男の愛し方、女の愛され方
世紀の魔女ジュール・ブーシェとダイキの魔法合戦!
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「これだけ多彩な呪文を、それも下手なのも上手いのも取り混ぜて使える魔女はそうはいない。そして、この燈台の形かな。
もう死んでるくせに、凄い魔法使いだから魂は残ってしまったんだろ。傍にいたけりゃ人魂として浮遊してろ。なんで若い女の子の身体を奪う?!」
「ほんと、男の理論って味気ないわよね。人魂になってあのひとの周りを漂ったって仕方ないの! 女はね、いつだって綺麗でいたい、身体ごと愛されたいのよ! 恋も知らない若造は、だから嫌だわ」
「オレが恋を知らないって? 青春時代を忘れた婆さんの相手はこっちこそ疲れる……」
「婆さんって、よくも言ったわね!」
「そういう歳じゃないか。校長とふたりであの学園創った時、もうオバサンだったろ? 親子ほど年齢が離れてるのにあのバカ校長が『それがどうしました?』ってプロポーズしたって聞いてるぞ?」
「なんでそんなこと知ってるのよ? 学園史にも載せてないでしょ?」
「だからバカだって言うんだ。この髪の色が好きなんだろ? トパーズのような、ライオンのたてがみのような色が。オレが誰だかわからないのか?」
「同じ色だってレオノールじゃないじゃない。ほんと、見かけ倒し。若返り魔法で会いに来てくれたと思ったのに!」
「めっちゃ浅はか。母さんのほうが絶対いい女だ!」
丁々発止の口喧嘩――以前の、これはただの罵り合いだ――を聞いていた女ユーキが柔らかい声で尋ねた。
「ダイキって、レオノール校長の息子さんだったの?」
「ああ、そうだ。あのバカくそ親父がこの魔女の後に愛したのがオレの母親」
女顔でユーキが見上げるから、黒髪をわしゃわしゃして顔をオレの胸に押し付けた。
――――オレの生い立ちなんてクラスメートどころかお前にも話してなかったよな。
魔女に向けて言い放った。
「アンタが死んで10年後、バカ親父はやっと好きになれる女を見つけた。オレはめちゃくちゃ晩婚の子だ。だがな、オレはアンタに恨みがある」
「こっちこそ、レオノールを私から奪った女の息子なんて許せない!」
「母さんは、親父の胸にはいつもアンタがいるって淋しがってた。死ぬ直前に話してくれた。心の中にアンタのフォルダと自分のフォルダがある。自分とのフォルダに思い出を重ねてくれたけども、ふと放心したようにアンタのファイルを開いて眺めてるってよ」
「当り前じゃない、私がレオノールの運命の相手なんだから」
「やっぱりバカだ。母さんのほうが大事だから、アンタの魂が浮遊してる可能性が高いのに探してないんだろ? 母さん死んだのはもう4年前なのに。この燈台のことだって知ってるかもしれないぜ? 無視してるんだろが」
「無視―っ?」
「そのせいで、こっちの村の女の子の犠牲が増えてしまった。こんな情けないことがあるか? 大人なら自分の恋は自分でカタぁ付けろよ。他人様の娘さんさらって身体奪ってうじうじ待ってるなんて、世紀の魔女のすることかよ!」
「言っていいことと悪いことがあるわよ? このまま帰れると思ってるの?」
「そっちこそ、オレの魔力がどんどん回復してるのにおしゃべり続けて、ただのバカ?」
魔女ジュール・ブーシェが呪文詠唱に入った。
「ユーキ、オレの背中に貼りついてろ。お前には1ミリの傷もつけさせない」
防御結界を強めよう。何が来ても弾き飛ばしてやる!
「~同色に染まり躰は繋がれて共に生きるが真愛。見るものを見、聞くものを聞く。アルティメットユニゾン!」
相手の詠唱に負けないようオレの声を響かせる。
「~薔薇に百合、花に色あり恋に色あり。相が違えば出逢いも合わず。何ぞ臆するものかは。リアルラブデュース!」
誰だろうが恋した相手を守るというオレの究極結界が鏡となって、魔女の同化魔法を光の粒子に変えた。チラチラと部屋中に飛び散る。
「こしゃくな。その無能な女男と同一化すればアンタの魔力なんて無に等しいのに」
「あのな、オレとユーキは既に繋がってんだよ!」
ふっと笑いが洩れた。
「アンタ、こんなちゃちな同化呪文でアーニャにとり憑いてるのか? 両想いじゃなきゃ威力半減だろ? とり憑くなら好きな相手にしろよ! 攻撃、行くぞっ!!」
両手の間に気を溜めてから、腕を力強く突き出す。
まずは拘束呪文だ!
「~七つの海、七つの闇、足を縛り手を括り、くびきに繋げ、悪しき魂。孤独は蟲毒と自覚するのみ。モノ!」
パシッ。玉座の真上、天井の大理石にひびが入った。
「ジト!」
ドカッ。 魔女の後ろ、向かって右の壁に丸い穴が開いた。
「リテ!」
バコッ。オレの右脇横の大理石が壁から外れ落ちる。
「トラ!」
ガツン! オレの背中右側の壁が軋む。
「ペン!」
ダダッ。背中左側の壁が崩れる。
「タヘ!」
ピキッ。左腕側の壁が割れた。
「キサ!」
ドコン。魔女の後ろ左側の壁から、巨大ビー玉のような大理石が転げ落ちた。
「ヴォイスレス・ブラーーーーーースト!!」
中央で赤い炎がさく裂し、部屋全体にはしゃらしゃらと大理石の欠片が飛び散る。空気は一瞬にして白濁した。
by 秋の桜子さま
「ヴォイスレス・ブラスト」が陸 なるみの二つ名だと教えてくださったひだまりのねこ様と、早速バナーを作成くださった秋の桜子さまに感謝を捧げます。
ダイキの詠唱抜き魔法にぴったりです!