降誕
我が国強しと四つの国が争い合う戦乱の最中、最弱の国に小さな命が誕生した。
助産師は産声を上げた赤子を取り上げるが、その手は怯えるように震えていた。
ようやく無垢の布に包まれ、抱き抱えられた子が顔を覗かせると周囲の人間は息を呑んだ。
生まれて間もない子にも関わらず黒髪が生え揃い、潤んだ瞳は黒かった。
遥か昔より大陸に伝えられ、誰しも一度は耳にした魔族と同じように…
「この事は内密に。誰にも見られぬよう北の塔へ…」
緑の絹に金糸をあしらった服を纏った一際大きい体躯の男が、我が子を抱えながら室外に漏れず響くように低い声で告げる。
初老の紳士が男の方へと一歩近づき、堅苦しい黒服を一切乱さず恭しく礼をする。
それを見るや否や、隅に控えていた女中と軍服の男は赤ん坊をその場にあった布に包み、慌ただしく部屋を出て行った。
怯えた顔をしていた助産師も察したように出て行き、部屋には父母と黒服の3人となった。
出て行く2人に目もくれず、初老の男は顔を下げたまま尋ねた。
「して、名は如何致しましょう」
王は疲弊しきった王妃を見遣る。
それから暫く石畳へ、その鋭い眼光で穴を穿つように視線を止めていた。
大きく息を吸い込み、今度は目を細め黒ずんだ天井に思いを馳せるように見つめていた。
「フーマだ。第三王子フーマの世話はアベリアとウィリアムに。お前も気にかけてやってくれ…セバス。」
「かしこまりました。では失礼致します…」
セバスと呼ばれた初老の男は、顔を上げると扉の前まで行き、再度2人に恭しく一礼し、静かに部屋を去った。
王はベットに跪き、力を吐き出し横たわっている王妃の触れれば壊れてしまいそうな手を握る。
「すまない…」
「…構いません。すべてはこの国のため。」
部屋には質素なベットに片肘を付き、決意の眼差しを朝日に向ける王と、着きかけた煙草のような煙が宙に踊っていた。
拙い文章ですが、読んで頂きありがとうございました。
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】に評価を頂けると幸いです。
誤字脱字や批評でも構いませんので、コメントも頂けるとありがたいです。
評価ボタンは励みになりますので、何卒応援よろしくお願いします。