無いこの世界で、さっきの冒険者データやこの認証データはどこにどうやって集約されるんだ…
などと思いながら不思議そうに眺めていると、彼はふふっと笑い、煙草を一本手渡してきた。
「では、お気をつけて。」
ヒラヒラと手を振る彼を尻目に部屋を出た。
次はウィル達に昼飯を買って行ってあげないとだな。
「大きい商会はどこにあるの?」
人が増えてきたので、改めて子供設定で話すと、アビーは堪えきれず腹を抱えて笑っている。
決めた。こいつ昼抜きだな…
「こっちよ。フー…あ!アーサー!」
「それもう言ってるってば。あと速いって…」
子供の俺には、女性の駆け足でもついて行くのが精一杯だ。その上アビーは自然と風魔法が行使され、追い風になっている。
夜も抜きだな…
風のように駆け抜ける中、露店の食べ物を横目に確認すると、蒸した芋に、蒸した芋と、蒸した芋。あと麦飯か…
国の内情を暗に示しているようだった。
木造の建物が現れては消えてを繰り返す中、調和を崩す石造りで二階建ての建物の前で止まった。
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
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